『青鬼』、『Ib』、『魔女の家』:フリーゲーム(動画視聴)
どれもツクール系ソフトで作られたフリーのホラーゲームだ。
そしてデッドスペース、バイオハザードのような戦闘系ホラーではなく、全て逃亡系のホラー作品であることも特徴である。
私はやはりデッドスペースのような戦闘系ホラーのほうが好きだ。逃亡系は逃げ回っているだけで、イマイチ爽快感に欠ける。動画で見て面白そうと思って、実際に青鬼をダウンロードしてちょっとプレイしてみたが、謎解きと青鬼からの逃亡ばっかりで(というかこれはそういうゲームなのだが)途中で飽きてしまった。
ただし、である。ホラー感ではデッドスペースにも負けてはいない。まず青鬼の造形は気味が悪いとしか言いようがない、インパクトのある造形なのだ。
この造形を言葉で説明するのは難しい。ゾンビやネクロモーフのようにグロテスクというにはちょっと違う。レッドピラミッドシングもちょっと違うかな~。あれほど威厳のあるそびえ立つ恐怖とは違う。語弊はあるかもしれないが、凶暴な知的障害者のような感じ。ちなみに色は文字通り青い。まさに青鬼。ベクシンスキーが晩年に作ったCGに近い作風かもしれない。青鬼のグロシーン自体は、実はそんなにない。ただ、そこに至るまでの過程を様々に演出することで、プレイヤーを逃げさせている手腕は見事だろう。あと、途中で死んだ仲間を吸収(?)した「新型青鬼」も、「もうそいつは死んだ」ということを伝えながらも恐怖があり、それ以上の笑いがあった。
そして逃げゲーの醍醐味のひとつ、謎解き。これも凝っていて唸らされるものが多い。中にはちょっと無理やりなものもあるが、全体的によくできていて、視聴者を飽きさせない。
そして逃げに関する部分だが、これがやはり単調というか、もっと隠れる場所を用意して色々な「逃げ方」を用意しておくべきだったと思う。一定時間逃げ続けるか、タンスの中に隠れるしか逃亡方法はなく、しかもタンスの中に隠れるのは何回かやると青鬼が学習して通用しなくなってしまうのだ。
なんか巷では青鬼はけっこう流行っていたらしく、青鬼のパロディで「阿部鬼」という、もはやタイトルだけでわかる人は内容もわかるだろうが一応説明しておくと、青鬼の代わりに青いツナギを着た自動車整備工・阿部さんが、執拗に、これでもかと、どこまでも、世界の果てまで、ケツの穴めがけて、マッハで追いかけてくるという素敵なゲームになっている。こちらはチラッと視聴して爆笑したが、後は一緒なのでそれで終わった。でもある意味、というか普通にコメディーホラーという新しいジャンルを拓いたのではないか、と考えるのは深読みしすぎだろうか。
Ib(以下イヴと呼称)は、笑いの要素は少しあることはあるが、それ以上に美術館を舞台にした独特の世界観が巷で大ヒットした、青鬼と同じ系統のフリー・ホラーゲーだ。
敵も絵画から抜け出して襲ってきたりと、「美術」をテーマにしたギミック、クリーチャーは斬新な設定で、非常に面白かった。ぬいぐるみのハラワタを割いて鍵を取り出すシーンは誰もがトラウマになったはずだ。
流行りのものに対して、普段私はあまり評価することはないのだが、これは流行ったのが十分納得できる、傑作ゲーだった。
ホラーというとゴア表現主流というか、ほとんどそればかりだ。イヴにもそれが全くないとは言わないが、基本的にグロで怖がらせるのではなく、世界観で恐怖を演出する、というのが見事すぎる。美術館という設定も非常に斬新だし、キャラクターなどがちょっと可愛かったりする。若干ライトノベル的なノリもあり、またキャラにも好感が持てる様な感じだ。そしてラストも基本的にハッピーエンドに近い形(いくつかのエンディングはあるから、中にはバッドエンドもある)なので、恐怖だけでなく「恐怖を乗り越えるカタルシス」も味わえる。
なぜかピクシブで一時期イヴのイラストコンテストのようなものが開催されていたが、ピクシブ層、いわゆるオタク層にもウケたと見ていいと思う。ただ、その中の絵はほとんど萌化した絵ばかりで、肝心の「ホラー」という部分を表現した絵には出会えなかったのが悲しいが。
このイブはキャラクターの魅力もあるので、漫画やアニメなどにしても十分ウケると思うのだが、どうなんだろうか。実際にそういうプロジェクトは計画中なのかもしれない。
もちろん、キャラだけでなく今まで述べた世界観、他にギミック・謎解きの出来も秀逸。
フリーホラーゲームのひとつの到達点だと思う。
魔女の家はキャラクターの絵がイヴに似ていたから「同じ作者?」と思っていたが、どうやら別らしい。
主人公が女の子で、花が出てきて、黒猫もいて、さらに美術館ではないが館からの脱出劇、ということで思わずそう錯覚してしまった。
要するに、ゲーム開始してパッと見の雰囲気はイヴに似ていた、ということだ。ただし、ゲームが進んでいくにつれてイブとは違うことに気づくはずだ。
イヴと違って、こっちはグロい表現を多用している。それがただ単にグロいだけなら凡百のホラーと変わり映えしなかったろうが、それがタイトルにもある魔女や少女といった趣向のものに上手く置き換えられていて、そのゴア表現のドギツサと少女趣味のバランスが素晴らしい。
あまり言ってしまうとネタバレになってしまうので全部は言わないが、カエルのギミックはインパクト大だ。最後の選択をプレイヤーに委ねるのも心憎い。そしてそれが終わってホッとしたところを狙い打つかのような追加の演出。魔女の家は、他にもこういった「プレイヤーの心理の隙間」を突くのが上手く、ホラーゲームを作る人全員に参考にしてもらいたいくらいだ。
あとは料理長の「手が足りない」(勝手に命名)シーン。同じ場所に行かせながらも、その度に変わった演出を用意、さらにその度に料理長の本性が徐々に明らかになっていって、ゾッとする。
また、少女趣味的なホラーでいうと、花のシーンもインパクト大だ。花という平和の象徴みたいな物をホラー要素に使う、その逆転の発想。
イヴも面白かったが、個人的には魔女の家の方が自分には好みだった。ただ、イヴほどキャッチャーなキャラが存在しないのと、ラストに救いのないのがアダになったのだろうか、イヴほど流行らなかったのが残念だ。こちらの方がよりホラーだと思う。エンディングではまだ続編が作れそうな感じなので、今度は街を題材にした「魔女の街」なんかやってみたら面白そうだと、勝手に妄想している。最後はカプコン製のヘリで脱出するところまでは考えてある。
ただ、見ていてひとつだけ気になったのは、初見殺し、一発死が多いということだ。何回も死にながらギミックを解いていく感じになるのだが、セーブするのを怠ると痛い目に合いそう。もちろん、そこらへんは配慮して必ずセーブポイントの黒猫を適度な場所に配置してあるのだが、もう少しこちらの操作でピンチを脱出できる、というような仕様が欲しかった。そこらへん、青鬼はあくまでプレイヤーに逃げさせることにこだわっていたと思う。
むろん、これらの欠点は無視できるくらいの小さなものだ。実際、世界観にのめり込むと、それも世界観の一つとして受け入れられるようになるだろう。
個人的に、上記の3本の中で一番気に入っているのはこの「魔女の家」だ。これもピクシブで流行らないかと思ったが、何やらニコニコ百科を見てみると作者が痛い人であるようなことが書かれてあった。私はこの作者の経歴については全く知らなかったし、仮に実際「痛い人」であったとしてもこの作品自体は面白いのでオススメします。
なんか作者の意思によって二次創作は禁止されているとかなんとか。まあ、私は今となっては二次創作にはもうそれほど興味はないので別にいいんだけど、ひょっとしたらイヴみたいに流行らなかった要因としては原作者の二次創作禁止も大きいと思う。認めたからと言って上記の理由でイヴのほど流行るとは思えないが、それでも今よりは確実に知名度は上がったはずだ。少なくとも同じ理由は青鬼も抱えているが、青鬼はかなりの知名度がある。まあ、でも青鬼の知名度は二次創作で上がったわけでもなさそうだし……そこらへんはやはり微妙なのかもしれない。それに青鬼は何作も作られているし同じ土俵で比べるのは無理があるかもしれない。
東方、ボカロもそうだが、二次創作によって爆発的に知名度が上がった作品を見てみると、魔女の家も十分二次創作で知名度は上がりそうな気はする。それに青鬼と違ってオタクにウケのいい少女主人公なので、萌え要素は一応ある。
何にせよ、ゲームの完成度は全く引けをとらないどころか上回っているとすら思えるのだが、知名度は青鬼、イヴに比べて今ひとつな気がする。非常に残念なことだと思う。
あと、これらのゲームを、私は実際にプレイしたのではなく動画で視聴した。
これは言っていて自分でも非常に複雑な気分だ。本来、ゲーマーというのはそのゲームをやるべきであり、動画視聴で済ませた人間がこのような感想を勝手に述べていいのかどうか、迷った。ゲーマーの名折れではないのかと思ったが、別にゲーマーでなくていいや、という空手家でなくてもいい加藤の心境に達したので手が滑ってレビューしちゃった。
でも、本当のところを言うと、見ていてすら怖かったし、それ以上に魅力的な世界観だったので思わずそれを知らしめたくなった、というのが大きい。
でも、いいゲーマーは絶対プレイしてからレビューしようね!(他力本願、丸投げ……スマソ)




