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第44話「唯一の対抗策」

「――微弱なる火球ファイアーボール……!」


言葉が終わるのと同時に、セリアの両手の前へ赤い魔法陣が展開される。

淡く揺らめく陣から、両手に収まるほどの小さな火の玉が生成され——


次の瞬間、それは一直線に、死神の顔面へと放たれた。


寸分の狂いもなく命中。

鈍く、湿ったような爆ぜ音と共に、火球はその場で炸裂する。


しかし——


煙が晴れた先の死神には、微塵の動揺もなかった。

それどころか、口元には嘲るような笑みすら浮かんでいる。


纏った闇のマナが火球を呑み込み、セリアの魔法は完全に吸収されていたのだ。


それを見たアリシアは、死神の腕の筋肉が一瞬、不自然なほど盛り上がったのを見逃さなかった。

闇を取り込んだ影響か——


「やっぱり……そういうことね」


確信に近い何かを掴んだように、アリシアは小さく呟く。


次の瞬間、死神の身体が地を蹴る。

狙いは、攻撃を仕掛けたセリアだ。


「セリア逃げて!」


アリシアの叫びが飛ぶが、


「わたくしなら、大丈夫よ!」


セリアは一歩も引かず、むしろ自信すら感じさせる声でそう返した。


その返事を聞いたアリシアは、一瞬だけ目を見開き——

すぐに、ほんの少しだけ口角を上げる。


仲間を信じる安堵が、そこには確かにあった。


セリアは、自分が無事だと理解した瞬間、思考を戦闘用へと切り替えた。

恐怖や迷いは、もうない。


次に考えるべきは——死神への対抗策。


魔法の類は吸収される。

剣や直接の物理攻撃も、光のマナを纏えばダメージは通るが、有効打にはならない。

闇は削れても、すぐに再生されてしまう。


(光魔法での直接攻撃なら……!)

(すぐ治されちゃったけど……)


その事実を整理した瞬間、セリアの中でひとつの可能性が形を成す。


(でも、こんな森の中じゃ……)


次の瞬間、旅立つ前の模擬戦の光景が脳裏に鮮明によみがえった。

リッタが放った、——空気そのものを、打つ。


「拳で穿つ空圧エア・バースト


魔法ではない。

剣でもない。

闇に吸収される“対象”そのものが存在しない攻撃。


あれなら——通る。


判断は一瞬だった。

セリアは迷いなく声を張り上げる。


「リッター!」


その呼び声に、リッタは即座に反応した。

一瞬だけセリアと視線が交わり、互いに理解する。言葉は必要なかった。


リッタはアリシアのもとへと跳び、アリシアもまた、状況を把握するため地へ降り立つ。


リッタが声の届く距離まで来ると、


「どうしたの?」


と短く問いかけた。


アリシアは即答する。


「模擬戦で見せてくれた空気を打つあれ、できる?」


不意を突かれたように、リッタは一瞬だけ思考を巡らせ、


「出来るけど……」


と、まだ全容を掴みきれていない様子で答えた。


するとアリシアは、間を置かずに自分の考えをリッタへと伝えた。


「彼岸の臨界の性質は、光魔法を除くあらゆる攻撃による負傷の治癒と、受けたダメージ分の力の増強みたい」


その言葉に、リッタは一瞬だけ思考を巡らせる。


「光魔法を除く……確かにアリシアのおかげで光のマナを纏った僕らの攻撃は当たってたね」


だが、その言葉を口にした直後だった。

何かに気づいたように、リッタははっと目を見開く。


——死神の体力が尽きるまで、ダメージを与え続ければ……。


しかし、その想定は既にアリシアの中でも検討され、否定されていた策だった。


「そう、光魔法を直接、もしくはマナを纏えば攻撃は当たるね。でもただ、ダメージを与えてるだけだと力を増やしてあげているだけになるから……」


つまり——

削れば削るほど、相手は強くなる。


その残酷な事実を、リッタはすぐには受け入れきれなかった。

思わず、言葉が零れる。


「じゃあ……」


打つ手はないのか。

そう諦めかけた、その瞬間。


「手はあるわ」


即答だった。

迷いも、躊躇も、一切ない。


リッタは思わず言葉に詰まり、


「どんな……?」


と問い返す。


アリシアは静かに一度だけ頷き、はっきりと言い切った。


「光属性の大魔法で、闇が傷を修復できないように、一撃で決める。これしかないと思うわ」

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