変わり果てた鏡に映る自分
消え去った鏡の破片 前半
「ねぇね、抱っこ!抱っこ!」
そう言って手を伸ばしたのは高校一年生の夜詠の妹。妹はまだ生まれて1年ほどしか経っていない。つまりはまだ赤ちゃんだ。私はそんな世界一可愛くて愛おしい妹を持ち上げて強く抱きしめた。
「大好き〜!ギュウーーー!」
「うっ、くるちぃ」
「あっ、ごめんね!」
本当に可愛いなぁ、ママに自慢しよ!
「ねぇママママ!!ゆいちゃんが抱っこって私に言ったんだよ!!」
私はママの方に走って向かいながら言った。
「あら!可愛いわねぇ、何があっても夜詠が妹を守るのよ」
「わかってる!この子は私の子なんだから!」
「ちょっとぉ!ママが産んだのよ?私の子だよ」
「そんなの関係ないもん!ゆいちゃんは私の子だもん!ねー!」
私はそう言うと
「ねー!」
ゆいちゃんがねー!と言ってくれた。
「ママ聞いた!?可愛すぎる!!この子は天使か何か?」
「ゆいは天使だもん。ねー!」
「・・・」
「ママざんねーん」
「ちょっとぉ」
私たちは笑い合った。ただただ面白くて、可愛くて。
私はこんな幸せな日々がずっと続くといいなと思っていた。
そんなある日のこと。私は料理中にママと喧嘩していた。それをパパは心配そうに見ていた。喧嘩理由は門限が早いからもっと遅くしてほしいと言うことだ。
よくあるような喧嘩だが2人は真剣だった。
「ねぇなんで!?ママは私がどれだけ嫌な思いしてきたかわかってないの!?」
「ママはあなたが心配なの!!ここは田舎だからすぐに暗くなるし灯りも少ないの!!」
「私もう高校生だよ!?門限7時は流石にひどよ!!
私だけ仲間外れにされたこともあるんだよ!?」
「わかってるわよ!!でもここら辺は治安がいいわけじゃないの!!だから何を言っても伸ばさないからね!!」
「もういいよ!!ママなんて消えちゃえばいいんだ!!」
私は外へ飛び出した。ガスコンロの火を消さないまま。家を出て、田んぼの横をただ1人でかけ走しっていた。どこまできたかはわからない。
そんな時急に地震が起きた。かなり大きい。
「うっ!」
私は倒れそうになったがギリ持ち堪えた。私は家が心配で走って家まで戻った。そこにあったのはいつもの家ではなかった。
「うそ、なんで、」
家は残酷な炎に包まれていた。
「ママ!パパ!ゆい!」
私は火だるまの家の方に向かって無意識に走り出していた。だけど近所の人に無理やり止められた。
「離して!!ママが、パパが、ゆいが、」
「もうみんなは助からないの!それにあなたまで死んだら終わりなのよ!」
必死の抵抗も虚しく、家は雪崩のように崩れ落ちて
行った。その光景を見ることを体が拒んでいた。
「なんで、なんでよ、うぅ」
私はその場で泣き崩れていた。周りの人は心配そうに私を見ていた。正直そこからはあんまり記憶がなかった。気づいたら意識が飛んでいて、起きたら知らない部屋にいて、私が辺りを見渡していると誰かが入ってきた。
「誰?ここはどこ?ママは?パパは?ゆいは?」
その人はため息をついて言った。
「死んだ」
「・・・」
わかってた。でももしかしたらって思った私がバカ
だったよ。
「火災の原因が、ガスコンロの火が地震のせいで燃え移ったことによる火災だとよ」
え?それって、つまりは、私が家族を殺したの?
ねぇ、私のせいなの?私が?ただ火を止めなかっただけで?私はもう人殺しなの?
違う!私は人殺しじゃない!ねぇ、ねぇ!、、、ねぇ
「で、あんたは親戚の家に行くことになった。迎えが来てるから、ついてこい」
やっぱり私が殺した。ゆいを守るって約束したのに、守ろうと思ってたのに、私が殺した。私はその大人についていった。そしてふと隣に置いてあった鏡を見た。そこには死んだ目をした人殺しが映っていた。家族を殺した。謝りたい、みんなにあって謝りたい、やり直したい、あそこで火を止めてれば、わがまま言わなければ、お願い、神様、なんでもするから時を戻して。過去を変えさせて。お願い、お願い。
「、、、乗れ」
親戚のおじさんだ。怒ってるのだろうか、私はただ車に乗った。おじさんは無言だった。終始イラついていた。家に着いた。タバコ臭くて酒臭くて、ゴミ屋だ。さっきの大人の人もどこか面倒くさそうにしてた。私はやっぱり人殺しなんだ。
私は1人汚い家の中でしゃがみ込んで泣いていた。
「うるっせぇなぁ、オラ!!」
ドン!「うっ!?」
バタン!私は足の裏で蹴られて倒れてしまった。
そしておじさんは私を見下して言った。
「チッ、くそが、お前なんて死ねばいいのに!!」
私は何度も腹を蹴られて瓶の山に投げ捨てられた。腹の奥が潰されたような感覚だった。腕には力が入らない。何か垂れてる?嘘でしょ?血が出てる。なんで?どうして私はこんな目に遭ってるの?誰か助けてよ、誰か、ねぇ、お願いだから。
「助けて」
私は誰にも聞こえないような小さな声でただ1人呟いた。それからはもっとひどい毎日が続いた。
「おい夜詠!ちょっとこっちこい!!」
私は呼ばれたので行った。そこにはおじさん以外にも2人いて、、、
パシン!私はいきなりビンタされた。頬が熱い。
自然と涙が出てきていた。
ルーレットでもやってるのだろうか、そんなことは正直もうどうでも良かった。早く終わってほしい。それだけを考えていた。そして知らない人が言った。
「腹パンね!オッケー」
「オラ!」
「うぐっ!」
鈍い音が鳴った。
「ナイスショット!」
「いい音なったよー!」
「いまクリーンヒットしなかったわ、もう一発いい?」
「ダメダメ、1人一回までだから」
「う、うぅ」
私はうずくまっていた。息がうまく吸えない。肺が言うことを聞いてくれない。
すると次は別の知らない人が言った。
「おぉ!いいの引いたよ!」
「いいねぇ!」
「いけ!やったれ!」
「やめて、こないで!」
その人はうずくまってる私の左手を掴んで爪を
引っ張った。指の先が熱いのになくなった気がした。
「う、、、あ、、、、うぅ」
私の爪は剥がされた。私の死んだような目からは大粒の涙が溢れていた。叫ぶこともできない。声が喉に突っかかって出てくれない。おじさんはもう満足と言ってどっか行けと私に言った。体が逃げるように動いていた。気づいたら1人でしゃがみ込んでいた。
私は指を押さえていた。すると落ちていた包帯のようなものを見つけて手に取った。
なんか湿ってる。それでも今はこれを巻くしかない。
爪の剥がれたところに包帯を巻きつけた。その瞬間
「ぐっ、、、あぁ、、、あ、、、」
指からはまるで何かが奥深く刺さったような痛みが続いた。それでもその包帯を巻いた。声を出そうとしたけど喉がそれを拒んだ。そんな様子を見て誰かが楽しそうに笑った。するとおじさんたちが笑ってこっちにきた。
「引っかかった?ここまで計算した俺って
頭良すぎないか?!」
「それな!俺も今度やってみよ!」
「うぅ、もうやめてよ」
私はここから逃げることだけを考えていた。それからというもの私は常に脱出の機会を伺っていた。こんな暴力を受けていてもご飯は与えられた。理由はわかっていた。触れられた箇所からは嫌悪感の漂うの匂いがした。洗ってもなかなか落ちてくれない。
「、、、妊娠、してないといいな」
私はポツリと呟いた。
するとその日の夜、おじさんが家を出た。家には誰もいない。いつもは家には見張り人が誰かしらいて出ることはできなかった。
「今しかない」
私の醜い体は小さなナイフを隠し持って家を出た。それからどれだけこの黒く塗り潰された空の下を走っただろう。気づいたら全く知らない場所にいた。
ポツンと私の頬に冷たい水の粒が落ちてきた。その粒は時間が経つに連れ逃げ場がなくなるほどにたくさん落ちてきた。今の時期は冬だから元々冷えるっていうのに。よくわからない道を彷徨っていると知らない男が道の奥から現れて話しかけてきた。
「こんなところで何してるのかな?暗いし僕の家に泊めてあげるよ、それに体が冷えちゃうといけないからね、ほら、ついてきて」
私は無言で男の後ろを歩いた。少し歩いたところでどこか引っ掛かりを覚えた。森、家があるとは到底思えなかった。そんなことを考えてる時にも自然は容赦なく襲ってくる。風が凍てつくように冷たい。服が肌に張り付いて全身が冷凍されている感覚だった。それでも私はナイフの入っているポケットに手を入れていた。すると男は振り返って言った。
「おとなしくしてね。僕はナイフを持ってるから。
暴れたり叫んだりしたら刺すからね」
男の手にはいつのまにか懐中電灯ではなくナイフが握りしめられていた。私もナイフを取り出そうとしたその時。 男は私を押し倒した。背中が水に浸かり鈍い衝撃が走る。辛いけど私はしっかりと自分の意思で咄嗟にナイフを取って男の胸に何度も刺した。
刃は意外にも簡単に入った。手は赤くより黒く染まった。手についている血なんてどうでも良かった。男はふらついて隣に倒れた。多分死んだ。私はこれからどうしようか考えた。私は懐中電灯を持って、男を照らしながら胸に刺さっているナイフを抜き取ろうと思い刺さっているナイフを真っ黒な手で抜き取ろうとした瞬間。
「うっ!」
腹部の奥が急に軽くなった気がした。私はその場で倒れた。腹部を手で押さえているが滲み出る液体は止まることを知らなかった。もう手についた血はどちらの血かもわからないくらいに血で汚れていた。男の方を見る。男は完全に力尽きたようで少しも動くことはなかった。だんだんと視界がぼんやりしていく。全身が泥や血で溢れかえっていた。
まだ、生きたい。でも体に力を入れようとすると腹部の傷がそれを許さない。なんだか、温かい、心地いい。
「みんな、、、ごめ、、、んね、、、」
私は開かなかったはずの喉がわずかながら開いた。
みんなに伝わってると思いたかった。
ふと視界に入った。それは懐中電灯の光のせいで水たまりに反射している生きている目をした殺人者だった。視界はさらに涙でぼやけた。もう生きた目を見れないくらいに。




