第49話「油断」
光のマナを集束させようとした、その瞬間――
アリシアの中で、何かが引っかかった。
「まって……この魔法、そうよ、杖が必要だったわ!」
胸の奥が、ひやりと冷える。
慌てて術式を思い返し、思考を巡らせる。
「どうしよう……すっかり忘れてた......」
焦りに呼吸が浅くなる。
それでも必死に記憶を辿り――ふと、ある事実に行き当たる。
「あっ、でも……」
次の瞬間、はっきりと思い出してしまった。
「杖は、八十年前に無くしちゃってるんだった!」
一瞬、言葉を失う。
こんなにも重要な場面で、今さら気づくなんて。
「……こんな局面で、私ったら……」
自嘲気味に息を吐きながらも、ここで止めるわけにはいかなかった。
その時、セリアの声が鋭く響いた。
「アリシアー! これを使ってー!」
同時に、彼女の手を離れた杖が、風魔法に乗って放たれる。
一直線。迷いのない軌道で、空気を切り裂きながら飛んできた。
アリシアは、えっ、と目を見開きながらも、反射的に腕を伸ばす。 次の瞬間、杖は確かな重みとともに、その掌に収まった。
――触れた瞬間、はっきりと分かる。
指先に伝わってきたのは、不思議なほど澄んだ感触だった。
魔力の気配は静かで、主張がない。
どこにも無駄がなく、研ぎ澄まされている。
試しに魔力を流すと、それは抵抗もなく、一本の線のように整っていった。
「いい杖......」
アリシアはそう一言告げた。
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