デッドスペース3:(ゲーム)
これは期待はずれと言わざるを得ない作品になってしまった。と言っても、バイオ6のように根本的にクソゲーというわけではなく、普通に楽しい部分も大いにある。ただ、デッドスペース(以下DS)である必要はなくなった。平凡なTPSに没落してしまった感じだ。前作までのレビューで「洋ゲーの興隆とそれとは対称的に没落してゆく和ゲーを象徴する」ゲームと書いたが、まさかDS自体が没落してしまうとは何たることだろう。純粋にファンとしては複雑な気分である。
まず、どこがダメだったのか、順番に見ていきたい。
まずまっ先に挙げられるのは「コープ仕様」だろう。むろんシングルでも十分プレイ可能だが、コープとシングルで敵の数などのゲームバランスは調整されていない。そのため、一人でプレイすると相当な数のネクロモーフを相手にすることになる。そもそも、このゲームは処理が大変なのか死体もすぐに消えてしまうような仕様なのだ。それなのにコープまでつけてネクロモーフの数も増やしちゃったものだから、さらにひどいことになっている。最終的に、今まで秀逸だったバランス調整がかなり大雑把になってしまった。敵の湧き方も、前作のような「よくできたお化け屋敷」のようではなく、四方八方からワラワラと、適当に湧き出してくる。そのため、「ああ、またラッシュか」という、さめた感情になってしまう。このように本編に悪影響を及ぼすのなら、むしろコープは不要だったろう。クリア後のおまけモードとして「コープ要素」が入っていれば十分だ。たとえば「迫り来るネクロモーフの大群から協力して拠点を防衛する」といった感じだ。特に今作は武器を自作できる。自作した武器を自慢し合いながら協力する――考えただけでも楽しそうだ。さらに施設内にベンチがあって、戦っている最中にも作り変えることができる、とか夢は無限に広がるだろう。また、本編にコープをいれるとイベントシーンなどを見なければならない。初回ならともかく、イベントが多い今作では何回もプレイする気にならない。さらにおまけモードなら短時間で済むため、時間を調整しやすい。途中で抜けられるリスクも小さくなるし、抜けられてもまた手軽にコープ募集できる。
それと先程もチラッと出てきたが、敵ネクロのバランス。湧き方もそうだが、ネクロ自体が硬く、速くなっている。リーパーは早さが売りのネクロだが、今回はほとんどの敵がリーパークラスの速さなので、ただリーパーの個性は地面を這ったり壁に張り付くことくらいである。それが四方八方から湧き出るため、後述にも関係するがフォースガンが手放せない。また、工具類のノックバックが軒並み弱体化。ラインガンを春のそよ風のように受け流して突進してくるネクロたち。恐怖というより理不尽しか感じない。
DSの代名詞といえば部位破壊とそれをやりやすくするための工具にある。特にプラズマカッターやラインガンなどはこのシリーズではお馴染みの工具であり、代々現役で主力となってくれていた。私も非常に気に入っていた武器なのだが、これらを含む前作までの主要工具が軒並み弱体化。代わりにショットガン最強という、あまりに陳腐なリアリティ……
特に初回特典版でダウンロードできる「エヴァンゲライザー・ショットガン」は、通常のショットガンより若干威力が高いうえに、欠点だったファイアレートも改善、ある程度連射もきくというもはや万能兵器ショットガンに成り果てた。エンジニアが工具を使って、というシリーズのコンセプトはここに来て完全に、部位どころか完全破壊されたと言える。
そしてネクロの種類も微妙。今回新しく追加された通称「斧ネクロ」(名前は英語のためよく分からない)。何かダメージを与えると上半身が吹き飛んで触手だらけになってさらに襲いかかってきたり、または吹き飛んだ下半身から触手が生えて追ってきたり、という、「攻撃を加えることで変異する」という新たな特徴を持ったネクロモーフだ。だが、どういう条件で変異するのか、その条件が分からないため、結局いつも通りショットガン連打するしかない。さらに変異の仕方によってはニャル子も真っ青なスピードではい寄ってくる変異の仕方をする。可愛い女の子ならともかく、ていうか可愛い女の子でも地面を猛スピードで這い寄って来られたら引くが、ネクロならなおさらいい加減にしてもらいたいものだ。
もうひとつ新種のネクロモーフがいる。通称「猿」だ。猿はDS2のクソガキーボードクラッシャーネクロのようなものだ。ただ、2のクソガキネクロより耐久力が増えている。そんな奴がクソガキネクロと同じくらいの数で出現する。当然フルボッコである。フォースガンがないととてもではないが対応できない。さらにこの猿がスーパースラッシャー化した通称「黒餓鬼」。これはさらに凶悪でもはや「速くて硬いのたくさん出したらええんやろ?」というスタッフの手抜きにしか思えない。後半の黒餓鬼ラッシュはもはや本来と違う意味の恐怖をプレイヤーにもたらす。
そしてネクロ関係最大の不満、中ボスの不在だろう。なんと今作、あのブルートがリストラされた。頼もしいみんなのブルリン。マックス強化したラインガン・マインで瞬殺される仕事すら与えられず、かわりにあのユーバーネクロモーフ、通称「再生君」が中ボスに降格。しかもここでコープ推奨仕様の弊害が。なんとこの再生君、同時に二匹以上出てくるのだ。さらに同時に湧き出るリーパーやリーパーなみの速さを持つネクロモーフたち。もはや諦めようかと思ったほどだ。そして中ボスとして追加された巨大な通称「クモ」。このクモの突進攻撃を躱すことは、障害物がない限りほとんど不可能に近い。しかも変な当たり判定があるため、角で追い詰められるとそのままハメられて理不尽なダメージを喰らうことに。この鬱陶しいクモも本編で3回も出てくる。出てくるたびに「はあ、またか……」という感情しか湧き上がってこない。
もうひとつ追加されたのは、エイリアンネクロである。このネクロ、情報だけ聞いていたときはワクワクしたものだが、いざ出会ってみるとただのデカイ的に過ぎず、また後半のコープ推奨仕様でワラワラ湧くためありがたみも皆無という、がっかりクリーチャーに成り下がっている。
そしてこれと関連した失敗が、敵に人間を配置したことだ。そもそもこのゲーム、ネクロモーフと戦うことがテーマのはずで、人間との銃撃戦などこれっぽっちも望んでいない。それでも、体験版のときはネクロと人間敵が戦ったりして、「従来にない三つ巴の戦いになるのでは?!」との期待もあったが、ふたを開けてみるとそんなことは全くなかった。エイリアンの遺跡の奥にまで人間敵は出現し、これによってせっかくのエイリアンネクロは人間との戦いの添え物程度に成り下がっている。三作目にしてようやくお出ましとなったエイリアンも、人間同士の戦いの中に埋没して存在感を失ってしまった。見た目はいいし、最初の出会いが輪切りのゾルベ状態という、インパクトは抜群の初登場シーンも生かせずじまいなのは残念としか言いようがない。さらにこの人間敵、後半になるとロケットランチャーも撃ってくるし、ガンシップで襲撃してくる。お察しの通り、鬱陶しい。
そしてもう一つは、敵に関するバグ。殲滅したのに前のエリアに戻ってみると目の前をストーカーが横切る演出がまた挿入されたり、いつまでも鳴き声だけは聞こえてくるが襲ってこなかったり。前回までは「こちらが死ぬまで追ってくるAI」を搭載していて、ちゃんと追ってきたが、今回はそこらへんも割と雑だ。エリア移動でどうにかなってしまうこともある。人間敵も一部挙動がおかしくなっていた。私が経験したバグだが、最後の方で通路の角に人間敵が引っかかってハマっているのだ。しかもいくら撃っても死なない。向こうから攻撃をしてくることもなかったのでそのままスルーしたが、このせいで折角ゲームに没入できる工夫を重ねたのが台無しになってしまう。そりゃ細かいバグなら仕方ないが、普通にプレイした程度で発生するバグは興ざめもいいところだ。他にもいろんなバグが報告されている。後述にもなるが、セーブシステムの変更もこのバグの発生に関係している可能性がある。
とまあ、このように敵の種類・バランス、敵の湧き、敵の挙動など、少し雑な部分が目立つ。そしてこの敵のゲームバランスと武器のバランスが、先ほどのエヴァゲショットガンなど、一部武器の偏った使用を生み出す。今作では新しくなったベンチシステムで、自分の思いのままの武器を作り上げることが可能となった。その組み合わせは数多いが、結局使う武器は偏ってしまうので、本来制作できる武器は多いのに、実際に使う武器は誰がやっても同じようなものばかり、という事態になってしまっている。そしてお気づきのとおり、この武器制作システム、コープと非常に相性が悪い。このせいでベンチで延々と武器制作して相方を待たせてしまうことになりかねないし、改造するときにも気を遣う。武器制作システムはいいと思うし、もし次回作があるなら取り入れてもいいと思うが、それには上記のゲームバランス全体の見直しが必須だろう。
あと、これは私だけかもしれないが、武器の強化システムがイマイチわかりづらい。1、2まではノードでの強化だった。そのため最終的な強さは決まっていたが、今回から強化チップを取り付けることで強化できることとなった。これだと、ダメージだけ上げまくったり、逆にまんべんなくあげたりは完全にアイザック自身に委ねられる。ただ、この強化チップの強化がわかりづらい。数字でなくメーターでダメージ、リロード時間など各パラメーターが表示されるため、実際にどれくらい強化されたのかわかりにくい。また、メーターでは上限を振り切っているが、実際には強化できているのか、といったところもわかりづらい。同じメーターの長さでも、武器によって実際の数字は違ったりもする。また、同じ強化チップでも、初期能力によって大きく強化されたり、はたまたほとんど強化されてなかったりする。強化チップによる強化が割合なのか、それとも絶対値を増やすものなのか、イマイチそのあたりもよく分からない。
そしてとにかく不要要素が多い。先の人間敵の戦闘に付随して追加された、しゃがみやローリング。使いづらい上に案の定ほとんど使うことはなかった。それなら人間敵もろとも廃止してしまったほうがマシだ。さらにパズル要素。鬱陶しいだけ。空中をカッ飛んでいく演出。オブジェクトの飛び方がいやらしい。プレイヤーを罠に嵌めようとしすぎ。
あとはセーブシステム。前作までのセーブポイントは消え、代わりに自動セーブになったのだが、それが少しややこしい。スタートメニューからいつでも出来るセーブはアイテム欄のセーブのみで、ストーリーのセーブはある程度進んで自動的に行われるセーブ。しかもこのセーブの間隔が長い。また、このセーブ仕様なので適当な場所で自動セーブしたら、適当に周囲のアイテムを漁る→アイテム欄セーブしてオープニング画面にもどる→再開でまたアイテム復活といった小ワザが行えるようになってしまった。まあ、ノーマル程度の難易度なら腐る程アイテム余るし、多分ハードレベルでも資源自体は余り気味になると思うが、さらにこの仕様のせいでさらにアイテムはあまることになる。
あと、崖登り、崖下りなど、余計なゲームシークエンス。悪くはないのだが、やはり「死なせてやる!」というスタッフの悪意が大きい。見た目はカッコイイのだし、もっとなんとか出来たと思うのだが……
あとはストーリーか。エリーが完全に尻軽ビッチに。またエリーとくっついたノートンも全く活躍しない上に途中で裏切ってアイザックさんに返り討ちに合うといういらない子。これならアイザック、エリー夫婦がマーカーの本拠地に乗り込んでコープ、で十分だ。余計なキャラを廃止すればその分ブルリン復活させれるだけの容量が生まれたかもしれない。ストーリー自体の全体的な流れはそれほど嫌いではない。ありきたりだが、まあ許容範囲内だ。ただ、いらないものを色々くっつけすぎ。冒頭の兵士とかも、別にムービーでいいと思うんだが……
結局いろいろな欠点を挙げていったが、一番大きいのはコープだろう。これのせいですべてのバランスが狂ってしまい、また時間をかけて行う武器制作システムとも合わない。欠点が見事に連鎖して、結果本作の本当の魅力、ウリはバラバラにされてしまった。ただ、それでもすごいところは、そうやって本来の力を発揮出ていないにも関わらず一応はそれなりのゲームに仕上がっている、ということだ。それがスタッフの力量によるものか、DSシリーズの底力なのか、それともシリーズファンの贔屓目なのかは分からない。ただ、これを教訓にして、ゲーム業界は今後安易なコープ化をしないでいただきたい。まだマシな出来栄えだったから良かったものの、DSがバイオ6化したら、と考えるとそっちのほうが恐ろしい。
あと、これはこのゲームの欠点ではないが、いい加減CEROの規制をどうにかして欲しい。そのせいでDSシリーズも日本語版が発売されることはなくなった。輸入盤でいいや、という声もあるかもしれないが、今回のようにコープゲームの場合、日本語版がないと海外アカウントを取得する必要がある。それのせいでコープの敷居が高いくなっている。CEROもレーティングという名の事実上の規制であり、表現の自由が認められた日本で勝手に表現を規制していいのだろうか? 最悪な場合、Z指定なのに規制のせいで、敵を撃っても血すら出ないゲームもあるらしい。
DS3も、今回は凡作TPSで終わったが、武器制作システムなど、次回に期待できる要素もちゃんと出している。規制で日本のゲーム業界を縛り上げても誰も何の得もしないし、社会も良くならない。海外の良作が入ってこなくなったら、日本のゲームも海外への発信力を失ってゆくだろうし、実際そうなっている。
DSは「バイオハザードを超えた」と言われたが、いつか日本から「デッドスペースを超える」ゲームが出ることを密かに期待しておこう。




