『人類滅亡ハンドブック』(新書)
本屋に入ってみると、いきなり見つけたタイトルがこれである。名前の通り、人類滅亡の要因が考えられる限り列挙された本である。
ただし、見るべきところは特になかった。というのも、人類滅亡について考えて書かれたものというよりは、ただ単にいろんな説を取り上げて網羅的に紹介しているだけだからだ。「本当に人類が滅ぶにはどうすればいいのか」という肝心な視点が欠けている。
「科学的に考えられる滅亡要因を取り上げて分析した」とあるが、統一した考えや思想に基づいて全体が書かれたわけではないため、並べた原因同士が矛盾していることがある。例えば「地球温暖化」と「全球凍結」である。さらに「人口増加」と「人口減少のデススパイラル」もある。そもそも、人口増加によって人類が滅ぶ、というのはおかしい話でもある。滅亡というのは、個体数がゼロになることだと思う。とすれば、個体数が増えているのに「滅亡する」とはどういうことなのだろうか。むろん、適正な人口を超えて増えすぎれば、適正な人口まで減る、というのは理解できる。だが、そういう話でもない。人口が増えた結果、世界各地で紛争が激化、不安定な国際情勢化で核のボタンの誘惑が強くなれば、核戦争の勃発など、ありえない話ではないかもしれない。ただ、そういう風に順序を追って論説しているわけでもなく、本当にただ原因を並べただけ、なのが非常に残念な出来の本だった。
結局のところ、一番現実性があるのは核兵器による滅亡と、パンデミックだろうか。あとはせいぜい複合要因でしかないと思う。
後半の方になると、銀河系の崩壊とか超新星爆発とか、ポールシフトとか、科学的にも本当にあるのかどうか分からない話ばかりで、滅亡を肌身に感じることができない。ここも大きなマイナスポイントだった。
あと、誤字脱字がチラホラ見受けられ、なんか手抜き本の印象がぬぐえない。
どうせなら核戦争を主軸に据えて、これを一番現実性の高いものとして念頭に置きつつ、他の複合要因を探っていく、という感じで良かったのではないだろうか。ほかの要因は、せいぜい局地的、一時的な大災害レベルで、それで滅亡を煽るのはやりすぎだと思った。
個人的に一番気になった「悪意ある宇宙人の侵略」も、全くと言っていいほど消化不良で終わっている。ただ単に科学技術でだけ論じていて、宇宙人の取る地球侵略の方法などは触れられていない。そもそも、宇宙人がいるのかどうか、という話から始まっていて、結局肝心の内容には触れられていない。そんなものはいるという前提で進めてもいいんじゃないの?
というわけで、全体的に何が言いたいのかよく分からん本になってしまっている。
ただし、いつか人類も滅亡するときが来るというのは間違いないことであり、それが太陽系の崩壊なのか、宇宙の崩壊なのか、それとも人類が自らを機械に置き換えて全く人類という種を超越するのか、というSF的な話まで取り手を広げており、とりあえずさらっと人類滅亡について学びたい人の入門書にはいいのかもしれない。ただ、人類滅亡の道はそんなに甘くない。これを読んだうえで、各自がしっかり掘り下げること、それが一番大切なことなのだ(どんな本でも言えるが、これは特にそう)。