03.翼の人々
ラインは心の底から残念がるシイロンに、苦笑するような溜息をついて視線をやる。それからふと思いだしたように言葉を紡いだ。
「そういや、けっきょく飛天てどうして滅んだんだ? ありとあらゆる技術、魔術に秀でてたんだろ。疫病とか争いとか、そんな陳腐な理由で滅んだとは思えないぞ? 云い伝でははっきりと『神の怒りにふれた』とあるが、信じるには無理がある。まぁ、ほかにも色々云われてるけどさ」
もっともな、疑問だった。
美しい姿をもつ飛天。彼らの築いた社会は『理想的』だと云われる。どんな風に理想的だったのかは、わからない。ただ、『理想的』であったと記される。それは彼らの暮らしぶりが平和で豊かで穏やかで、おおよそ、貧困や争いとは無縁だったことに由来するのだろう。
だが、飛天はある日突然に滅んだ。何の前兆もなく。天変地異が起こったのでもない。ただ、その日、かつて存在した多くの〈古よりの人々〉が『飛天はもういない』と知ったのだ。
それっきりである。
なぜ滅んだのか、どんな最期を迎えたのか、それを知る者はいない。
何もかもが曖昧で、それ故に飛天は時として『幻の民』と呼ばれることもある。
後世の人々のあいだでは憶測だけが飛びかい、けっきょく彼らの王が神の怒りにふれ、滅ぼされてしまったのだという結論で落ちついた。王が居たのかどうかさえもわからず、ましてや怒り狂った神についてもわからない。どんな禁忌を犯したのかなど、考えるだけむだだ。人々がだした結論は眉唾ものでしかない。
しかし、そう思わせる何かが、彼らの最期にはある。
それだけ彼らは『忽然と消えてしまった』のだから。
シイロンは静かに窓の外へ目をやった。
「──かつて、俺たちは時の導きによって飛天をかいま見ることができた。だけど『飛天の滅び』そのものを見たワケじゃない」
そう、シイロンたちは飛天の姿を、社会を、少しだけなら知っている。ほんの気まぐれのようなものだったのだろう。その気まぐれのおかげで、死にそうなほどの苦労をしながら世界中をかけずり回されたのだが。
それはまた別の話である。
「俺たちが目にした飛天の姿に滅びの影は──、なかった」
だが飛天は滅んだ。
それが事実であり、それだけが真実なのだ。
ごろりと寝ころがっていたフィリスは、ふと、空気がかわったことに気づいた。何だろう、と身をおこした先には村が広がる。そこに異変はない。だが彼女の胸はそわそわと、何かを告げる。立ちあがり、周りをくるりと見わたした。
そして目に留まったのは、木々の向こうからわずかに光をかえす泉の水面だった。シイロンの舘からよく見える、不思議な泉。
首をかしげてその泉をとおくから眺める。
変化は、突然始まった。
水面の光がましたかと思うと、その上にゆっくりと蜃気楼のように大きな影が映しだされる。ほかでもない、〈天空の島〉の姿だった。
「うわぁ……」
村人が泉を神聖視する理由だった。
この近くに〈天空の島〉はない。
だが、どこに浮かぶともわからない〈天空の島〉の姿を、泉は蜃気楼のように見せてくれるのだ。
風が、また一つ吹いた。




