表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】悪役令嬢の追放からの逆転スローライフ〜辺境公爵の『溺愛業務』を請け負います〜  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/40

第二十一話 遺跡解析は順調、独占欲は加速中

リリアーナとカインによる古代遺跡解析は、驚くほど順調だった。

前世のゲーム知識という地図を持つリリアーナと、膨大な魔導技術と解析能力という掘削機を持つカイン。

二つが噛み合えば、解けない結界など存在しない。


多重結界の解読は日々進み、日中は研究室、夜は食事の時間に議論を続け、二人の知識は綺麗に統合されていく。

その知的活動は、王妃教育や社畜の仕事以上に――リリアーナの脳を満たした。


(これが、仕事が楽しいって状態か)


彼女は、古代文字の配列に目を凝らしていた。

結界の最重要部――賢者の鍵を起動させる最後のトリガー。

その核心に、今まさに指先が触れかけている。


集中力は最高潮。

時間も、寒さも、身体の重さも。

すべてを遮断して、彼女の世界には文字列しかない。


「……貴女の魔力が危険域に達している」


背後から冷たい声が落ちた。

リリアーナの肩が僅かに跳ねる。


振り返ると、カインが険しい顔で立っていた。

片手には自身の端末。そこに表示されているのは、リリアーナの魔導ローブが送信する生体データ。


脳波、魔力流量、体温、脈拍。

カインは数値で彼女を見ている。だがその目は、数値以上に鋭い。


「カイン様、まだ大丈夫です。この配列は、あと一時間で解読できます。今止めれば、明日の効率が落ちます」


リリアーナは理屈で抵抗した。

だがカインは、一切の議論を許さない拒絶を示す。


「非効率だ。現在の魔力消費と脳波の乱れは、一時間後に深刻な疲労を引き起こす。貴女の身体が持つ持続可能性を損なう行為は、私の管理下では許されない」


彼はリリアーナの魔導端末をそっと取り上げ、強制的に電源を落とした。

その所作は丁寧で、だからこそ容赦がない。

そして彼は、リリアーナの手を掴んだ。

冷たい。だが、興奮で熱を持った彼女の手のひらに、その冷たさが妙に心地よい。


「リリアーナ。今すぐ休息の業務を開始する。魔力回復と脳波の安定化が最優先だ」

「……まだ日中です。横になるほど疲れてはいません」

「横になるのではない」


カインは言い切り、研究室の奥へ彼女を導いた。

そこには彼専用の簡素な応接ソファがある。

研究室は館でも最も厳重に管理された空間で、外部侵入も魔力干渉も遮断されている。


当然、ここに入れるのは彼と彼女だけ。

二人の間で最も私的な場所だ。


カインはソファに腰を下ろすと、自分の膝を、ぽん、と叩いた。

それは彼にしては珍しく、どこか唐突で、感情的にさえ見える仕草だった。


「ここに来い。貴女の魔力回復を最も効率的に行う処置を施す」


――膝枕。


リリアーナは一瞬、思考が止まった。

この冷徹な公爵が、自分からこの距離を要求する?

それは彼女の認識するビジネス契約の枠を、明らかに超えている。


「カイン様……その、膝枕とは……」

「論理的根拠がある」


カインは顔色一つ変えずに答える。


「貴女の魔力回復速度は、肉体的リラックス度合いに依存する。最も安全で、外部刺激から遮断された状態が必要だ」


盾はいつも論理。

だが、その裏にあるのが個人的な欲望――

愛する者を自分の最も近い場所に置きたい、という独占欲であることを、リリアーナは理解してしまっていた。


彼女は深呼吸し、この状況を業務として処理することにした。

彼の不器用な要求を満たす。

それも契約履行の一部。


「承知いたしました、カイン様。それが貴方様の提案される最高効率の休息法であるならば」


リリアーナはゆっくりと彼の膝に頭を乗せた。


硬い。冷たい。

厚手のローブ越しでも伝わる、揺るぎない体幹の安定感。

冷たいはずなのに、その冷たさが逆に彼女の熱を鎮めていく。


カインの指が、彼女の髪にそっと差し入れられた。


二度、三度。

撫でる指先は氷ではない。

春の雪解け水のように清涼で、優しい魔力が流れ込んでくる。


「闇属性回復魔法。乱れた脳波を安定させ、魔力回路の過熱を冷ます」


魔力が膜を作り、彼女の頭部を包む。

そこから、身体の芯へ静かに浸透していく。


疲労で重くなっていた身体が、内側からほどけていく感覚。

どの回復ポーションよりも優しく、どの治癒魔法よりも効く。


リリアーナは力を抜き、目を閉じた。


(……安全)


そんな感覚、いつ以来だろう。

社畜時代、肩の力を抜くことは敗北と同義だった。

王妃教育では、無防備は罪だった。


だが今、彼の膝の上は。

彼の魔力の中は。

ただ、何も考えなくていい場所だった。


「カイン様……これは、素晴らしいですわ」


心から漏れた声。

カインは返事をしない。

ただ、髪を撫でる動きが僅かにゆっくりになり、優しさが濃くなる。

リリアーナの意識は、深い休息へ落ちていった。


眠りに落ちたことを確認すると、カインは静かに手を止めた。


彼は動かず、自分の膝で眠るリリアーナを見つめる。

その時間は長く、重く、静かだった。


青い瞳から、普段の冷徹さが剥がれていく。

残るのは、揺るがない熱。


眠る彼女の顔は無防備で、研究中の凛とした表情とはまるで違う。

幼い頃の面影を濃く残し、柔らかい。


――美しい。

――私のものだ。


彼はリリアーナの頬にそっと触れる。

温かい。健康的だ。


最近、彼女は少しずつ豊かになり始めている。

体脂肪率の向上を示すデータは、彼にとって最高の成果だった。

それは管理が正しいという証明であり、同時に――

愛が届いているという証明でもあった。


彼は、リリアーナの唇を見つめた。

無防備な唇。安らかな呼吸。


口づけしたい。論理では説明できない、純粋な衝動。


「……貴女は、私にとって最高の宝だ」


誰にも聞こえない囁き。

そして彼は、さらに一歩踏み込んだ。


リリアーナの頭を抱え込むように、自分の胸へ引き寄せる。

外部刺激を遮断する、休息補助――という理屈の形を取りながら。


それは、囲い込む抱擁だった。


やがてリリアーナが目を覚ました時、自分がカインの胸元に抱かれていることに気づいた。

頬が熱くなる。


冷たいはずの体温が、なぜか優しく彼女を包んでいる。


「カイン様……」

「目が覚めたか。魔力は正常に安定している。貴女の回復効率は、この体勢が最も高い」


即座に業務報告。

すぐに仮面を戻す。

だが声にだけ、僅かな安堵が混じっていた。


リリアーナはそれを見逃さず、柔らかく微笑む。

これは契約条件である喜びの報酬。


「ありがとうございます、カイン様。身体が驚くほど軽くなりました」


微笑まれた瞬間、カインの表情がほんの僅かに緩む。

氷の彫刻に、細い亀裂が入る。

カインは彼女をゆっくり立たせ、両手で顔を挟んだ。

瞳は真剣で、厳格で――しかし深い。


「リリアーナ。この休息法は、今後貴女の業務に組み込まれる。毎日の研究終了後、及び高負荷議論の後、必ずこのケアを受けること」


そして。

彼はリリアーナの額に、静かで長いキスを落とした。


「このケアは、私だけが行う。他の誰にも、貴女の身体にこのような魔力接触を許さない。これは、契約の最重要追加条項だ」


独占欲が、愛情として完全に具現化している。

鎖。囲い込み。支配。

だがそれは同時に、彼女を守る最強の防御壁でもあった。


リリアーナは静かに頷き、プロの声で答える。


「承知いたしました、カイン様。わたくしは貴方様以外のケアは、一切受けません」


その瞬間、カインの瞳が僅かに満たされる。

報酬を受け取った顔だった。


研究と、休息と、独占。

この辺境での共同生活は、知的な成果と、過剰で不器用な溺愛によって、ますます濃く満たされていく。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ