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コラプススタンプ   作者: アネミアン
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1:ハナ・カラブロンド

人の流れに逆らい、一人の女性が歩く。

ハナ・カラブロンド。それが彼女の名前。見た目は20前後のただの女性。黒い髪を肩の辺りまで伸ばし、白いワンピースを着ている。少し細めの体格で、一言で表すと綺麗より可愛い。

道は乾いた黄色い土。町の中の一本の道。そこを、周りと逆の方向へ進む。

彼女が人々の混雑と闘争を恐れ、向かった先は町のはずれの一軒の店。食用品や生活に使う小物などを売っている。その店の扉を開け中に入ると一人の少年が買い物をしていた。

その店は小さく、人が十人も入れば身動き出来なくなってしまう。しかも位置が村のはずれだ。

カウンターの奥にはいつも通り一人の老人が座っている。この店の主人だ。

「いらっしゃい、ハナちゃん」

優しい声がかかる。いつもの事だ。しかし、この時間に他の客が居たのは初めてだ。

その客は、黒い髪に全身真っ黒な服装をしている。どうやら眼鏡をしているようだ。

だが、年齢は十歳よりも少し大きいぐらいだろう。なんとも異彩な雰囲気を纏っている。

この時間はこの町を支配している大富豪、ディース様が金を配っている頃だろう。

ディース様はこの町の鉱山を占領し、人々に少しの金を配り自分の支配下においている。彼がそこで取っている鉱物から生まれる利益は異常だ。もちろん働いているのは支配下に置いた人々なので、彼には勝手に利益が入る。

人々は生きるためにはディース様に従わなくてはいけない。その金があるから彼らが生きている。もうこの町は占領寸前だ。

彼女は、未だに彼に屈していない、数少ない町人だった。

目の前の少年はパンを適当に取りカウンターに出した。そして、黒いコートのポケットを探る。ハナは銅貨を取り出すと思ったが、そこから出て来たのは1枚の紙だった。少年の一言でカウンターに置いた紙が金塊に変わる。

ハナは自分の目を疑った。まずその金塊が見たこともないほど大きい事。その大きさはレンガほどであった。次にそれがいきなり現れた事。彼女は魔法の類に詳しくない。彼女の乏しい知識ではその光景はまさにありえない事だった。

さらに、その金が細かく切られる。少年は手で軽くなぞっただけだ。

「金で払ってもいいですか」

そう少年は問う。

ハナと同じく驚いている店の主人の頭はその言葉の理解に手間取り、少し経った後にもちろん、と返答した。

「ありがとうございます」

その一言を残し彼が店を去ろうとした所で、ハナと目が合った。

「あなたはディース様には従わないのね」

彼の素性が気になった彼女は聞いた。

「ディース様とは誰ですか」

と、彼が答える。ハナの頭はその一言から、よそから来たばっかりの者だと判断しようとしたが、年齢と上手く噛み合わない。わずか十歳と少しの少年が旅などをするはずも無い。彼女には少年が何者かは分からなかった。

「大丈夫ですか」

少年の一言で我に帰る。

「え、ええ。ディース様は鉱山を持ってる人なんだけど知らない?」

少年は首を横に振った。しかし少年は口を開いた。

「鉱山があるのですか」

「ええ町を真っ直ぐに行ったところよ」

普通に答えられた事に安心する。しかしその事に安心を覚えている自分に驚く。

この少年との会話は彼女にとって随分と神経を使うものだった。

「ありがとうございます。私は硬貨は使わないので」

彼はそう残し、店を出て行った。彼が歩いて向かった方向は鉱山。そしてその前にはディース様の屋敷。

彼女がそのことに気づくまでに、少年は人ごみに紛れようとしていた。


     ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


買い物も忘れて店を出た。

鉱山の方へ伸びる道を見る。鉱山の入り口にディース様の屋敷がある。

今日は金の配布が行われている。しかし彼女は行かない。理由は彼のやり方に不満がある事と、彼女のような力の無い者が行ったところで、奪われて終わることは目に見えていること。

彼女のような者が屋敷を出てすぐ襲われる光景を、家が近いハナは何度も見ていた。それが見たくないから、毎月ここ、町のはずれの老人が経営している店まで来るのだ。

道には、これから向かう人と強奪に逢い、逃げてくる者であふれていた。この時間に家に残る者が少なくなることと、これを求めて遠い町からやって来る男が大勢いるからだ。

その中を進む。さっきの少年を止めるため。

狭い道は進みにくい。

少年は見つからぬまま屋敷の前に着いた。

中に入ったかもしれないと思い、屋敷の柵をつたって、屋敷の横に移動していく。柵の隙間からは屋敷の前に集まる人々が見える。

鉱山は屋敷のすぐ裏、屋敷の敷地の中にある。気がつくと、そこのすぐ脇の柵の外まで来ていた。

もしかしたら、と薄い希望にすがりそこで待つ。

しかしすぐに彼が現れた。距離は普通の声がぎりぎり届くぐらいだ。呼ぼうと思ったとき、彼の後ろからディース様が現れた。

開きかけた口を閉じる。この町でディース様に反感を買っては生きていけない。そこまでこの町は彼に支配されていた。

ディース様の横の二人の兵士の内の一人が前に出た。少年は鉱山へ歩き続ける。

「止まれ!」

その声は彼女にも聞こえた。

少年は振り向いた。

二人の距離は離れている。

「勝手に人の領地に入るとはどういう事だ」

ディース様も進む。

「あなたはこの鉱山を町から買い取ったのですか」

少年はディース様に向けてそう言った。

「何?」

ディース様は凄みを出して言ったようだが少年は全く反応を見せない。

「買い取ったのでなければ、持ち主はあなたではない」

少年は自分よりも大きな三人に静かに言った。

「俺が管理しなければ、誰が管理するんだ。君も見ただろう、屋敷の外の混乱を。管理する者が居た方がいいのは分かるだろう」

「あなたが来る前はこんなことは無かったと言っていた人が居ましたが」

少年は事実を告げる。

「そんな事は無い。それはどっかのホラ吹きだ。俺も忙しいから早く出て行け」

ディース様は少年を睨む。私なら何も言えないだろう。彼女はそう考え、少年の勇気を心の中では褒めるものの、このまま何もなく出してもらえる筈も無い。

「管理するならば、この鉱山で取れるものをあなたが独占する権利があるのですか」

その言葉は事実であるが状況をさらに悪化させる言葉だ。彼女は柵の外からそう思った。

「ちゃんと民の分は用意している」

「その分では、鉱山での働きの給料にも満たない」

二人の言い合いは徐々に激しくなる。ディース様は言葉が荒くなり、少年はディースにとっては痛いであろう事をどんどん言う。

「ふっ」

ディース様は軽く笑った。その顔は笑ってはいなかったが。

「鉱山を狙う者が進入した。捕まえろ!」

その言葉を待っていたように二人の男が少年に向かう。少年は動かない。

ハナは柵を越えようと掴むが、真っ直ぐな棒を彼女の握力では登れ無い。

男が手を少年に伸ばした。口には笑みを浮かべている。

しかし、その手は少年の手に掴まれた。

少年はその手を捻り、足を狩り、地面に押さえつける。

「すいません。魔法は今使いたくないので、乱暴な方法しかないもので」

少年は男の首を小さい靴で踏み気絶させた。

もう一人が後ろに下がり剣を取り出す。少年はそれを見て、気絶した男から剣を取る。

男は怖がっているが、少年にはその色が見えない。ハナは柵の外から呆然と見守る事しか出来なかった。

「おりゃーーー!!」

男が走り出した。少年は恐怖で震える剣を難なくかわし、剣で剣を飛ばした。

男の剣は地面に落ち、男は剣を向けられ動くことが出来ない。

「管理者が居ないのならこうしましょう」

少年はそう言って鉱山の方へ歩き出した。誰も彼を止める事は出来なかった。

彼が鉱山に触れる。その途端に鉱山は山ごと消えた。

ハナには何がどうなっているのか分からない。

山が消えた平地の向こうには商業で賑わっている大都市が見えていた。

そこに黒い帽子の男がいきなり現れた。その男が少年に近づこうとする。

しかし、一歩目にしてその体は黄色い光の筋に貫かれた。

光の本は少年。光の先にあったディース様の屋敷は、上半分ほどが消え、庶民の家と同じぐらいの高さになった。

光に貫かれた男は叫び、消えた。

「やはり、ここまでやるとばれますね」

そう呟き、彼も消えた。


     ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「あの子だったとは面白い。長生きはするもんじゃの」

「ええ」

ハナと店の主人が、カウンターを挟んで世間話をしている。少年が消えてからもう一月が経った。

「彼のお陰でこうやって生活出来てるんじゃな」

彼のお陰で大都市との交通が便利になり、この町も徐々に賑わって来ている。

ディースはあの後どこかへ行ってしまい、あのころの様に、わずかの金のために鉱山で働くなんて人は居なくなった。この町は全体的に良くなったとは思う。

しかし、この町の澄んだ湖を占領としている貴族が大都市からやって来た。

「では、私は行きます」

少し話したあと、ハナはそう言った。

「大丈夫なのかい?」

老人は心配そうに彼女を見る。

「ええ、あんなやつには一言、文句言ってやらないと」

「ハナちゃん、変わったねえ」

「はい。黙ってるだけじゃいけないって分かったんです」

彼女は湖に向かった。彼女は本当に変わった。

「昔は静かな子だったのに。長生きはするもんじゃ」

彼が支払った金は高く売れ、そのお金で発展した店は町の賑わいもあって前よりも繁盛している。

「ほんと、長生きはするもんじゃ」

こんな感じでやっていきます。

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