ゼア・ウィル・ビー・ブラッド:(映画)
そこに血があるだろう――という意味だろうか。英検5級の私の英語力ではこれが精一杯の翻訳だが、たぶんそんな意味のはずだ。これはアメリカのとある石油王、というか石油貴族の話だ。日本で言うと明治維新のちょっと後くらいの時代だ。ちょうど『ブラッド・メリディアン』の時代にもかぶる。一通りインディアンも虐殺し終わって、アメリカの領土が西海岸にまで到達、少し前にはメキシコとの戦争にも勝利して、ほぼ今の領土を手に入れた頃なんだろう(アメリカ史に詳しくないので、詳細はよくわからないが)。この頃、アメリカンの西部では石油がメッチャ出たらしい。最近シェルオイルなるものがアメリカで発掘されようとしているが、今では信じられないことに元々アメリカは産油国だった。戦前まで日本にもバンバン輸出しており、日本は石油のかなりの割合をアメリカに頼っていた。結局はアメリカを含むABCD包囲網によって資源を断たれ、補給のままならなくなった日本軍は敗北するのだが――
今だに石油を巡って世界各地で武力だったり財力だったりによる争奪戦が繰り広げられており、ある意味石油の歴史は人類の血塗られた歴史そのものに重なるのかもしれない。この映画では石油が吹き出す直前にヴァイオリンによる不安を掻き立てるようなBGMが流れたあと、地面が吹き出した血のごとく、石油が空高く吹き上がるシーンがある。石油が見つかってうれしい、のではなく、まさにこれから石油を巡る血の歴史が始まる、とでも言いたげなシーンだ。
主人公のプレインビューという名の、架空なのか実在なのか分からないがたぶん実在した石油屋を元に創作したのだろう、ヒゲが魅力的なあるオッサンが主人公だ。このプレインビューには息子がいる。息子は、最初は赤ん坊だがだんだん成長して大人になってゆく。だが、この映画では父と息子の成長譚が描かれるわけではない。結局、この親子は石油のせいで仲違いしていくこととなるからだ。しかも母親が息子を生んだあとにすぐ死んでしまったのも大きいだろう。プレインビューは金にはがめついし、実際に金は有り余るほど持っていたが、映画を見る限りあまり女遊びなどには興味はないようだ。再婚することもなく、孤独な生活を続けている。これはよほど妻を愛していたがゆえなのか、それともプレインビューの人を信じない、他人は全て俺の金儲けの道具という思想ゆえの孤独なのか、その両方なのはわからない。ただ、プレインビューは石油を発掘し、金を儲ければ儲けるほどに幸せではなくなっていったことは確かだ。
このプレインビューの金儲けは悪辣だが、同時にどこかすっぽ抜けて痛快ですらある。ある事件がきっかけで聴覚を失った息子を施設に捨てるようにして預けたプレインビューだが、そのことはすでに周囲の人間に知れ渡っていた。ある日、プレインビューは油田からパイプラインを引くために、その土地の地主を訪れるのだが、その地主からの条件は、「第三の啓示」という、新興の胡散臭い宗教団体に入信することだった。当然ながら、その新興宗教の若い教祖も、信者もすべてプレインビューが息子を捨てたことを知っている。集まった信者たちの前で自らの「罪」を自白させられるという、もはや洗脳に等しい入信の儀式が終わった直後、カメラに向かって(誰にも聞こえないような小さな声で)「パイプラインだ」。
後日、この教祖は金がなくなってプレインビューに助けを乞いに来るのだが、そのときの教祖の様子と比べるとまさしく「役者が違う」というべきだろう。さらにこのときにプレインビューの口から飛び出す「I drink your milkshake!」(アイ・ドリンク・ユア・ミルクシェイク)という言葉。外人の作ったマッド映像でセリフだけは知っていたが、まさかこの映画から引用されているとは知らなかった。要するにこの言葉、資本家の巧みな搾取を的確に表現した言葉なのだ。「俺たち資本家はお前たちの持っているものを、長いストローでお前たちが気づかないうちに吸い取ってしまうんだぞ」という程度の意味である。
これらの場面から、この映画の主題を「金は人間を幸せにしない」と読み解くのは容易だろうし、事実それもこの作品のひとつのテーマだろうが、それだけでない何かをこの作品から感じた。それは『カイジ』でズバッと言い表されている。要するに、貧乏人にも欲があり、彼らだって金にたかってちょっとでも分け前をもらいたい、そう思う心理を巧みに利用して資本家(金持ち)というのは存在している、ということだ。だから、ここで描かれる一般人の姿はパッと見、のどかな西部に暮らす牧歌的な田舎者だが、一皮剥けば彼らだって資本家と同じくらい金にがめつい、欲深い醜い人間に過ぎない人々として、描写されている。つまり、資本家=悪、というような、階級闘争的な描かれ方はされていない、ということだ。石油に群がる人間の醜さを、富貴貧富に関係なく冷徹に描いた、そんな映画だ。だから、はっきり言って見終わったあともモヤモヤしたままだ。「え、これで終わり?」というような終わり方で、あまり一般の人が見て、普通にスカッと楽しめる映画ではない。派手なアクションも、ロマンスも、気持ちいいテーマもない。どちらかというと玄人ごのみの映画と言える。そして最後まで見終わってからタイトルを見て、なんて皮肉のこもったタイトルだろうと、初めて気づいた。
この映画を見ていると、「人間そんなもんじゃない!」というような、なにかこう、反論したい気分になる。もしかしたら、それこそが本当に製作者の伝えたかったことなにかもしれない。




