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コラプススタンプ   作者: アネミアン
3/6

2:マスター・テイス

レンガ造りの町の喫茶店に男が居る。

マスター・テイス。周りからはそう呼ばれている。茶色い髪を肩まで伸ばして服装は喫茶店のマスターとは思えない程ラフだ。本人はそれが良いと思っている。

喫茶店の中はとても静かだ。客は居ない。

店の外を二人の男が通りかかった。店を指差し話している。

「・・・・・もう、行かない」

「ああ、俺も」

「もっと静かなとこに行くよ・・・・・」

その二人の後ろを歩く一人の少年。黒いコートが港町の風で揺れている。その少年はテイスと書かれた店に入って行った。


     ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


マスター・テイスは店の掃除をしていた。客は来なくても埃は溜まる。店の床は軋んでいるが、そんなことを本人は気にしていない。

その店に一人の客が入ってきた。

「何の勧誘も受けないぞ」

これはマスターの口癖だ。最近の会話はこの言葉しか言っていない。しかし、顔を上げるとそこに居たのは少年だった。

全身真っ黒。マスターのカラフルな服とは全く違う。

「い、いらっしゃい」

少年は箒を持つマスターの前を通り、椅子に座った。

「何か飲み物を下さい。何でもいいです。お金なら鉱山一個分ありますから」

何とも面白い表現だ、とマスターは思った。

ふと、少年のコートが目に留まる。薄いが丈夫そうだ。この辺りでは見ない。

「分かりました。お客さん、どこから来たんだい」

だからそう聞いた。

「なんで、この町の人じゃないと分かったんですか」

「おいおい、質問に質問で返してどうするんだ」

マスターはコーヒーを用意しながら言った。

「私は・・・・・日本と言う所から来ました」

「へえ、聞いたことの無い所だね」

マスターは続きを促す。しかし少年は続きを語らなかった。

「あなたはこの町でずっとこの店をしているのですか」

彼は逆に聞いた。マスターは少し困った。

「ん・・・・いや、昔は他の事をしていたよ」

「他の事、ですか」

少年が話を促す。

マスターは少し考え、話し始めた。

「昔は偉い人をしてよ」

「偉い人ですか」

コーヒーの香りがする。

「ん、ああー、帝国の中でね」

「へえ、凄いですね」

「いや、そんな事無いよ」

マスターは人から褒められる事があまり無かったので、大げさに謙遜してしまった。

一応だが、帝国の国政に関わった身だ。少年に焦らされては少し悔しい。

「お客さん、その歳で魔法が使えるのかい」

「あなたもですよね。それが分かるってことは」

また返された。もはや態とやっているとしか思えないが、そのような雰囲気が少年には無い。

鉱山の話に、上質な服装。それにそこそこ上手い魔法使いのマスターは彼の計り知れない程の魔力を感じる。王族の用心棒にもこれほどの魔法使いが居た覚えは無い。

この少年はマスターの好奇心を誘った。

「ああ、まあね。君はかなりの魔力があるけど、お父さんは有名な人かい」

「ええ、あまり話すつもりは無かったのですが、ここを出たら次の世界へ行くので話しましょう」

「君、界外者か!」

マスターは話の続きを待てなかった。

「はい。父は日本で魔法開発の研究所を開いていました。もうかなり前に死にましたけど」

「そうか、その歳でもう。すまないことを聞いてしまったかな」

「いえ、もうずっと前の話です」

「ずっとって、君の歳じゃ十年前が限界だろ」

目の前の少年はカウンターから肩がぎりぎり見えているぐらいだ。

少年は少し笑って答えた。

「私、これでも二百年以上生きていますよ」

「それは面白い冗談だ」

「証拠が見たいですか」

少年はマスターの目を見ていった。

そしてコートの袖を少しずらした。

コーヒーの用意を続けるマスターの手が止まる。

少年の素肌は張りが無く黒ずんで、血管だけが骨に纏わりついている様だった。

「成長は止まっても、老化は続く。顔だけは魔法で普通に見えるようにはしていますが」

少年は袖を戻し、腕を重ねた。

マスターは金縛りにあったように止まってしまった。

「飲み物はまだですか」

その言葉でマスターは我に帰る。

少年が魔法陣を描き消えるまで、その口を開く事はできなかった。

再びマスター一人になった店で、コーヒーのカップと小さな金は窓から入る赤い日に照らされた。

少年は楽しかったですと言って消えた。

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