表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の追放からの逆転スローライフ〜辺境公爵の『溺愛業務』を請け負います〜  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/30

第十五話 辺境開拓プロジェクト、静かに始動

その言葉は、保護の宣言に見せかけた、完全な囲い込みの宣告だった。

ヴァイスハイト家の庇護から離れた結果、彼女は今、より強大でより独占的な傘の下へ収まった。


リリアーナは、冷静を取り戻すために最重要項目へ切り替える。

必要なのは感情整理ではない。契約条件の確認だ。


「一つ、確認させてください。カイン様」

「何だ」

「この部屋は、わたくし専用の私室と認識してよろしいのですね?」


カインの瞳に、わずかな混乱が走った。

リリアーナの意図――逃げ場の確保が、即座に理解できなかったのだろう。


「もちろんだ。貴女のプライバシーは尊重する。私とて、四六時中貴女のそばにいるほど暇ではない」


リリアーナは内心で安堵した。

社畜時代に学んだ最大の教訓は、心身の維持に必要なのは自分だけの空間だということ。

契約結婚だろうと、そこが保証されるなら処理できる。


――しかし、その安堵は次の一言で砕けた。


「だが、貴女が私を必要とする時、あるいは私が確認を要すると判断した時は、いつでも入る」


カインは淡々と続け、視線をベッドへ移した。


「そして、公的な場では我々は愛し合う夫婦として振る舞う必要がある。その物語を維持するため、貴女はいつ求められてもいいよう準備をしておく義務がある」


リリアーナは瞬きを一つ。

顔色ひとつ変えずに問い返す。


「……それは、契約の範囲内、ということでしょうか」


カインは満足げに頷いた。

合理的な確認を好む男だ。そこだけは助かる。


「そうだ。安全と自由、研究環境の提供。その対価の一部だ。貴女は支払う義務がある」


そして、言葉を強調する。


「リリアーナ。貴女は私の妻だ」


私のが、やけに重く響いた。

魔力が言葉に乗る。空間に刻むみたいに。


リリアーナは理解する。

彼は感情を求めない代わりに、存在と、公的な証明を求める。

――過去のお心残りを、現実の形で回収するために。


(欲望を、最も論理的で回避不可能な『契約』という形で実現する。極めて危険……でも、この危険性が、私の安全を保障する盾にもなるかもしれない)


リリアーナは決めた。

目的は生き残りと遺跡探求。

そのために必要なら、愛の演技を職務として遂行する。


「承知いたしました、カイン様。わたくしは、この契約を履行します」


宣言した瞬間、思考は仕事へ切り替わる。

ストレスを仕事で上書きする。

元社畜の、最も確実な防御機制。


「早速ですが、カイン様。アウロラ領の遺跡解析に取り掛かりたいのです。明朝、この館の全資料に目を通し、最初の会議を開かせていただきたい。よろしいでしょうか」


カインは一瞬だけ驚いたように目を細めたが、すぐに冷徹へ戻った。


「構わない。貴女の切り替えは期待通りだ。研究員と魔導師団の配備は既に手配してある。貴女の指示ひとつで動ける」


一歩下がり、深い一礼。

敬意の形だけは完璧だ。


「まずは休息を取れ、リリアーナ。明日から、我々の戦略を開始する」


扉が閉まり、部屋に静寂が落ちた。

リリアーナは巨大なベッドに腰を下ろす。

豪華さと独占欲の残滓に包まれながら、呼吸を整えた。


(追放された結果が、これか……最高の環境、最高のバディ、そして最高の保護者。自由を制限する鎖かもしれない。でも、この鎖は、王子の手から私を守り、研究を成功させる保証でもある)


視線の先には、魔導情報端末。

リリアーナはすぐに手に取り、起動した。

画面に表示される。


「USER:LILIANA」

統合された研究ログ。カインが提供した資料。館内の文献リスト。

仕事のための檻が、完璧に整っている。


魂が、歓喜していた。

彼女は今、この辺境で、最強の待遇を得た研究主任だ。


「よし。バッドエンド回避どころか、最高のスタート。カイン様……貴方様の期待以上の成果を出します。それが、この部屋と契約の対価ですから」


指が、古代魔法文献のデータを貪るように読み進める。

この非現実は、もう日常に変わり始めていた。


――そして、その裏で。


扉の向こう、廊下の影にいる男が、静かに耳を澄ませている。

彼は確認だと言い訳しながら、足音も立てずに彼女の気配を確かめていた。

安全が確かめられるまで、眠れない。

それが彼の契約履行であり、彼にとっての愛の証明だから。


雪深い辺境の館で、共同プロジェクトは静かに、しかし確実に始動した。

それは同時に、氷の公爵が長年凍らせてきたものが、ゆっくりと形を得ていく始まりでもあった。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ