デッドスペース1&2:(ゲーム)
実は自分の中でついにこの作品のレビューを書く日がやってきたか……と思っている。
というのも、このゲームこそ洋ゲーの興隆とそれとは対称的に没落してゆく和ゲーを象徴する、代表的なゲームと少なくとも自分には思えるからである。
正直、ゲームというのは批評するのが難しい。その理由の一つとして、プレイ時間が挙げられるだろう。一つのゲームを全クリするのに短いものでも大体10時間くらいはかかるだろう。10時間あれば映画なら5本、漫画なら一巻30分(バキならもっと早く読める!)として大体20巻くらい読めるのではないだろうか。ましてRPGだと一回のクリアに50~60時間はザラ。それだけの時間がかかるため、当然すべてのゲームをプレイするどころか代表的なゲームをプレイするだけでもかなり難しい。人によってやってないゲーム、やってるゲームの差が激しく現れ、それゆえ批評が難しくなる。これは小説にも当てはまる現象だろう。
だが、ゲームにはプラスしてそこにハード性能という枷が加わる。小説において、基本的に昔の名作は色褪せることはないこともないが、根本的な面白さというのはそうだ。それに小説の書き方なども、だいぶ前に完成されている。
ゲームは機械の進歩に合わせて変化していく。そのため、ファミコン時代の名作も流石に現在そのまま通用するかというとそうはいかない。もちろん、マリオのように将棋レベルまで洗練されたゲームは通用するかもしれないが、私はあの操作性にイラついたクチだ。それもスーファミ時代にすでに、である。
つまり、ゲームというコンテンツは未だ完成系を見ていない、発展途上なのである。これが人類の機械の進歩と同じく永遠に進歩していくのか、それともどこかで本質的な進歩は止まってしまうのか、まだ分からない。ただ、このままグラフィックのリアリティが増してゆくことを考えれば、究極はマトリックスのような架空人口世界へ没入して、という形が究極系なのかもしれない。
それはまあ、置いとくとしよう。
このゲームはホラーゲーム業界に降臨した救世主だ。ただし、2はアクション性が増し、ホラー性は減少した。といっても、十分胸糞の悪くなる展開と場面の連続で、プレイヤーは常に緊張を強いられる。
このゲームの大きな特徴は、クリーチャーデザインとゲームデザインにある。ひとつずつ見ていきたい。
まずクリーチャーデザインだが、これが素晴らしい。『遊星からの物体X』と既存のゾンビが融合したような感じだ。ネクロモーフという名称通り、人体が奇妙に歪んでいる。気味の悪い触手や鎌が生えていることもそうだが、人間の原型をある程度とどめているせいで余計に気持ち悪く感じる。最初に見たときのインパクトは象のウンコより大きい。
そしてネクロモーフは見た目だけでなく、倒し方にも特徴がある。大抵のゾンビ作品ではヘッドショットが有効な攻撃手段とされているが、このネクロちゃんにそんな常識は通用しない。ここからはゲームデザインの話にもなるが、ネクロちゃんの弱点は頭ではなく手足。手足を切り落として動けなくすることで、ネクロちゃんはご臨終する。逆に頭を撃っても、視界を失ったネクロちゃんが盲滅法に暴れまくるだけで、状況によってはむしろ危険になりうる。ただ、集団で出てきた時にネクロ一体の頭を切り落として錯乱させることで、周囲のネクロにダメージを与えたり足止めに使えたりもする。
そのネクロちゃんの手足を切り落とすのに使う武器も個性的だ。
まず、武器ではない。武器はパルスライフルだけで、あとは全部工具という設定だ。工具だから、線状の攻撃を仕掛けたりできる、という設定なのだ。まあ、実際問題「こんな工具ねえよ! 銃より強いじゃねえか!」と心の中でつっこんでしまうが、斬新な設定には相違ない。工具だからエンジニアのアイザックさんが生き残ったんだし、工具メーカーに感謝しよう。きっとネクロモーフの手足切り落し用の工具だったんだよ。
さらにアイザックさん自身は全身エンジニアスーツに身を包んでおり、表情など全く見えないことが逆にある種の不気味さを醸し出している。目の部分だけうっすら光っているのもさらに不気味さをかきたてる。そのスーツを全身返り血で染めながら文字通り地獄から抜け出そうともがくアイザックさん。しかしそのスーツの中身はアイザックという名のプレイヤー自身にほかならない。
このスーツにもちょっとした特徴があって、スーツ背中の背骨(のように見えるだけだけど)にあたる部分がHPメーターの役割を果たしているのだ。TPSだから、カメラは操作キャラの後ろにあるため、ちょうど見やすい位置にある。さらに、それがSF的エンジニアスーツというデザインに無理なく溶け込んでいる。この工夫によって、よくゲームにある不自然なメーター類がデッドスペースには全く存在せず、余計にゲーム内世界にのめり込むことが可能となった。これはまさに美術的デザインとゲームデザインの融合だろう。ネクロモーフとの戦いにおいても、手足や触手といった、見た目にわかりやすい場所が弱点なため、直感的に戦える。さらに足を切れば移動力を、腕を切れば攻撃力を削ぐことができるため、ゾンビ系シューティングにありがちな「ひたすらヘッドショット」という単調な作業になりづらい。先ほどの武器でなく工具を使うことも、この戦略の幅を広げるのに役立っている。どの工具を使うかでかなり戦い方も変わってくる。さらにこの工具の強さのゲームバランスがなにげに秀逸。どんな工具も万能ではないため、状況によって使い分けることを自然と要求される。これは周回プレイの動機を与えることにも一役買っており、同じ状況でも「今度はこっちの工具を使ってみよう」とかいろんな戦略を試す楽しみがある。
お気づきのとおり、デッドスペースはいろんなSF映画のオマージュが散りばめられている。初代の舞台はまんま『エイリアン』の宇宙船だ。見た目だけではなく、資源採掘という目的まで同じ。背景的な世界観はエイリアンによく似ている。2では木星の衛星タイタンにある宇宙ステーション的な都市が舞台になっている。今まで出てこなかった学校もステージに登場。またそれにともなって子供のネクロモーフも登場し、多大なインパクトを与えた。この子供ネクロモーフの声はキーボードクラッシャーからサンプリングされたというが、真相は定かではない。ただ、似ていることは確かだが。
デッドスペースの最大の魅力のひとつは、敵の出現だろう。出てきそうなポイントだらけなんだけど、意外なところから出てきたり、予想通りの場所から出てきたり。それの駆け引きも面白い。まるでよく作られたお化け屋敷のような感覚だ。
そして敵の出現だけでなく、恐怖演出が秀逸である。無機質な船内にどことなく響きわたるネクロモーフとおぼしき咆哮……これが聞こえてくるだけで思わず「ビクッ!」となる。さらに狂った生存者。中にはネクロモーフを崇めて執拗にアイザックの邪魔をするマッドサイエンティストも出てくる。が、初代に出てくるほとんどの生存者は狂っていて、アイザックさんに会うと凄惨な方法で自殺したり、元々瀕死ですぐに死んでしまったりする。
それとこのシリーズに特徴なのはBGMの上手さだろう。鳴るタイミングもそうだし、不協和音で恐怖の雰囲気をいっそう盛り上げる。そこに工具音とネクロモーフの咆哮とアイザックさんのうめき声が合わさり、この血みどろのデッドスペース交響曲は見事完成する。周囲の機械類が発する無機質な音も、よくできた伴奏みたいだ。
音と言えば、宇宙空間に出た時の音の演出も素晴らしいの一言に尽きる。真空空間に出た瞬間、周囲の雑音は消え去り文字通り死の静寂が世界を支配する。とはいえ、床を歩くと「ドシン、ドシン」という音が骨伝導で伝わってくるかのようなサウンドで表現されている。工具の音なんかも同じように表現されており、ここら辺はリアルではないのかもしれないが、ゲームの演出としては大成功。「宇宙ではこんなふうに聞こえるに違いない!」と思ってしまう。そのBGMの白眉と言えるのが通称「グログロ星」と言われる、「きらきら星」の歌。これはマーカーがアイザックに聞かせた幻聴でもあるらしいのだが、これが本当に気持ち悪い。1のオープニングはこの歌が流れる中、ひたすらアイザックさんの美麗死亡シーンを見せるだけという猟奇的かつ狂気的なオープニングとなっており、ぜひとも視聴をオススメする。
とまあ、恐怖感がすごいということだが、さすがに2ではそれもやや薄れた感じなものの、1とは違ってハイスピードのテンポで戦闘を楽しむことができる。1の色々な点がより便利にブラッシュアップされ、新武器ならぬ新工具も登場。ますます血みどろの戦いが止まらない。強化された格闘攻撃は、ネクロモーフの血で宇宙を赤く染め上げようとしているかのようだ。
新旧様々なものを組み合わせながらも、ちゃんとオリジナルのデザインによって見事にまとめあげられたゲーム、デッドスペース。宇宙を扱ったホラーとしてはクトゥルフが代表的だが、そういう「無限に広がる虚無」というのが心底恐ろしくなる、そんなゲームである。今ではベスト盤も出ており、新品でも非常に安く買えるので、ぜひ買ってプレイすることを強くオススメする。
ディスクを本体に入れて電源を起動すれば、画面に地獄が立ち上がる。それは一生脳裏に焼きついて離れないだろう。
3は結果から言うと微妙ゲーだった。それについてはまたレビューします。




