名探偵じゃない方のコナン~~黒い海岸の女王~~:ロバート・E・ハワード(小説)
日本で一番有名なコナンは江戸川コナン君だろう。子供の外見のくせに大人の知能を持っているというキャラクターで一躍日本の大人気者になった。最近ではルパン三世とも対決するとも言われている、あのコナンだ。
だが海外でコナンと言えば、こっちの方が有名だろう。そう、ヒロイック・ファンタジーの源流にして頂点、コナンシリーズに登場するキンメリアの野蛮人、コナンだ。
映画ファンの方のほうがよく知っているかもしれない。シュワちゃん主演で映画化されており、そっちのビジュアルが強烈な印象を放っている。私も見たかったのだが、残念ながら見れなかった。確か小学生の時だったと思うが、たまたま金曜ロードショーか何かで放送していたのだが、宿題があって見せてもらえなかった。そんな思い出のあるコナンだが、つい最近アマゾンで発見したので気になって買って読んでみた。そう、またアマゾンである。書籍の密林である。
とにかく、買って読んでみた。
期待しすぎていたのだろうか。なぜかそこまでのめり込めなかった。面白くないわけではないのだが、何か違和感があった。それはきっと文章の書き方が違うこともあると思う。元々の翻訳者は1909年生まれ。鬼籍に入ったので、新しい翻訳者が引き続き翻訳して今回の『新訂版コナン全集』発売の運びになったのだが……何しろ書き方に古臭さを感じた。元の英文がそうなのか、翻訳者が昔の人だからそういう書き方になったのか。さらに文章自体がかなり荒削り。これは元の作者が30歳で夭折したことからある意味仕方ないのかもしれない。それにしても、このロバートという人、母親が死んだことがショックで後追い自殺したというかなりのマザコンだったらしい。小説の内容はマザコンとは程遠いが、逆にその裏返しなのかもしれない。詳しいことは心理学の専門家にでも任せるにして、とにかく骨太な内容のヒロイック・ファンタジーであることは確か。ただ、時代遅れ感は半端ない。当たり前だ。これって1930年代くらいの作品なのだ。骨太な作品だが、今の日本で言うとサブカル、ライトノベルに相当するように感じた。私も最近の異世界転生ものなどは批判する口だが、ファンタジーというジャンルも当然ながら時代と共に移り変わっていくし、そのことによって価値を失わないのだ。いつまでも同じものが通用しないというのは、個々の作品にとっては厳しい環境かもしれないが、ジャンルや業界全体にとってみればいいことなのかもしれない。
厳しい意見を書いたが、決して面白くない、くだらないわけではない。コナンは相変わらず大活躍するし、意外にも筋肉だけでなく頭も使って戦う場面もある。そして連作短編なので一つ一つも物語を気軽に読み始めることができるのもいい。 『氷と炎の歌』は小説界の戦艦ヤマトと言っていいくらい重厚だが、あの分量ゆえに他人に気軽に読み進められない。また、作者が生きている間に完結するのか、という読者にとって最悪の不安要素がある。
コナンに話を戻すと、何となく前に読んだ『ゾティーク幻想妖異譚』に書き方などが似ていると感じたのだが、それもそのはず、両方とも同じ雑誌に掲載されていたことがあったという。コナンの作者もクラーク・アシュトン・スミスを意識していたのだろうか。あっちが「幻想と怪奇に彩られた退廃した文明」を描いたものだとすれば、こちらは「血と暴力が支配する活気ある野蛮」を描いた感じだろうか。読みやすさはコナンの方だし、コナンの方が長さもちょうどいい。
ストーリーだが、ややご都合主義的な展開が目立つか。小説というのに求められるものが時代によって違うのだろう。現代では矛盾なく物語を構築し、読みやすい文章で書くといった技量面が重視されているように見える。昔の小説はアイデアとか世界観が重視されていたのだろうか。
凶悪な野蛮人がひしめく超古代の大地で活躍する筋骨隆々たる英雄コナンが、町の貧民街や廃墟や魔法使いの住む塔を舞台に大活躍する――そんな世界観にひたりながらノリで楽しむことができるなら、かなりハマるのではないだろうか。
ただし、後年パクられまくってファンタジーの大きな一角を占めることになったコナンの世界観は、今の人から見ると少々ありきたり感はある。定番の料理ならではのおいしさはあるが、もう少しひねりのきいた味が欲しければ『ゾティーク』の方だろうか。ただし『ゾティーク』は少し作品にムラがあるのがなぁ……長い年代にわたって書き続けられたものをまとめたので仕方ないにせよ、もう少し安定性が欲しいところ。その点、コナンは短期間に一気に書かれただけあってどの作品も粒ぞろいの精鋭だった。
それにしても、ルパン三世は日本生まれでよかったね。キンメリアのコナンと対決することになってたら多分死んでただろう。でもまあ、知力と技で宝を奪う盗賊と、暴力で宝を奪う盗賊、戦ったらどっちが勝つのか見てみたい気はするが。
あと、表紙絵はやっぱり酷いと思う。何を思ってこの表紙絵を採用したのか謎だ。絵自体は酷いとは思わない。画家が自らのコナンをイメージして描いたのだろう。ただし、それが一般読者のイメージを完全にぶち壊しにかかっている。画家個人が「私はこういうコナンをイメージしました」というなら話は分かるが、これはあまりに酷いでしょう……何か仏像でこいつによく似たやつあったような気がするぞ。外見上の特徴も描写されているのと全然違うし、何度も言うが画家個人の趣味で描くならともかく、それを表紙絵にして押し付けるのはどうだろうかと思う。今風のイラストレーターを起用して描かせた方がよほど無難ではなかろうか。絵自体は素晴らしいし、本も素晴らしいのだが、なぜかミスマッチして微妙という、そこだけ残念な結果になってしまった。




