第38話「死神の覚悟・続」
死神の全身が、黒く、薄い靄に覆われた。
それは霧というにはあまりにも重く、粘ついた闇だった。空気そのものが侵食されていくかのように、周囲の温度が静かに、しかし確実に奪われていく。
次の瞬間、その目が赤く染まり――
「――――ォォォォォッ!!」
獣じみた咆哮が、空気を震わせた。
喉の奥から無理矢理引き裂くように絞り出されたそれは、もはや言葉ですらない。ただの怒りと破壊衝動を音にしただけの、理性を失った咆哮だった。
リッタの身体に、ほんの一瞬、寒気が走る。
それは恐怖というよりも、生存本能が鳴らした警鐘だった。
だが、その刹那。
先制攻撃を仕掛けたのは、アリシアだった。
キィン――ッ!
鋭く澄んだ金属音が、夜気を切り裂く。
先程、防ぐ間もなく死神を切り裂いたはずの、アリシアの斬撃。
それが――意図も簡単に、防がれた。
死神は、完全に見切っていた。
あの咆哮の直後、嘘のように動きを止めると、
アリシアが踏み込んだその瞬間を、正確に捉える。
片手を、静かに上へ。
すると、指先が空をなぞったその軌跡に沿うように、
一筋の黒い線が――まるで空間そのものに刻まれた裂け目のように、空中に発生した。
それは防壁だった。
否、防壁という言葉では足りない。
闇そのものが形を成し、刃を拒絶している。
アリシアの氷華は、その黒線に触れた瞬間、寸分も進むことなく、完全に受け止められた。
「――――っ……」
驚愕に、アリシアの目が見開かれる。
そのまま、瞬きすら忘れたかのように、視線が釘付けになる。
ありえない。
だが、現実として――
彼女の一撃は、確かに止められていた。
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