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悪役令嬢の追放からの逆転スローライフ〜辺境公爵の『溺愛業務』を請け負います〜  作者: 木風


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第六話 父上への交渉、条件は「北方辺境領」です

最低限の私物をまとめた馬車が、公爵邸の裏庭で待機していた。

荷台の麻袋は口を縛られ、そこに詰められているのは、宝石でも絹でもない。生き延びるための、必要最低限。


リリアーナは最後の謁見のため、父であるロドルフ・ヴァイスハイト公爵の執務室へ向かった。

公爵邸は、先週の舞踏会以来、張り詰めた緊張感に包まれている。廊下を行き交う使用人の足音まで、どこか硬い。

公爵は王子の軽率な行動に対する憤怒と、娘の運命に対する深い懸念に苛まれていた。


執務室に入った瞬間、熱が肌を刺した。

ロドルフ公爵はすでに激昂の極みに達していた。


王国で最も尊敬される政治家の一人。その威厳は城壁のように重厚だ。

だが今、顔は赤黒く染まり、眉間の皺が怒りを露わにしている。机上の書類の端が、握りしめられてくしゃりと歪んでいた。


「リリアーナ!よく聞け。父はおまえの無実を証明し、王子の不当な決定を撤回させるために全力を尽くす。公爵家は王室に対する名誉回復の要求を、すでに正式に行った。あの王子が一時の感情で国政の均衡を崩すなど、断じて許されることではない!」


ロドルフ公爵は、ヴァイスハイト家が持つ全ての政治力を投入し、この不当な断罪を覆すつもりだった。

眼差しには、娘への愛情と、公爵家の名誉を守るという義務感から湧き上がった純粋な決意が宿っている。

本気だ。だからこそ、危うい。


しかしリリアーナは、その感情の波を受け流した。

舞踏会で王子に向けたものと同じ、感情のない、完璧に制御された表情を保ったまま。


「父上、ありがとうございます。ですが、わたくしは……撤回を望みません」

「何だと?リリアーナ、何を言っている!」


公爵の声が跳ねる。


「おまえは、あの不当な断罪を受け入れろというのか!」

「はい。わたくしは、極めて冷静です」


リリアーナは息を整え、言葉を選ぶ。


「父上。王子の宣言は、既に衆人環視のもとで行われました。今、それを力ずくで撤回させれば――公爵家が王子の『真実の愛』を暴力的に抑圧した、という新たな物語を生むだけです」


言い切りが、室内を静かに切った。

ロドルフ公爵が反射的に言い返しかけたのを、リリアーナはあえて待った。間を置けば、怒りは少しだけ形を失う。――それも計算だ。


「王子は既に、わたくしを『悪』として、セレナ様を『光』として定義しました。ここでわたくしが感情的になり、王子の決定に抗えば抗うほど、世間は王子とセレナ様に同情し、公爵家は『権力を笠に着た悪』として描かれます」


「だが、無実ではないか!」


机を叩きかけた手が、宙で止まる。


「おまえがセレナにしたとされる行為は、全て王室防衛のためのやむを得ない措置だったと、父が証明する!」

「それは――公爵家と王室の間で、密室で処理すべき情報です」


リリアーナは一歩も引かない。声を荒げないからこそ、余計に刺さる。


「公表すれば、王子の無能さが露呈し、国政に深刻な混乱を招きます」


そして、視線だけを上げた。


「父上は、王国の安定よりも、ヴァイスハイト家の名誉を優先されますか?」


冷徹な問いかけが、ロドルフ公爵の最も揺るぎない価値観――

王国の安定こそが公爵家の使命である、という自負――へ突き刺さる。

公爵は言葉を失い、怒りの炎が、急速に冷えていくのを自分でも感じたはずだ。


「では、どうしろというのだ……!このまま不当な断罪を受け入れ、国外追放か修道院行きか!公爵令嬢が、その屈辱に耐えろというのか!」


絞り出す声には、怒りよりも焦りが混じる。

ここで、リリアーナは切り札を切った。

だが、それは涙でも懇願でもない。――条件だ。


「いいえ。わたくしは王室からの『解雇』を受け入れます。その代わり、名誉毀損と、長年王妃候補として尽くしたことへの慰謝料を要求します」

「慰謝料……だと?」


公爵が眉を上げる。


「はい。そして、その慰謝料の形で、わたくしに特定の処分を下していただくのです」


リリアーナは、前もって準備していた書類を執務机の上へ滑らせた。

王室に対する正式な要求書案。

その内容は、公爵の予想を遥かに超えていた。


一、名誉ある離脱の保障。

リリアーナ・ヴァイスハイトは王子の婚約破棄を受け入れる。

ただし『罪人』としての国外追放ではなく、王妃教育による激務で体調を崩し、静養のため公爵家の辺境領地へ隠遁――という名誉ある形で処理すること。


二、慰謝料としての領地の確定。

隠遁地として、公爵家が所有権を持つ北方辺境『アウロラ領』を、リリアーナ個人の私有地として正式に王室に承認させること。


三、資金援助。

アウロラ領での開拓事業を名目に、公爵家からの援助とは別に、王室予算から多額の『静養費』を確保すること。


ロドルフ公爵は読み進めるうちに、娘の常軌を逸した合理性に、息を呑んだ。

これは感情的な反発でも、悲劇的な自己犠牲でもない。

最大限の利益と自由を確保するための――周到な政治的取引だ。


「……リリアーナ。貴様、修道院や国外追放を完全に拒否し、自ら辺境の領地を要求し……しかもその開拓費用まで王室に請求しているのか」

「はい、父上。それが、今のわたくしにとって最も理に適った処分です」

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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