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悪役令嬢の追放からの逆転スローライフ〜辺境公爵の『溺愛業務』を請け負います〜  作者: 木風


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4/20

第四話 追放計画、こちらから最適化いたします

馬車は静かに公爵邸の裏門を抜け、彼女個人の研究棟や書斎がある離宮へと到着した。

空気が違う。人の気配が薄い。ここなら、余計な視線もない。


私室に入るなり、リリアーナはエルネスタへ指示を飛ばした。


「わたくしの私物を整理してください。高価な装飾品、王家から贈られた品々、そして公爵家の紋章が入ったものは、全て残すように。持ち出すのは、本当に最低限の衣類と、研究用の資料……そして個人的な貯蓄だけです」


エルネスタは混乱していた。

けれど、リリアーナの感情を一切含まない冷徹な眼差しに、逆らうことができなかった。

その目は命令というより、決定だった。


悪役令嬢が自ら財産を放棄し、潔く身を引く準備をしている。

この事実は、ヴァイスハイト公爵が王宮と交渉する上で、最強の武器になるだろう。

『奪うつもりはない』と示した瞬間に、奪う側の醜さだけが際立つ。


リリアーナは私室の壁にかけられた、大きな王国全図へ近づいた。

指先が迷いなく動き、国の遥か北端――誰も見向きもしない、凍てついた領地を指し示す。


「エルネスタ。この『アウロラ領』について、公爵家が保管している資料を全て集めてください」

「アウロラ領、ですか?あそこは公爵家が所有してはおりますが、ほとんど人が住まぬ、不毛の雪原地で……」

「ええ。だからいいのです」

リリアーナは淡々と頷いた。

「もしこの国に残ることを許されるならば、あの領地へ隠遁したいと、父上に伝えます」


アウロラ領。

ゲームでは『忘れられた辺境の地』として知られている。

だが、リリアーナの記憶には――この土地に隠された真実が刻まれていた。


古代の賢者が築いた巨大な遺跡。

失われた魔導技術。

そして、特定の条件でしか開かない封印。


(ここなら、生き残れる)


喉の奥が、熱を帯びた。


(いいえ……生き残るだけじゃない。切り札になる)

(誰も私に注目しない。王子も、セレナも、彼らは自分たちの愛の物語に夢中だ。辺境に追いやられた元・悪役令嬢など、すぐに忘れるだろう)

(それが、私にとって最高の自由になる)


彼女は豪華な菫色のドレスを脱ぎ捨て、使用人用の地味で動きやすい麻のローブに着替えた。

化粧も落とし、鏡に映る自身の姿をじっと見つめる。


そこにいるのは、社交界の華としてのリリアーナではない。

ただ生きることを決めた、一人の女性だ。

唇は乾き、目の下には薄い影がある。それでも、目だけは冴えている。


そして彼女は、残された攻略対象者たちのことを思い出した。

ヘンリー王子は論外。

だが、他の五人のルートには、彼女の運命を左右する重要な情報が隠されている。


特に――最も攻略が困難とされた人物。


カイン・アルヴァロ・アルテミス。

魔法師団総隊長。『影の公爵』アルテミス家の次期当主。

彼はリリアーナの幼馴染でありながら、彼女がヘンリー王子を選んだことで、常に陰から見守る悲劇のサブキャラクターだった。


ゲームのリリアーナは、カインの献身的な愛情を、傲慢にも利用し、そして拒絶した。

けれど、前世の記憶を持つ彼女は知っている。


カインのルートは、この世界の真実に最も近い。

そして――誰よりも深く、リリアーナを愛してくれるルートだ。


リリアーナは、カインが舞踏会での断罪イベントに姿を見せなかったことを思い返した。

彼は常に、王子の愚行や貴族社会の泥仕合から距離を置いている。

その距離こそが、今の彼女にとっては最も信頼できる要素だった。


引き出しの奥から、簡素な羊皮紙のメモを取り出す。

子どもの頃、秘密の連絡を取るために使っていたものだ。

――彼は、リリアーナがピンチに陥った時、必ず助けの手を差し伸べる設定だった。


ペンを取り、簡潔に、しかし具体的にメッセージを書く。


『極秘裏に、アウロラ領に関する公爵家の資料、そしてそちらの私設図書館に保管されている『古代魔法文献』のリストを提供してほしい。理由は追って。――リリアーナ』


古代魔法文献。

それは、アウロラ領の遺跡の封印を解くための鍵となる情報だ。

カインなら、それがどれほど機密性の高いものか、すぐに理解するだろう。


彼女が今、公爵令嬢の地位を捨ててまで、なぜそんな情報を求めるのか。

――きっと、問い返す。疑う。けれど、放ってはおけない。


カインは、必ず興味を示す。


「エルネスタ。これを、最も信頼できる密使に託し、カイン様へ。決して人目につかぬように、厳重に」

「かしこまりました。リリアーナ様……しかし、よろしいのですか?カイン様は、殿下とは敵対する派閥の……」

「もう、わたくしは殿下の婚約者ではありません」


声を強めたわけではない。

それでも、言葉が床に落ちる音がする気がした。


「そして、カイン様は……わたくしにとって、最も正直な友人です」


リリアーナは断言した。紫水晶の瞳が、冷徹な光を放つ。


「わたくしは、この世界で生き残るため、使えるものは全て使います。これはゲームです。

そして――わたくしは今、最高の戦略を練っているのです」


悪役令嬢の絶望の物語は終わった。

彼女の人生は、運命に抗う知的なサバイバルゲームへと変貌したのだ。

盤面は整った。次に動くのは、こちら。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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