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『夕暮れをすぎて』:(小説)スティーブン・キング

 やってきました、キング小説。これは短編集。何年も前に買って途中まで読んだものの、飽きてそのまま積本へ。たまたま思い出したので、また最初から読み直してみたけど……う~~ん、やっぱり微妙~~。まず最初の序文が長い長い! もうこれも捻って何らかの短編集にしてしまえや。『楽園の知恵』みたいにさ。

 とはいえ、微妙と言ってもさすがキング、それなりのクオリティではある。まず最初の『ウィラ』。これはレイ・ブラッドベリを彷彿とさせる、詩的で叙情的な、しっとりした短編になっている。主人公たちの孤独感には、共感せざるを得ない。しかし幽霊というのもいいのかもしれない。いっつも思うのだが、幽霊になるとなぜ死んだときの姿のままなのだろうか。別に若い時の姿でもいいと思うのだが。あと、植物とかの幽霊がないと、幽霊用の酸素などを供給できないのではないかと思うと夜もグッスリ眠れるのだが、そこらへんはどうなっているのだろう。まあ、とにかく、余韻もいい感じの珠玉短編である。


 そして『ジンジャーブレッド・ガール』。まずジンジャーブレッドが何なのか分からない。後書きには「パン屋から逃げるジンジャーブレッド・マン」とか書かれているが、要するに海外のおとぎ話か何かにそういう話があって、それをもじったのだろう。それにしてもジンジャーブレッドってなんだ? アンパンマンに出てこないマイナーパンなど知らん! 

とはいえ、中身は緊迫感あるサスペンスになっている。私はここで挫折した。というのも、主人公の女に全く共感できなかったからだ。その上、今回の短編集で一番長い。確かに赤ん坊を亡くしたのは精神的にショックも大きかろうが、どうしてもこの主人公のやっていることは八つ当りにしか見えない。自分の生活を支えてくれている夫にそこまで理不尽につらく当たるとは、一体どうしたのだろう。とにかく、ランニングの素質に目覚めた主人公はひたすら走り続ける。そして親の別荘に引きこもる。と言ってもすぐにランニングしに走り出すのだが、仕事もせずに別荘でランニングに専念できるとはいいご身分だ。案の定、異常快楽殺人者ピカリングに、ひょんなことがきっかけで拉致・監禁される。ていうか、むしろこういう女を一方的に痛めつけるだけの平山夢明的小説にしてくれたらもっと面白かったのに。あまりにも勧善懲悪というか、直線的過ぎる。エンタメにしても、もっと趣味の悪い歪んだエンタメにして欲しいものだ。年を取るにつれて、特に交通事故以来、キングはすっかり「大人」になってしまったように感じる。それは置いておくとして、この小説の最後の方は酷い。ピカリングは泳げないし、メキシコ人が刺されたのに主人公は放置してるし(普通はダメもとでもすぐに救急車呼ぶだろ!)、あげくに最後は自分のささやかな人生へ向かって走り出すって、そりゃなんじゃ? そこから逃げてきたんじゃないのか? まあ、帰ったら夫をちょっとは大切にしてやって欲しいもんだ。


 『ハーヴィーの夢』。これは短いながら独特の緊迫感があって良かった。やっぱり短編は短い方がいいね。あまり長すぎるとだれてくる。ハーヴィーが見た夢について妻に話すだけ、という内容だが、後の胸糞悪い展開を十分に想像させる、肌にねっとり絡みつくような読み味だ。場所がただ単に休日の居間、というのもいい。後書きでは「夢をそのまま書いた」とあったが、そういう作品の方が案外いいのかも。


 続く『パーキングエリア』は作家もの。そう、キングの分身、オッサン作家が主人公です。たまたま用を足そうと立ち寄ったパーキングエリアで男女の諍いに遭遇、諍いはすぐに男の暴力へと発展し……という展開。なんかもっと大きなサスペンスになりそうな、長編の冒頭になりそうな気もする。作家の中のもう一つのペンネームが疑似的な人格を持って、そいつが表に出てくる。今回はそのおかげで事件は解決したが、これ以降、作家の第二人格とも言えるもう一つのペンネームが、作家の自我を占領、暴力の快感に酔いしれた作家はだんだんと……みたいな展開で長編小説オナシャース!


 『エアロバイク』は一転してアホ作品となっている。いや、これは何もこの作品を貶めようとして言ってるわけではなく、多分キング自身も「俺ってアホだなぁ」とか思いながら書いていたに違いないくらい、いい意味でアホ小説である。というか何が「ということで、過ぎたるは及ばざるがごとし、何事もほどほどに」だww アホかww

 さらに後書きでは「愛憎関係ならぬ、憎憎関係から生まれたものだ」とか小難しいことを言い出す始末。ここら辺の後書きももうちょっとスッキリできないものか。別にそこまで難しい作品でもないだろうに……

 登場人物の口からはダークタワーのような多重世界を予感させるようなセリフもある。あるから何だ、と言われれば困るけど。

 体内ミクロマンの話にするなら、もういっそ肝臓帝国に蛮族がやってきて荒らし始めたのだ! くらいぶっ飛んだ話にしても良かったのではなかろうか。


 『彼らが残したもの』は9.11事件をモチーフにした作品。9.11犠牲者の持っていた品物が、突然主人公のオッサンの家の中に出現する。しかも夜中に囁くという、ちょっとホラーと感動をブレンドしたような感じ。

 確かに、9.11テロに関しては自分も衝撃を受けたし、痛ましいテロだとは思う。しかし、じゃあアメリカのやっている無人爆撃機やミサイル爆撃で死んだ人たちは無念でも無残でもないのだろうか。一方的なアメリカ人の犠牲者気取りのように見えなくもない。もちろん、このような見方は私が日本人だからであろうが……

 政治的な話にもつながってくるのでここら辺で打ち切るが、ただ一つだけ言えることはテロの犠牲者には何も関係もない、ということだ。ただ無残に死んでいった人間の無残な瞬間を、これでもかと見せつけている。この作品に政治的意図、というものはないのがすごいと思う。日本で同じような作品として「はだしのゲン」が有名だが、あれは政治的プロパガンダまみれで、とてもではないが原爆の体験を伝えられていないと思う。何よりの悲劇は、日本にキングのような冷徹な作家がいなかったことだろう。キングは創作に対して真摯な姿勢を貫いているが、それがよく表れていると思う。この作品には怒りも、憤りもない。ただ悲痛さとそれを忍ぶ心をそのまま描いた作品だ。当然ながら、この作品にイスラム教がどうのこうの、アメリカの中東政策がどうのこうの、など、何も言及されていない。登場人物も多分架空だろうし、物語も完全にフィクションだ。それでも、事件を伝えて余りある迫力がある。一方、『はだしのゲン』は――やめとこう。比べるだけキング作品に失礼だ。


 『卒業の午後』は、まるで白昼夢のような短編。夢のように脈絡がなく、全てリア充クソ女の独白である。それだけに最後のキノコ雲は全てを破壊する象徴としてより印象に残った。ところで、核の火を肉眼で見ると失明する、と聞いたことがあるのだが、もしそうならこのクソ女の目が開かれることはあるのだろうか。


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