「ただいま」
蜜実はバスを降りると耳にMDのイヤホンをかけて、バス停の近くにある公園に止めた自転車へ向かい歩きだした。
MDからはとめどなく女の声で言ノ葉と音が紡ぎだされる。
『闇の海
私が夜の淵に飲み込まれ る時
貴方はただ星の光で抱き 寄せていてね
何億光年も前から私たち 二人
運命的に出会っていたで しょう
空気の様に
風の様に
とめどなく流れだす
この想いと
涙の色を思い出して』
蜜実はこの歌が好きだった。
透き通る程のピアノのメロディ。
弱いけれど芯のあるメロディラインを辿る声。
このMDを聴いて歩く帰り道は心地が良い。
冬の匂いのする風が蜜実のセミロングの母親譲りの黒く輝く髪を揺らした。
公園に着いた蜜実は手早く自転車に乗ると、早く暖かい所に入りたい一心で冷たい風が吹く冬空の下、自転車を走らせた。
吉畑と表札が出ている一軒家の前まで来ると、蜜実は自転車を停め鍵をかけた。
ブレザーの右ポケットをごそごそと探ると何処かで見た事のある黄色く、赤い服を着た熊のキーホルダーが付いた鍵をだした。
自宅の扉を開けると主人が居なくなった家に向かい
「ただいま…」
と呟く。
もう
「お帰り」
と言ってくれる人は居ないのに蜜実は癖でそれをずっと続けていた。
何度か
「ただいま」
と言っても返ってくるはずのなない返事を期待したこともあった。
だが蜜実は持ち前の前向きさで[もう戻ってくるはずはないのだからこれからは振り返らず前を向き生きよう]と割り切った。
淋しい時や悲しい時もあるけれど、蜜実は強くなった。
玄関で靴を脱ぎ終えて上がろうとした蜜実は、目の前に変な物を見つける。
「ん〜…?ι」
取り敢えず自分の目の異状ではないかと目を両手で擦ってみる。
…だがやはり目に写る物はかわらない。
物…と言うより空間だ。
「ん〜??何…コレ‥??」
熱気の向こう側からこっちを見た感じ…と言うか、
タダ単純に空間が歪んでいる。
「ふぇ〜?!何。何何!」
蜜実は独り言を口走り、その空間の歪みに手を伸ばす。
「…?」
“ヌッ…グイッ!!!”
「…きゃ?!!?」
孤独な少女は空間から急に伸びてきた腕により、其処から跡形も無く何処かへ引き摺り込まれた。
登場人物少な…笑 次は増やすんで笑