『トミーノッカーズ』:スティーブン・キング(小説)
諸君、私はスティーブン・キングが大好きだ。
諸君、私はスティーブン・キングが大好きだ!
ホラーで、サスペンスで、アクションで、スプラッターで、青春もので、終末もので、短編で、
あらゆるジャンルで創作されるキング作品が大好きだ。
そう、何を隠そう、私はスティーブン・キングの大ファンである。最初にキングと出会ったのは『ダーク・タワー』を何気なく本屋で手に取り、何となく気になったので読み始めたことだった。なに、この小説? と思って手にとったのだが、外見通りに何の小説か訳がわからないまま、でも何となく面白いと思って読みすすめていた。そうこうしているうちに、『ダークタワー』も最終巻が刊行、この話がどういう結末になるのか全く分からなかったので期待しながら読んだのだが、そのあまりに衝撃的な結末に読み終わった夜中に呆然とした覚えがある。この人は天才か、それともただのペテン師か?――読み終わったあとにそんな疑問が頭をよぎり、それを確認するためにもう一回『ダークタワー』を読み直した。文庫本で全17巻ある長い物語だったが、結局すぐに読んでしまった。再読して「キングは天才」だという確信が持てたので、キングの他の作品を読もうと思い、本屋に直行、デビュー作のキャリーから順番に読み始めて、その確信は当然の真理へと昇格した。そして今もキング作品を買っては読み続けているのだが――
このレビューではあまりキング作品を紹介してこなかった。というのも、このレビューを書いた頃にはキング作品はだいたい読み尽くしたこともあり、他の作家に興味が移っていた。だからこのレビューで扱ったキング作品は『不眠症』の一作だけだし、『不眠症』は今までのキング作品ほど、自分にとってヒットしなかった。それゆえ、もしかしたらキングについてあまりよく思ってないのではないか、と感じ取られているかもしれないが――私はキング作品が大好きだ。
ここでこれを語り尽くすといつまでたっても終わらないので、今日は最近読んだ(と言っても去年読んだやつだが)『トミーノッカーズ』という作品について書いていきたいと思う。
この『トミーノッカーズ』もキング作品らしく、大変長い物語になっている。上下2巻。各600ページくらいある。キング独特の「前戯はたっぷり300ページ」という書き味なので、物語前半は非常にゆったりとした展開で焦らしまくる。もちろん、それがつまらないのではなく、独特の雰囲気と描写によってきっちり起伏に富んだストーリーとなっているのも見事。主人公のジムとその元恋人のアビを中心に描写されてゆくが、だんだん物語が進むにつれて舞台となる町の人たちの描写もだんだん熱を帯びてくる。その描写する対象の切り替えも見事だ。
実を言うと『トミーノッカーズ』には、どことなくゲームの『デッドスペース』に出てきたマーカーと似たような役割を果たすものが出てくる。
アビが地中から掘り起こす宇宙船がそうだ。そう、宇宙船である。それも昔のオカルト雑誌に出てくるような、いわゆるアダムスキー型の円盤の宇宙船である。物語はアビが地中からちょっとだけ突き出たこの宇宙船の端っこでつまずくところから始まってゆく。
この宇宙船を地面から掘り起こすにつれて、だんだんと町の隠された歴史が明らかになってゆき、また町に異変が舞い降りる、といった具合だ。その異変を引き起こしているのが、不気味に光り輝く円盤、というわけだ。何やらマーカーに似たような感じがした。
円盤はアビを精神的に支配して、地中から掘りおこしてもらおうとするのだが、これはマーカーの精神汚染とよく似ている。さらに円盤は町の人をも変異させていくのだが、これもマーカーによるネクロモーフ発生に似ていると思う。
まあとにかく、序盤からゆっくりと、化石を掘り起こすようにしてこの物語は進行してゆく。それを重厚な筆さばきで、一切逃げずに書ききった。
中盤以降展開される、町の人々の描写も良かった。変異する住民に対して、なんとか食い止めようとするのだが……というお決まりの展開と言えばそれでおしまいなのだが、それが面白い。
また、ダークタワーでもそうだったが、宇宙的な規模の話がローカルな町で繰り広げられる、というのももはや言わずもがなだろう。町の名前はヘイブンという諷意あふれる名前だ。天国の英語読みでもあるし、同時に「避難所」という意味もあるらしい。キングの話はほとんどの場合、宗教的なモチーフが出てくる。ホラーと宗教というのは思っているよりよほど深いつながりがあるのだろう。ひょっとすると、恐れたり崇拝したりという違いだけで、両者は結局同じものに向けられているのかもしれない。同じものを崇拝すれば宗教になり、恐ればホラーになる、という感じだ。
とにかく、全体的に非常によくできた話で面白い。キング好きのみならず、他の読書家にもおすすめしたい一品だ。
ただし、これは望み過ぎかもしれないが、デビュー作『キャリー』や名作『デッドゾーン』など、読み手の感情を揺さぶる傑作とまではいかないところが少し残念だった。全体的な話もありがちといえばそうで、話全体の予想も大体つく。ただ、そこに至るまでの描写とか、キャラクター、翻弄される町の人々の描写など、見所は大いにある。
読んで損はない作品だと思う。




