『ホークウッド』、『狼の口 ヴォルフスムント』
どちらもだいぶ前に読んだ漫画である。なんか微妙だったので思い出しながらレビューする。ただし、思い出しながらなので記憶に不鮮明なところもあり、正確性には欠ける(まあ、今さらこのレビューで正確性もクソもないのだが)が、ご容赦願いたい。
まずは『ホークウッド』。実在の傭兵隊長、ホークウッドを下敷きにした漫画で、中世の傭兵物語である。よくある中世ファンタジーと違うのは、主人公がイケメンでもなんでもない、ただの普通の人間であるということ、そして主人公は世界を救ったりはせずに、自分の傭兵隊を大きくするためにひたすら金集めに奔走する、冷徹かつ冷酷なリーダーとして描かれている。とりあえず4巻くらいまで読んだ。
アマゾンレビューを見ると、なぜか絶賛に近い評価でビックリした。確かにそれなりに面白い漫画だと思うが、そこまで絶賛するほどの内容なのか、疑問が残る。
アマゾンレビューの通り、地に足着いた主人公であることは確かだ。だが、その地に足着いた感の割に、絵柄が思いっきり日本の漫画風なのがいけない。絵と内容のミスマッチがいただけない。ギャグなどでは逆に絵と内容をミスマッチさせる(例えばアホなことを言うときにやたらリアルな絵になったりとか)こともあるが、ホークウッドはただミスマッチしているだけになっている。完全なフィクションだが、『ベルセルク』がどれだけリアリティに溢れていたか思い知らされる。
もちろん、あれ程の絵を描くのはプロでも何十年に一人の逸材であろうから、あまり高い要求はムチャブリであることは分かっている。ただ、もう少しリアリティのある絵、作品にあった絵を模索すべきであったと思う。
次にキャラクターだが、これも主人公は地に足ついている割に、他の登場人物が典型的な漫画キャラクターばかりで醒める。大河ドラマを描くなら、キャラクターを描いてはダメで、人物を描かねばならない。どうしてエドワード黒太子が少年誌的なキャラになってしまっているのか。また、取り巻きも忠誠心や騎士道を熱く説くのだが、あまりに価値観が狭すぎて「生きた人間」感がない。確かに騎士道などはこの時出来上がっていったものだが、実際にはあくまで騎士道は理想であり、現実は過酷で裏切り、暴虐、なんでもありの世界だ。騎士道的精神を持つ者がいたことは確かだ。ただ、それにしても描き方があるだろうということである。また、実際に騎士と言えども、複数の君主に仕えていたりなど、忠誠心のあり方も現代人の考えるようなものと全く同じではない。漫画でそこまで描くのも酷なのは分かるが、ホークウッドを浮かび上がらせるために、周囲のキャラクターを作っている感じがする。これは主人公に感情移入させる方法論としても間違っている。周囲を主人公に合わせるから、登場人物の中で物凄くバカな奴がでてきたりと、「こいつは主人公の引き立て役なんだな」と思えてこれまた醒める。
軍事作戦もイマイチ納得感が薄かった。騎兵に対して「特別ボーナスを出す」ことで兵士を駆り立てるという場面も、実際に5,600キロはある動物が全力で走ってきたらボーナス云々関係なく逃げると思うが……それなら織田信長も、わざわざ金をかけて鉄砲を大量に買わなくても、ボーナス支給で決死隊作ればいいだけの話になってしまう。まさかの作戦が金目当ての根性論だったことが驚きだった。それならまだ落とし穴の方がマシだし、狭い場所に逃げ込んでゲリラ戦、のほうが余程傭兵らしい泥沼の戦いだと思う。
今までにない作品を目指そうとした、その野心は素晴らしいが、なにぶん表現力が追いついていないのが残念。問題の核心として、史実に忠実なわけでも、じゃあ史実を取り込みつつエンターテイメントしてるか、というとそこも少し弱い、という、個人的に微妙な作品だった。
さて、次は『ヴォルフスムント』、別名「狼の口」である。こちらも中世ヨーロッパだが、スイスの関所を巡る戦いという、すごく限定した舞台なので現実感、スケール感がちょうどいい感じに収まっていて、まさにこれこそ「地に足着いた」漫画だと思う。
かと言って史実を追うことだけに終始せず、ちゃんとデフォルメして娯楽へと仕上げている。歴史を題材として扱う上手さは、明らかにこちらに軍配が上がると思う。
とにかくこの漫画、人が次々と残虐に死んでいく。また領主の糸目野郎(名前忘れた、ごめんね)がムカつく悪役に設定されていて素晴らしい。最近の漫画からは忘れられた悪役である。
ある人の論で、「ラオウは失敗した悪役」ということが言われていた。どういう意味かというと、悪役というのは悪に徹するから倒す快感が生まれるのであって、最近よくあるような「悪役にも実は悪を為す理由があった」とか「悪役も実はいいやつだった」みたいなことは余計な不純物、という意味である。
これには基本的に賛同する。ただし、ラオウに関してはあの悪役で良かったと思う。というのも、そういった悪役はすでに今まで出尽くしており、ラオウというのはそれに対するアンチテーゼの意味もあっただろうからだ。ましてやあの世界観、ラオウの悪役はあの悪だからこその魅力と輝き、そして悲しさがあって良かったと思う。
むろん、だからと言って例えばフリーザの過去を延々と語って「実はいい人でした」みたいなやり方をすれば、ぶち壊しもいいところだ。ドラゴンボールの悪役は、みんな純粋な悪だからこそ吹っ飛ばしてスカッとできるのである。
ただ、最近は純粋な悪役ではなく、何か理由のある悪、実は善人、などが多いように感じる。価値観の多様化を反映しているのかもしれない。また、主人公がそもそも悪役の『闇金ウシジマ君』などの作品も増えているように感じる。
そしてこの漫画もある意味ではこの糸目野郎こそが主人公である。この主人公は関所を不法に通り抜けようとするものを取り締まっているのだが、この攻防戦が面白い。特に最初の犠牲者は、馬糞を体に塗りつけてまで偽装して潜入するのだが、些細なことが原因でバレてしまう。そこからの処刑シーンも残虐で、問答無用で「こいつを殺さないと……」と思わせるレベルでむしろ潔い。
ただ、途中でこの糸目野郎があまりにすごい情報収集能力を発揮、ありえない場所に斥候を送り込んで待ち伏せしていたり、武術の腕も実は半端なかった、などどこに隠してたんだ的な高スペックを発揮。ハプスブルク家もこんな優秀な人間を関所管理なんかに左遷してないで、さっさと一軍の指揮官に格上げしろ!
最後の住民反乱軍vs関所の守備隊の攻防戦は凄まじい気迫に溢れていた。ただ一つ申し上げておきたいのだが、城内の罠の数々があまりに小学生が考えそうな幼稚な罠で、いくらなんでも少々鼻白んだ。まるでバイオハザードの謎解きレベルである。日常生活とか、実用性はどうなってるの、この城は……
5巻までしか読んでないので、これから先は分からないが、なんかもう決着ついたのでいいや、と思って読んでない。
でも、虐殺ファンタジーが大好きな方ならとりあえず読んでみて損はない作品だと思う。