真・三国無双6
三国無双はファンだったので、つい辛口な批評になってしまいましたが、私はこの作品を愛しています。今も、ずっと。
言わずと知れた無双ゲーの本店『真・三国無双6』(以下無双6)。
無双2は最初は販売本数に伸び悩むも(それでも40~50万本位売れて、コーエーにとっては大大大大ヒットに)、それからクチコミでジワジワ販売本数が伸びて100万本を突破、一躍『無双』の名は天下に轟き渡ることとなった。それから『無双2猛将伝』を発売。次は『無双3』と思った矢先の、初の『猛将伝』でこれも最終的に50万本を突破した。『猛将伝』の内容は、本編に含まれていなかったその他勢力の無双モードや難易度:最強(だったか何だか忘れたけど、とにかくそんな感じの)や5つ目のユニーク武器などの追加だった。また、本編を持っていると、本編でも猛将伝の難易度で楽しめるなど、あの頭の固いコーエーにしては珍しく革新的な内容だった。
しかし、である。
シリーズも3、4と作数を重ねるごとに、猛将伝の発売も恒例行事となってしまい、ついには「猛将伝商法」などとなじられるに至る始末。そもそも「最初から猛将伝を発売するなら、最初から本編に入れとけや、ボケ」という主張は、金を出して買っているユーザーからすれば当然の意見である。コーエーもそんな意見をちょっと気にし始めたのか、ついに『エンパイアー』なる新しい追加コンテンツを発売するも、結局やっていることは『猛将伝』と大して変わらなかった。同様のことは同社の『信長の野望』と『三国志』シリーズにも当てはまり、『パワーアップキット』なる中々巫山戯た仕様の追加コンテンツが毎度恒例のごとく売り出されている。話を『無双』に戻すと、筆者は『無双3』あたりからこの傾向に嫌気がさして『猛将伝』は買ってない。本編は2,3,4と買い、一通りは楽しんだ。だが、4をやったときにはすでにかなりのマンネリ化で、もうしばらくはやることはないだろうと思っていた。少なくとも、シリーズがもっと圧倒的に進化するまでは。
無双5は不評で見送ったし、あの頃はそもそもPS3を持っていなかった。さらに時は流れ、ついにこの『無双6』である。このときには筆者もPS3を買い揃え、また友人からの誘いに乗ってついつい「久々だし、ちょっとやってみるか」と思って発売日に店に買いに行ったのだ。三日後、今度は同じソフトを持って、同じ店に違う目的で行くとは知らずに……
はやる心を抑えながらソフトを起動し、オープニングを見終わったとき、何か筆者の中でいい知れぬ不安が芽生えた。
いくら何でも剣に乗って滝を滑り降りるって……
張飛と夏侯惇、何メートルジャンプしてんだよ……
これはクソではないのか? 肝心の大軍をなぎ倒す場面をムービーにしてくれよ!
いや、落ち着け。それはこれから本編をやればいくらでも体感できる。そう、これはなんたって『真・三国無双』。無双ゲーなんだから……
ざわめく心の中の視聴者を抑えながら、ストーリーモードを選択する。
そう、今回の6のストーリーモードは今までのキャラクターごととは違って、勢力ごとになった。そして新勢力の『晋』が追加、それに伴って新武将追加された。
でもいきなり晋は……ここは贔屓にしてる蜀からいくのが無難……っ!
緑の地球に優しそうな勢力を選択する。
プレイ開始して数時間……確かに、大群をなぎ倒す爽快感は、あったといえばあった。だがしかし、である。
この『無双6』、宣伝のキャッチコピーが「進化の極み」とか「進化は終わらない」とかそんなんだったと思うのだが、普通に進化終わってました。横でシブサワコウがBボタン連打してたんか、てくらい進化キャンセルされてましたよ、ええ。
これ、普通に無双2と変わんねえじゃん!
いいや、まだ『無双2』の方が良かったくらいだ。『無双2』のときは、手抜きだったのか平原など広大なステージな多かったのだが、それがかえって「シンプルな斬り合い」、「大軍と大軍のぶつかり合い」を演出していた。今回の『無双6』は、せせこましい通路みたいなステージを進んで、指示通りに敵軍を倒していくだけ。プレイヤーが戦略を立ててどこを潰していくか考えるのも楽しみのひとつだったのに……
そして何より痛いのが、悪い意味で変わってない、ということ。もちろん、無双ゲー本店なので、無双ゲーであってくれればいい。だが、ハードがPS3に変わったというのに、変わったところは「グラが綺麗になった」くらいしか見つからない。
だいたい、群がる敵を倒していく、というのは無双ゲーほどでないにしろ『ゴッド・オブ・ウォー3』や『ヘブンリーソード』の冒頭、『ライズ・フロム・レア』(どれもPS3)でも行われており、それぞれ中々完成度が高く仕上がっている。本当に敵の大軍に切り込んでいく感じなのだ。特に『ヘブンリーソード』冒頭は凄かった。文字通り平原まで埋め尽くす敵の大軍の中、主人公がたった一人で切り込んでいくのだから。ただ、このゲームの冒頭はいわば操作出来るイベントシーンのようなもので、ゲーム内容でこの冒頭ほどの無双感を味わえるものではない。それに冒頭のシーンも、敵軍が地平線まで埋め尽くす様子はいわば「背景」であって、敵前衛が前進→主人公と戦闘→次の前衛が前進→戦闘といった感じなので、あくまでも演出だったのだが……それでも、無双より「大軍と戦っている」感はあった。それは上記3つのゲームの全てにあった。
なのにこの『無双6』ときたら……!
確かに、すぐに1000人斬り出来る。だが、それは「プレイヤーが主体的に行動した結果」ではなく、「何か指示にしたがって斬りまくってたらいつの間にか1000人超えてた」というものでしかなかった。
ステージもせせこましいものが多く、そこにプレイヤーを飽きさせないためにであろうか、いろんな仕掛けを詰め込んだつもりだろうが、勘違いも甚だしい。「ムービーからゲーム画面へのシームレス」も、例えば黄巾の乱で反乱軍を見下ろしながら話してて、劉備「いくぞ」張飛「おう、兄貴!」とか言いながら馬で大軍に向かって駆け下りてそのまま戦闘スタート!とかにしたら盛り上がったんとちゃうん? 大軍が地平線まで埋め尽くしているムービー作るのめんどくさかったん? 死ねやアホンダラ。お前らそれが仕事やろうが! オメガフォースとか名前通りホンマに終わっとるやんけ。ムービーとかほとんど会話してる場面からで、そっから「ハイ、シームレス!」とか言われたって全然盛り上がれへんわ! あと、出撃前の砦みたいな場所での会話? あれ、全く必要ない。あんなのを作る暇があったら、ステージもっと広くしろ!
しかもこのシームレスのせいか、ストーリーモードの使用キャラは、ステージごとに固定である。それならもうムービー無しの実機映像でいいよ。PS3ならそれでも十分綺麗だし。
ストーリーは三国志演技に割と忠実で、つまり途中で死んでしまうキャラもいる。まあ、それはいいとしよう。
気になるのが、ストーリーでほとんど、あるいは全く出てこないキャラである。蜀の場合、新キャラで馬岱が加わったのだが、この馬岱はストーリーモードで使用キャラとして出てくることはない。これでは一体なんのためにキャラを増やしたのか。筆者は魏のストーリーモードの途中で飽きてやめた。魏では、許褚がよく使用キャラで出てくるのだが、もうこいついいだろ。徐晃使わせろや。
ストーリーも、まあ、凝っている、といえばそうかもしれない。だが、三国志にちょっとでも詳しい人なら別に目新しい発見はないし、そもそもストーリーを楽しむゲームでもない。セールスポイントを完全に間違えている。
キャラクター絡みでいうと、武器が全キャラクター共通となったのが、思ったより痛い。これは買う前から分かっていたが、まさかここまで酷くやってくれるとは思わなかった。武器自体は32種類で、成長要素もまあまああるのだが、最終的に付与する特殊効果はどれも似たようなものになる。まあ、それはある程度仕方ないとしよう。その32種類の武器を50~60人程度の武将で使いまわす。今回はヴァリアブル攻撃という、途中で武器を持ち替えるという要素が加わったが、全くそんな必要を感じさせる場面もなかった。最強の武器一個付けていればそれで十分。それをいろんなキャラで使いまわす。一応キャラごとに得意・不得意はあるが、たいていは武器の性能で押し切れる。
武将独自のモーションはEX攻撃と無双乱舞だけ。これが弱い武将は、個性のないただの操り人形と化す。せめて3つくらいEX攻撃をつけるとか、不得意武器以外は全部EX攻撃があるとか、どうにかできなかったのだろうか。
そしてフリーモードの削除。もうね、猛将伝で補填する気マンマン。「猛将伝出るから、それ楽しみにしてね!」という無言の声だけが一番良く聞こえてくる。このフリーモードの代わりに追加されたのが「クロニクルモード」。中国大陸がマス目で区切られていて、クリアするごとに次のマスへ進めるようになっていて……というモード。全部で60個以上あったと思うが、10個くらい開けたところで我慢の限界がきた。
全部で5種類くらいしかない(武将倒すとか武将倒すとか)ミッションの焼き増しが延々と並んでいるだけ。まるでサハラ砂漠を何の目印もなく歩いているような単調さに、すぐに嫌気がさした。これから懲役刑の代わりにこの『無双6』のクロニクルモードをやらせてみてはどうだろうか。かなりの更生効果が上がるのを期待できそうだ。
当然のごとく三日後、筆者の買った『無双6』は「中古」のシールを貼られて店の棚に並ぶことになったのだ……
ちなみに、筆者に購入を勧めた友人も、同時期に売り払っていた。二人でオンラインプレイしよう、という目的もあったのだが、こんなゲームオンラインでやりたくない。
それからコーエーの満を持しての『猛将伝』発売……だけだったのならここまで怒りに満ちたレビューをしなかっただろう。
本当に怒りがこみ上げたのは、たまたまツタヤでゲームコーナーをチラ見していた時だ。
『あの無双6がPSPに移植!』
殺意が湧いたね。いや、湧いてから沸いた。鍋の中の水が、一瞬で沸騰して蒸発して消え去ってから積乱雲と化してしまうくらい。
今までの手抜きは、PSPに移植するためだったのだ。だから移植しやすいようにワザとPS3の性能を活用しないで、使い回しを多用したゲームシステムにした。
そして、PS3では後で猛将伝を出して補完してやればいいだろう、と。
みんな、オラに無双ゲージを分けてくれ!
こいつしばき倒すから。
本当にユーザーを舐めるのもいい加減にしろよ、て思いましたね、ええ。
本当にこのゲームの製作者は一体どうしてしまったのか。
キャラクターも、はっきり言って薄っぺらいテンプレートみたいな、特定の層に媚びたようなキャラ造形。懐古厨ではないが、昔はもっとリアリティのあるキャラだったような気がするぞ。どうしてどれもこれも『戦国バサラ』みたいなキャラになっちゃったのか……
夏侯惇はチョイワルオヤジだし、むしろ夏侯淵が落ち着いた性格みたいになっちゃってるし…… 馬岱はせっかく出てきたと思ったらオカマ臭い口調だし……
戦国バサラに影響されたのか? だが『戦国バサラ』は元々『無双シリーズ』に対抗して、個性を生み出すためにありえないキャラクター造形にして「あえて」バカゲー方向へ走ったのに、本流が支流に流されてどうするんだ?
むしろ、こんなことになるくらいならネットゲームなどのように自分でキャラを作成できるようにした方がマシだったかもしれない。結局、一人が32種類の武器で戦っても一緒じゃないのか? その代わりにステージや敵軍の数、演出には徹底的にこだわる。その一人の主人公のモーションにもこだわる。武将は基本モーション使い回しだが、汎用グラをなくして全武将固有グラ(もちろん、操作はできないのだが)。んで、武将のピンチを助けたりすると友好度があがり、色んな技なんかを教えてくれる。まあ、こんなん発売したら『無双』のナンバリングタイトルでは出せないだろうけど。
だけど、そろそろ『三国無双』も転換期に来ていることは感じた。今までは無双システムとでも言うべき基本的なゲームシステムがあって、「ボリューム」を増やすことに主眼を置いていた。だが、三国志の武将数にも当然限りがあるし、もう有名どころはだいたい出尽くしただろう。それに「使用キャラ200人!」とかなったとして、そこまで増やしてしまうともはやどうしても作業ゲーになるし、ただの数合わせになってしまう。ステージも三国志というストーリーが決まっているから、数には限度がある。盛り上がるような有名な戦いなんて、すでに出尽くしただろう。
となると、どうしても「質」の方を向上させる方向性、というのもそろそろ模索すべき時期に来ているのではないだろうか。今回「進化した」と言っても、明らかに周りの環境の進化に比べれば相対的には退化であり、このままだと『無双シリーズ』はおろかコーエー自体も地盤沈下していくことになりかねない。『無双2,3,4』とプレイしてきてこのゲームから三国志にハマり吉川英治と北方謙三版三国志を読んだ人間としては、歴史ゲームの老舗としていつまでも頑張り続けて貰いたいと、心の底から思っている。
筆者が思うに、コーエーは一回、三国志と戦国時代と無双から離れてみてはどうだろうか。
例えば『水滸伝』を舞台にしたオープンワールドアクションゲーム、というのはどうだろうか。RDRのような感じで、本格的に歴史を再現する。
梁山泊に集う兵士の一人となって、様々なミッションをクリアしていく。その過程で、プレイヤーは村を略奪したりして悪の道に走るもよし、官軍を攻撃して民衆のヒーローになるも良し。プレイヤーも最初は弱くて、自らが生き延びるだけで精一杯だが成長するにしたがって強くなっていく。その過程で楊志や林冲、史進といった108星に武術を教わって技を習得したり、ステータスを上げて強くなっていく。最終的には官軍兵相手に無双できる程になる。やがてプレイヤーの成長と共に梁山泊も成長、民衆の中から農民蜂起を誘発したりして官軍と最終決戦……みたいな流れになれば凄い面白いと思う。
最近は『北斗無双』やら『ガンダム無双』やら、果ては『海賊無双』など、無双乱発が目立つ。どれもコンセプトはいいのに作り込みが甘いようだ。これらの作品は実際にプレイしたことがないので詳しくは述べないが、今回の『無双6』でも同じようなことが言えるのではないのか。
それは日本のゲーム全体にも当てはまることでもある。コンセプトはいいのに中の作り込みが甘い、それどころか最初から有料DLC配信で補完……
コーエーはもちろん、他のゲーム会社にもユーザーの声に真摯に耳を傾けて欲しいと思う。
思うが、このことに関してはゲーム会社だけに全ての責任を負わせるのは酷だろうとも思っている。
ご存知の通り、大抵のゲーム会社は株式会社である。株式会社ということは、当然ながら株価を上げなければならない。そして株価を上げるためには、短期的な利益を出さなければならない。
仮に、あるゲームの開発に2年かかるとしよう。だが会社の決算のために1年で作るように要求されたとしたら、そしてそのようにして出来上がったゲームがどのような内容になるかは火を見るより明らかだ。
当然ながら、作り込みの荒いゲームにならざるを得ない。
そして過去のシリーズ物が多くなる。そっちの方が新作より安定した収益が見込めるからだ。
あとはリメイク商法。あるいは『猛将伝』のような追加コンテンツの販売や有料DLC。本編だけで完結しているならまだしも、これら追加コンテンツを揃えてやっと一つとか……ありえない。
ちょっと前まで、「クールジャパン」とか政治家かほざいていたが、あのクズどももゲーム業界どうにかしたいならこういうところからどうにかしたれよ、と思う。まあ、あのドカスどもは甘い汁吸いたいだけでそんな気は全くないんだろうけどな。ゲーム業界よりタチ悪いぜ。
筆者はゲーム業界全体の不振には中古販売が大きく影響していると考えている(売っといて何言ってんだ、て感じで申し訳ないが)。
下手をすれば発売日当日に中古商品が並んでいる、というのは一体どうしたものなのか。映画公開当日からツタヤでDVDレンタル開始すれば、映画の興行収入が落ちるのと同じだと思う。しかも、中古で売れてもメーカーには一円も入らない。小売も厳しいから、収入源確保のために何とか中古販売で利益を上げようとしているのはよく分かっているが、ゲーム自体がこのまま沈んでいけばもっと厳しい状況になってゆくだろう。
発売から3箇月でもいい、その間中古の販売を禁止するだけで、新品が流通してメーカーも潤うのではないだろうか。まあ、すべての店で違反がないかチェックするのは無理だろうから、結局今のままで仕方がないんだろうけど……
海外のゲーム制作体制など、筆者はよく知らないけど何か参考になるのでは、とも考えてみたり。
何とも打開策が見つからぬ。結局ネットで安易な課金ゲーを作るしかないのか……
よく言われている「データ送信」型だと、友達に貸したり借りたりできないからなあ。それすら無くなったら、ゲームはただ引きこもってプレイするだけのものになると思う。
本当にゲーム業界をどうにかしよう、という人が出てこないと厳しいかもしれない。