第43話「重い連撃」
やがて、傷口の周囲を漂っていた黒い靄が、まるで意思を持つかのように蠢き始める。
靄はゆっくりと、しかし確実に死神の肉体へと吸い込まれていき——
次第に、死神の傷そのものを“縫い直す”ように修復していった。
穿たれていたはずの風穴は、肉が盛り上がり、骨が繋がり、闇に覆われながら完全に塞がっていく。
数秒後、そこに残っていたのは、最初から何事もなかったかのような死神の姿だった。
アリシアを除いた二人は、その光景を前に、完全に言葉を失っていた。
理解が追いつかない。否——理解すること自体を、思考が拒んでいる。
アリシアは驚愕を隠せないまま、それでも目を逸らさず、喉を震わせて口を開く。
「穴が......埋まって......」
恐る恐る紡がれたその言葉が、空気に溶け切るよりも早く——
死神は、口角を不気味なほど高く吊り上げた。
次の瞬間。
視界が歪んだかと思った刹那、死神の姿は掻き消え、同時に——リッタの目前に“現れていた”。
反応する暇すら与えない。
目にも止まらぬ速度で繰り出された蹴撃が、容赦なくリッタの横腹へと叩き込まれる。
鈍く、重い衝撃。
内臓を直接揺さぶられたような感覚に、リッタは耐えきれず、口から血を吐き散らした。
身体は制御を失い、そのまま一直線に後方へと吹き飛ばされていく。
進行方向——そこにいたのはセリアだった。
セリアの意識がようやく状況を捉えた時には、すでにリッタの身体が目の前に迫っている。
避ける選択肢はない。
咄嗟に腕を広げ、飛んでくるリッタを受け止めるように抱き留めると、
二人はそのまま、地面へと一緒に倒れ込んだ。
そして、ほんのわずか——ほんの一瞬だけ、そちらへと意識を割いたアリシアは、
背後から迫る異様な気配を察知した。
反射的に振り向いた、その瞬間、すでに死神は、間合いの内側にまで踏み込んでいた。
風を切る音すら置き去りにする速度で、大鎌が大きく振り抜かれる。
アリシアは咄嗟に身体を捻り、氷華を構えた。
次の瞬間——
氷華と大鎌が、激しく衝突した。
キィィィン、と甲高い金属音が空気を裂く。
アリシアは刃を噛み合わせ、確かに受け止めた——そう、一瞬は思った。
しかし。
死神の一撃は、あまりにも重かった。
「――――っ!!?」
想定を遥かに超える圧力に、アリシアの喉から声にならない驚愕が漏れる。
腕に伝わる衝撃は衰えるどころか増していき、足元が軋む。
そのまま、ズルズルと地面を削るように後退させられ、
耐えきれず、アリシアの体勢が一瞬だけ崩れた。
——その“隙”を、死神が見逃すはずもなく、直後、連続する斬撃が叩き込まれた。
一撃一撃が、重く、そして速い。
アリシアは全神経を研ぎ澄ませながら、必死にそれらを捌き続ける。
(臨界状態といっても......ここまで......!?)
思考が走る。だが、立ち止まる暇はない。
そして——
一撃を弾き返した、その刹那。
「セリア!お願い!」
切迫した叫びと共に、アリシアは叫んだ。
その声に、セリアは即座に応じる。
「わかったわ!」
躊躇は一切ない。
セリアは詠唱と同時に両手を掲げ、初級魔法を放った。
「――微弱なる火球……!」
言葉が終わるのと同時に、セリアの両手の前に赤い魔法陣が展開される。
そこから、両手に収まるほどの小さな火の玉が生成され——
一直線に、死神の顔面へと放たれた。
火球は寸分違わず命中し、次の瞬間、
鈍い爆ぜ音と共に炸裂する。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
少しでも「面白い」「続きが気になる」と感じてもらえていたら、感想を頂けると、とても嬉しいです!
もちろん、正直な感想も大歓迎です。
面白かったところはもちろん、「ここは合わなかった」「こうだったらいいかも」など、
どんな感想でも次を書く大きな励みになります。
評価やブックマークも、本当に励みになります。
「いいな」と思ってもらえたら、ぜひポチッとしてもらえると嬉しいです!
毎日20時30分〜22時の間に投稿予定なので、
またふらっと読みに来てもらえたら嬉しいです。
これからもよろしくお願いします!




