其の瞳は
「…そんな…訳はない…か。」
青年は蜜実の隣にしゃがみこんだ。
「……………ん‥」
「あ、起きた?平気?」
蜜実が目を開けて一番に入ってきたものは、
紅。
其処には、咲人が蜜実を覗き込む形で座っていた。
「さく…と‥さん。」
「咲人でいいよ。」
「あたし…さっき…?」
「大丈夫?蜜実。」
咲人はその紅い目を僅かに細めた。
蜜実はその瞳に囚われたまま返事をする事もできない。
「大丈夫?」
咲人がもう一度言った。
もう一度言った所でやっと気が付く。
「あ…うん…。」
「じゃあ、行こうか。」
「ぇ‥?…何処へ…?」
「蜜実はずっと湖にいてどうする気?」
咲人はニコッと笑ったが蜜実にはそれが何故かとてつもなく恐ろしく見えた。
まるで、すべてを見透かす様な。
「だって…あたし…家には帰れない…っていうか返れない、し…。」
「きみは、呼ばれたんだ。」
咲人は湖を囲む森の中に歩きだした。
「ま‥待って!!!」
蜜実は急いで追い掛ける。
「呼ばれた‥って、誰に?」
咲人の少し後ろを歩きながら問う。
「蜜実は、ニンゲンだろう?此処にはニンゲンなんて存在しない。ならば呼ばれた。この世界に必要なんだよ。」
そう優しく言うと振り向き、異性同性老若ひっくるめ皆が赤くなってしまうような笑顔を蜜実に向けた。
「世界に…?」
咲人は黙って頷く。
「これから…咲人は何処行くの…?何かあたしついて来ちゃったケド…」
よくよく考えれば蜜実は
「行こう」
と言われ反射的についてきてしまった。
…まぁあの場に残っていた所でなんとかなった訳では無いが、見知らぬ男にこうもやすやすとついてきて良かったのか。
蜜実は今になって心配になってきた。
「僕の家。」
…
「…………はぁ?!」
「蜜実、ニンゲンだろう?家あるのかい?」
これはこれはまた痛い所をついてくるものだ。
「で…でも咲人に迷惑がι」
「だけど魔法も使えない蜜実を放置する訳にもいかないだろう。」
咲人は笑う。
そこで蜜実はふと気付いた。
「…ねぇ、…なんで…湖にあたしがいる事知ってたの…?」
それに気付くと蜜実は背筋が冷えてきた感覚がした。
「…いつか、ね?」
咲人は振り向くとゾッとする様な笑みを浮かべた。
蜜実はそんな咲人を睨んだ。
「失礼な事言って良い?」
「なんだい?」
咲人はクスクス笑う。
紅い目が再度細まった。
「さっきから、その…張り付けた笑み…止めて?つくり笑い。」
蜜実は未だ咲人をにらんだままだ。
咲人は笑った。
先程の様にニッコリ人当たりの良い笑みではない。
ニタァ…と、その紅い瞳を更に細めて楽しそうにいやらしく笑う。
「フフフ…、本当に面白い子だよ蜜実。」
咲人はいやらしい笑みを張り付けたままジリジリと蜜実に近寄る。
蜜実は蛇に睨まれた蛙の様に、恐れで動けなかった。
咲人の瞳は紅です。黒っぽぃ紅。