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『アクメツ』:漫画

 かなりのインパクトと深みをもった漫画作品。また、政治をテーマに扱いながらも重苦し過ぎず、エンターテイメントとして見せている点も素晴らしい。

 仮面ヒーローモノの系譜として描き始めたらしいが、すでに仮面ヒーローを超えている。というより、善悪の判断を超えたヒーロー、と言えるだろう。

 アクメツはひたすら“悪”と認定した政治家を殺していく。今の日本の政治を見ていて、「こいつ死ねばいいのに」と思うことはよくあることだろう。それを我々が思う通りに実行してくれるのが、このヒーローだ。アクメツは日本を蝕む汚職政治家を次々と殺していく。この魅力的なアクメツのいろんな設定について話してもいいが、それよりはアクメツでなされている問題提起の方を見ていきたい。

 『アクメツ』は暴力を肯定したものではない――作者も前書きで書いてある通りのことだ。一見すると「政治の腐敗は暴力でしか解決できない」様子を描いているから、「暴力肯定」のように見えるが、「暴力肯定」と「暴力でしか腐敗した政治権力は変えられない」という二つの言葉は厳密には違うものだ。暴力肯定は作者の意図、意見だが、「暴力以外に腐敗した政治権力は変えられない」はほとんど事実だからだ。

 実際に歴史を見ても、腐敗した政治権力を覆すのは暴力以外にない。でなければ織田信長の出番はなかったろうし、明治維新だって規模は小さいながら軍事力によって幕府を倒すことによってなされた。

今ではそれは許されない。それは作中でも何回も強調されていたことだ。「テロはダメ、絶対!」なのである。ではどうやって「政権交代」を行って、腐敗した権力を変えるのだろうか。

 そのために選挙がある。しかし、である。その選挙も有効な手段ではないことは、我々は先の民主党の政権奪取によって知ってしまった。政権を取った民主党だが、その後は内政、外交における失策の連続によってあえなく国民の支持を失った。直後に行われた参院選では目標とした過半数も取れず。さらに間の悪いことにそこに東日本大震災が直撃、原発事故の対応の悪さも相まって国民の支持はさらに落ち込み、現在の自民党政治へと逆戻りしていった。元々自民党政治への不満と焦りが民主党に政権を取らせたのだが(それも3分の2を占める大勝利)、結局は元の木阿弥だ。もちろん、この責任は空理空論を弄んで実際の政治力を養ってこなかった民主党自身の責任に他ならない。民主主義の選挙が必ずしもうまくいかないという意味で、この民主党の政権奪取と、そこからの転落は歴史的事件だと思う。民主党はそう言う意味でもまさしく国民を裏切った「無能な政府」としてのちに裁かれることだろう。

 『アクメツ』はこの民主党の事件よりもだいぶ前に描かれたのもあってか、はたまた明確な責任者を特定できないためか、選挙制度の問題についてはほとんど触れられていない。せいぜい地元に権益と公共事業を持ってくる政治家が当選すると書かれてある程度だ。ただ何にせよ、選挙制度そのものすら腐ってしまった現在、一体どうやって政権を変えればいいのだろうか?

 結局暴力しかないだろう。現在中近東で行われているような激しいデモが、将来国民の間に沸き起こるかもしれない。もっと最悪なケースを想定するなら、自衛隊による軍事クーデター。三島由紀夫がかつて行って失敗、自決したが、今のような政府ではありえない話として一笑に付すことができるだろうか。そしてもっと現実味を帯びているのが外国勢力の侵略。どことは具体的には言わないが、すでにその手は日本の裾を引っ掴んでいる。こういうことを言うと「ただの心配のしすぎ」とか「そんなことありえないよ」とか言われそうだが、どこの国でもそういう有事に対する備えや法整備はしている。そもそも東日本大震災自体も「ありえない」ことだった。2010年に「民主党が政権を取って、M9の大地震が東北で発生する」なんて言ったら、多分気が狂ったとでも思われるだろう。有事にたいする備えが全くの不足なのもこの国の常態と成り果てている。

 話を選挙に戻すが、先の民主党政権ではっきりとしたことは、選挙で誰が勝っても既得権益はそう簡単になくなりはしない、ということだ。政治家は口先だけの”公約”を選挙の時だけ言うが、結局その公約とやらが実行されることはない。

 どうやって実行させればいいのだろうか?

 詐欺師はどうなるか? 当然ながら警察に捕まって裁判で裁かれる。そして刑務所に送られる。結局は、力による裁きだ。

 「じゃあ、警察権力を強化しまくって悪徳政治家をバンバン刑務所送りにしてやればいいじゃん!」という発想がありそうだが、結局はそれも警察という組織の権力を増大させるだけで、その警察もやがては腐ってしまうだろう。それにこの発想自体がアクメツと同じ、暴力によって権力腐敗を取り除くというものにほかならない。一時期はソ連などの共産主義社会で行われたことだ。

 このアクメツ問題(腐った政治権力は暴力でしか倒せない、という問題提起)は、明らかに今の世代の問題だ。これから民主主義が続いていくためには、どうしても解決しなければならない重要な問題だ。

 そしてこれは、人間の軍事力が人間自身を容易に絶滅させるくらいにまでなったせいで、戦争による問題解決が取れないでいる現在の国際社会の問題そのものでもある。北朝鮮はなぜ今でも続いているのか? 中国が支援しているとか色んな情勢があるにせよ、根本はここにある。そして結局は被害者である拉致被害者が泣き寝入りという酷い結果になっている。

 それが国内では腐った政治家が栄え、国民は負担ばかり背負わされる、というバカらしいことになっているわけだが、それではこれを暴力以外でどうにかする方法はあるのだろうか。

 まあ、一応あるといえばある。矛盾しているが、結局選挙という制度があるのだから国民が選挙で政治家をふるいにかければ良い。

 最近おこなわれた参院選だが、正直言うと私はこの参院選の投票に行かなかった。行く意思はあったのだが、ぶっちゃけ言うと朝10時からずっと『戦場のヴァルキュリア』をクリアするために悪戦苦闘していて完全に忘れていた。ラスボスが異様に固くてクリアまでに時間がかかったことなど色んな原因があるが、今後は忘れないように気をつけたい。

 要するに何が言いたいかというと、国民がもっと政治に関心を持って投票に行くべきなのだ。(そして選挙行くの忘れてごめん)全ての原因が「国民の無関心」のせいだとは思わないし、ほとんどは政治家の無為無策のせいだ。何より、国民が政治に関心を無くしていったのは政治家の無為無策に呆れたからなのだから。

 そしてマスコミの責任。無責任な報道ばかり繰り返して、有事法制にすら反対するようなマスコミ。ネット上では「マスゴミ」と言われることが多いが、政治家と同じく責任を一切取ろうとしないからまさしく日本のゴミ(特に朝日)であろう。『アクメツ』でも後半の方でチラッとマスコミの責任にも言及している。

 それでは、今後の選挙はどう変わっていくのだろうか。最近ネットの選挙利用がようやく解禁されたらしいが、おそらくはネットをうまく使った新しい勢力が徐々に登場してくるであろう。それは旧来の政治家がネットを利用する、というよりも、ネット空間から新たな政治家が登場してくることを期待している。すでにニコニコ生放送なんかで政治家の討論会などが行われているし、これからの情勢では十分にありえることと思うが、どうだろうか。

 まあとにかく、『アクメツ』の描いた日本の具体的な個々の腐敗(天下りとか既得権益とか)も重要な問題だが、それよりも「暴力によらずに腐敗した権力を入れ替えることは可能か?」という問題提起の方が主題だろう。

 しかし、途中までは明らかに実在の政治家に(意図的に)似せた悪徳政治家を登場させ、しかもそいつらをバッサバッサとなぎ倒していく様は『必殺仕事人』や『水戸黄門』に通ずるカタルシスすら感じる。そういったヒーローモノと違うのは、主人公のアクメツ自体を自覚的に悪として登場させていることだろう。

 話は変わるが、最近流行りの異世界転生モノでも内政系の話というものが増えてきているようだ。これは個人的な感覚かもしれないので実態は違うかもしれない。しかしまあ、そういった作品で多いのは内政で問題を抱える異世界に飛ばされて、そこで主人公が改革を進めていく、というものだ。もちろん、殺伐とした戦闘などではなくほのぼのした独特の雰囲気を出しやすい、日常の話なども作れるから、と理由は色々あるだろう。

 しかし最大の理由は「日本自身が改革を必要としているから」ではないだろうか。なんだかんだ言って関心がなくても、テレビやネットで政治情勢は何となく耳に入ってくる。社会に出て働いた経験が少しでもあれば、社会というのがどれほど多くのうんざりするような問題を抱えているか、肌で実感できるはずだ。そういった空気がついに異世界まで出張してきたのではないだろうか。

 現実離れした空想を「絵空事」と呼ぶが、物語の世界は必ずしも絵空事ばかりではない。むしろ現実の問題や、作者の経験が色濃く反映されているのだ。

 それに異世界を舞台にしてしまえば、現実の政治を批判しても全く問題ない。江戸時代もお上批判は公然と行うことはできなかったものの、それならば架空の物語世界でそれを行うことで庶民の溜飲を下げさせていた。

 また、あまり政治色を出したくない、というのもあるかもしれない。公然と政府批判をしてしまうと小林よしのりの『戦争論』とか『ゴー宣』みたいになって、政治評論っぽくなってしまう。

 『アクメツ』も「政治について言いたいことはあるけど、でも直接言っちゃうと政治批判本になっちゃうし……」という葛藤があったのかどうかわからないが、リアルに基づきつつも荒唐無稽な設定とヒーローモノの文脈を思い切って取り入れることで見事なバランスを保ちながらエンターテイメントとして昇華することに成功した。それでいて異世界転生モノのようにエンターテイメントに偏りすぎることなく、ちゃんと現実の政治を告発するテーマを失っていない。

 このマンガが描かれたのは最終巻で6、7年前だが、その告発は時代遅れどころかますます身に迫ったものとなりつつある。作者自身は、今の日本を見てどう思っているのだろうか。ちょっと気になる。一回外伝で東電の問題を扱ってアクメツして欲しいとも思う。

 何にせよ、理不尽な政治権力に対する怒りを仮面ヒーローとして具現化して描いた『アクメツ』は、いつ時代遅れの漫画になるのだろうか。本当にアクメツがなくなる日が来るのだろうか。

 そんな深いテーマを含んだ快作・怪作である。


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