『史上最強の哲学入門』:飲茶(哲学入門書)
ある日、たまたま本屋にブラッと寄って立ち読みしていた時のことだ。だいたい書籍は今となってはアマゾンでポチることが多くなり、本屋で購入することは滅多になくなってしまったとはいえ、たまには本屋でぶらぶらしながら掘り出し物を探すのもいいと思っての特になんの考えもない行動だった。
ところが、やはりたまには本屋にも行ってみるべきである。掘り出し物が置いてあった。まるで誰かが罠でも仕掛けたかのように。
小説コーナーを一通り見てから、なんとなくの習慣でイラスト技法書コーナーもさらっと見て回り、特にいいのがなかったなぁ、と思いながら宗教コーナーへ向かった。宗教コーナーは面白い。創○学会や統○教会、幸福○科学など、様々な基地外宗教本がところ狭しと並んでおり、人類の狂気を一箇所に集めた場所に禍々しいオーラすら感じる。そういえば一時期は江原啓○のオーラ本も置いてあったし、細○数子の占い本もあったなぁ。
特にオススメは宇宙人やUFOを扱ったオカルト本。作者は本気なのか、それともおちょくって書いているのか分からない、あの独特のノリが寒い笑いを誘い、暑い夏にはピッタリの清涼剤になる。幽霊より幽霊の存在を説く人間の方がよっぽど狂気じみていて恐ろしいという真理を体感できるのもグッドだ。
そんな人生の清涼剤として欠かせない宗教本コーナーだが、たまにすごくまともな本が置いてあってビックリすることがある。名前は忘れたが、将来の科学技術がどうなるかについて予想した本などは、もちろん「んなことあるか~?」と思ったものの、なかなか面白い内容だったし、何よりSF好きにはたまらない話だ。もう一冊はイギリスの生物学者リチャード・ドーキンス氏による『神は妄想である』。
神という存在を全否定したタイトルが「宇宙は進化する」とか「聖霊降臨」とか「人間☆革命」とかいう本に挟まって置かれてあるのだから、最初は怪しい新興宗教が目を引くためにわざとこういうタイトルにしたのかと疑ったが、そんな心配は杞憂だった。中身は生物学者としてのキリスト教的唯一神の否定。タイトル通り、というかタイトル以上の神と宗教の否定には日本人でも「おいおい、そこまで言っちゃうの?!」と不安を感じるに違いない。神や宗教は“妄想”どころか「むしろ害悪しかもたらさない」とまで言っているのだから、大した学者だ。それも日本でならともかく、キリスト教の影響色濃い欧米で言っているのだから、日本の学者と根性が違う。当然各方面から膨大な抗議が殺到しているらしいが、中にはドーキンス氏の勇気と理性を褒め称える人もいる。私もこのままどんどん突っ走ってもらいたいと願っている。実際にドーキンス氏の言っていることは、社会にとっても宗教にとっても非常に学ぶべきところが多いと思うからだ。
さて、そんな素敵なことがいっぱいの宗教本コーナー、またしてもやってくれました。やはり最後の希望は神なのかもしれない。そこにたまたま置いてあったのがこの『史上最強の哲学入門(著:飲茶)』(ちなみに西洋哲学と東洋哲学を扱った二冊セットだった)。
「史上最強」なのに「入門書」という、謙虚なのか傲慢なのか分からないが、表紙絵があのバキの板垣恵介なのも相まってインパクトだけは抜群のこの本が宗教本コーナーで目をひかないわけがない。明らかに場違いな表紙……っ! いかついオッサンが血管を浮かせて脂汗ダラダラな横顔が描かれており、哲学の「考える」ということは「全身のカロリーを消費する、脳という筋肉を限界まで酷使したスポーツなのだ!」と言わんばかりの表紙絵。しかも西洋哲学編と東洋哲学編の二冊の表紙絵が、互いに向かい合うようにしてお置かれていた。本屋の店員も分かっとるな。
作者の飲茶氏は、『バキ』がものすごい大好きなようで、たまたまめぐり合わせで板垣氏に表紙を描いてもらえたという。それもあってか、中身にはバキのセリフのパロディがこれでもかと詰め込まれており、読みやすいだけでなく脳に残りやすい上、わかりやすくインパクトもあって面白いという、まさに文字通り「史上最強の入門書」に仕上がっていた。
以前から哲学に関しては「難しすぎて何言ってるか分かんねえよ!」という思いが強くあったが、それを現代的な感性と言葉と比喩を用いてわかりやすく解説してくれている。細かいところは間違いや書き落としがあるだろうが、大筋の本質についてざっくり解説してくれているので、哲学への入門書としては最適の本だと思う。実際に儒教の項目で「忠と孝」には触れられていない。しかし、儒教の本質についてはちゃんと解説してくれてある。
哲学に興味はあるけど難しすぎるし、そこまで深くなくていいからさわりだけ知りたいんだが……
そんな人には特にオススメ。これを読んで哲学を語ってはいけないと思うが、少なくとも大まかな内容を把握するのには十分役に立つ。入門書だが、哲学の奥深さを紹介しており、また「哲学って本当はこんなに面白いものだったのか!」と考え直すきっかけにもなった。
そもそも、哲学なんてそんなもんでいいと思う。それぞれがそれぞれの人生の問題を考えていく。そのために役に立つものを吸収していければ、それでいいのではないだろうか。学問的に哲学を極めることはもちろん否定しないし、それはそれで意義があることだ。この本でも述べられている。しかし、僕らはただの普通の人間なのである。普通に生きていくことだけで日々を忙殺されているのだ。そんな深く考えることだけに集中していられるわけではない。先ほど述べた通り、考えるとは「全身のカロリーを消費する頭脳スポーツ」なのだ。ロダンの考える人はそこらへんを表現しているらしい。
我々はプロのアスリートではない。だから楽しむためにスポーツをやればいい。しかし、もしかしたらこの本を読んで本当に「プロの哲学アスリート」になる人が出てくるかもしれない。
私も著者と同じくそれを望んでいる。それくらいの意気込みを持って書かれた本だ。
ちなみに飲茶という著者名だが、これはドラゴンボール由来ではないことを書き添えておこう。これにはちゃんとした哲学的な意味が込められている。それも読んでもらえばよくわかると思うので、まずは本屋の宗教本コーナーへ行ってみよう。ひときわ異彩を放つ表紙絵の本が置いてあるはずだ。
ドアの前まで来たら、後はドアを開けるだけ。
あくまでこの本は入門でしかない。しかし、その背後に広がる広大な哲学の世界を見せつけることに成功していると思う。
書き終わって思ったけど、どのコーナーに置いてあるかは本屋によって違うかも……




