古代人
服の心配をしながらも、城下町に向かい歩く咲人の少し後ろを早足で歩く蜜実。
「(城下町って事は城があるのね…。)」
咲人の服装から考えると大阪城とか…そんな所だろうか。
相変わらず咲人は早い。
蜜実は早足で歩いている。
“クルッ”
「あ、ねぇ蜜実。」
「はぶッ?!」
よって蜜実は“ドン”と言う音と共に咲人に勢い良くぶつかった。
涙目で鼻を押さえる蜜実に少々呆れ気味で溜め息をつく咲人。
「大丈夫?」
そう聞く咲人の顔はとても心配している顔ではない。
「うぅ…鼻ぶっけた…。」
顔をしかめ鼻を擦る。
「はぁ…前を見て歩かないからだ。」
「咲人が急に振り向くから…」
見上げた咲人の綺麗な顔が美しく歪んだ笑顔で《何か文句があるのか》と言う意を蜜実にここぞとばかりにアピールしている。
「はい。何でもないです。話してください。」
蜜実の顔は怖れで引きつった笑みを浮かべている。
「うん。蜜実、これから町に入るんだけど、お前は瞳の色をかえないといけない。」
「は?カラコン入れろって事?ι」
「カ…ラコン?って何だい?」
どうやらカラコンというものはこの世界には存在していないらしい。
「なんか、目のなかに色のついた半透明のチップ?みたいなのを‥
「そんな事するよりも僕が変えた方が早いだろう。」
蜜実は口に出さなかったものの心のなかで
「聞いといてなんだよ!!!」
と盛大に突っ込んだ。
「ってか何で目の色なんて変えなきゃイケナイの?!」
そう。そもそもの疑問点はソコ。
「ん〜。話すと長いんだけどι…色変えてから町入って落ち着いてから話さない?」
「…却下。」
さっきの様に訳が解らないまま訳の解らない呪いやら魔法やらかけられては堪らない。
「はぁ…まぁ、じゃあ長くなるケド大切だからしっかりきいといてね。」
そう言うと咲人が話しだした。
「この世界では、黒い瞳の人種は、古代人とされているんだ。」
「古代人…?」
蜜実はあまり日常では聞き慣れない名詞に首を傾げた。
「この世界は、太古の昔、妖精よりも、精霊よりも、魔法使い達よりも頭が良く、今よりも高度に文明が発達していた、古代文明と呼ばれていた時代があったんだ。」
「でも昔でしょ?滅んだの?」
「ああ。滅んだ。それも一日にして。それも他国との争いで、だ。」
「そんな…」
元の世界にも他国との争いは頻繁にあったので、その古代文明の終末がやけに重くのしかかった。
「古代人達は、一説では天使達の末裔と言われていて、背に翼を背負い、強大な力を持っていた。そして、ある文献によると、その古代人の中でも特に大きな力を持ち時空を越える力を持つ、黒い瞳の人々がいた――、と。」
「あた…し?」
この瞳の色は日本人特有ではなかったのか。
あたしには翼なんてない。じゃあ何?
そんな疑問が蜜実の中を満たす。
「さぁ、それは蜜実自身解らなければ誰にも解らないよ。調べる方法なんてないからね。ただ、この世界では、‘確実に’古代人だと思われる。古代人が時空を超えてきた、ただ一人生き残った古代文明を継ぐ者だ、ってね。そうするとこの世界全体が大騒ぎになる。だから瞳の色を変えたほうがいい。」
「その…咲人は…あたしの事を古代人とか思うの? 瞳が黒いというだけで。」
咲人はしばし考えてから答えた。
「…この世界の中で黒い瞳を持つ者は蜜実だけだ。だから文献からすると蜜実は古代人の確立が高い。 確かに蜜実の力は覚醒していないだけで尋常ではない強さだ。」
「はっ…?あたしに、魔力?ι」
間抜けな声を出す蜜実に咲人は
「あとで覚醒させればわかる」
と言った。
「まぁ、蜜実が古代人だろうがなかろうが僕は強大な力を持つ者が、しかも覚醒していない者が一人でいるのは危険だと思う。 古代人だとすれば尚更だ。蜜実があの日来る事は予知した。だから迎えに行ってやったんだよ。」
咲人はニヤリと笑う。
「咲人は予知できるの?イヴェ…」
イヴェーリオも予知できるんだよ。と、言おうとした時イヴェーリオが、《存在を知られてはいけない》と言ったのを思い出し、口籠もった。
「僕も特殊な血筋…だからね。」
咲人は蜜実に不適な笑みを向けた。
「さぁ、魔法をかけるぞ。目を瞑って。」
理由を聞かされた蜜実はおとなしく目蓋の前にある咲人の手のひらに従い目蓋をゆっくりと閉じる。
「《瞳の奥に潜む十二宮よ、汝等の色彩をコバルトに変えよ》」
咲人が、蜜実の目蓋に手をかざし呪文を唱える。
「もう開けてもいいだろう。」
蜜実が恐る恐る目蓋を開く。
蜜実自身から見た景色は一切変化していない。
「…咲人…変わってる?」
蜜実は心配になり咲人に問う。
「僕がかけたんだ。失敗する訳ないだろう?しっかりとコバルトブルーに変わってるよ。」
咲人のこの自信はいったい何処からくるのだろう。
そんな疑問を残しながら二人はすぐそこに見えている外壁と門を目指し歩いた。