『クリムゾンの迷宮』 『天使の囀り』:貴志祐介
二作とも良作だった。ただ、『新世界より』以上の衝撃はなかったけど。『新世界より』は改めて貴志祐介氏の最高傑作だろうと思った。
まあ、他作品はさておき、まずは『クリムゾンの迷宮(以下クリムゾン)』から。
あらすじは「いきなり何か分からない場所に集められてゲームを始めるよう指示される」という、ある意味『バトルロワイヤル』や『ガンツ』的な感じもする作品。『カイジ』のエスポワール編や鉄骨渡り編も、「ある特定の場所に集められてゲームをやらされる」という点ではある意味同じかもしれない。
もちろん、そのゲームとは命を賭けたゲームであるわけだけど。
最初はどんなゲームなのかや、ゲームの目的がはっきり示されていない。そう、別に命を賭ける必要もないと言えばない。しかし、そこはゲーム運営の誘導尋問によって殺人ゼロサムゲームへと進展していく。
クリムゾンは最初の引き込みが見事。背表紙のあらすじには「火星に迷宮へようこそ」なんて書いてあるが、思いっきり地球。しかし地球のどこかは伏せてあって、それがどこかは少しずつヒントを出しながら主人公と一緒になって考えていく、という仕組み。
そこから先のプロットの組み方もうまい。イチローのバッティング並みにうまい。
携帯ゲーム機仕様の運営からの指示受信機に、情報が受信されるたびに主人公だけでなく読者も横からそれをのぞき込んでしまう。『プラティ君』という、独特のキャラクターも物語にいいスパイスを与えていたと思う。ていうか、小説内でもミッキーマ○スは伏字だったことにびっくりしたよ。このゲームの運営はディズニーなのかもしれないね。
ただ、そういう引き込む面白さはあるものの、正直言って「ありきたり」感は否めなかった。最後も普通に読んでいれば「まあ、そうなるかな」という感じで、「どうなっちゃうの?!」とはならなかった。ただ、ゲームの舞台となる場所、そこの描写というか、そういう知識があるというところがすごい。
さて、もう一つの『天使の囀り』。これはひたすら不気味というか、気色悪いというか……。最初はアマゾン探索帯に参加した恋人のメールから始まり、新興宗教とか色々出てきて「一体何をネタにしたホラーなんだ?」と思わざるをえない。しかしそれがもう作者の思う壺にゴッソリハマってるというね。後は作者お得意の雑知識とプロットで最後まで快速急行。主人公の女が意外とビッチなのは読者サービスです。
あと、途中に出てくるパソコンゲームオタクのフリーター。平成10年に初出とあるけど、あの当時にここまで書いているのはすごいんじゃないの? 作者本人にもパソゲーにハマった経験があるのか?と思ってしまった。
私の心の師匠スティーブン・キング先生が「プロットは物語の人工呼吸器」というのを今まで信じてきて、確かに今回、その意味もよく分かった。プロットではキング先生の超展開には勝てないということも。あの超展開を超絶文章力でねじ込むのはさすが帝王である。しかし、プロットにも「推理する」という楽しみがあっていいと思うんだ。なんていうか、読者との駆け引きというか。多分、何年かしたら忘れていると思うから、また読み直そうと思う。また騙されてみたい、そう思った。