第30話「切られた火蓋――苦渋の決断」
そして――翌朝。
宿の中庭に差し込む朝の光は、前夜の温もりをすでに拭い去っていた。
三人は宿で用意された朝食を静かに平らげると、早々に支度を整え、温泉宿を後にする。
門をくぐり、しばらく歩いた先。
街道は二つに分かれていた。
片方は、人の往来が続いてきたであろう穏やかな道。
もう片方は、森林の奥へと吸い込まれるように続く細道で、木々が空を覆い、昼間にもかかわらず薄暗い。
三人は自然と歩みを止め、その分岐点に立った。
重たい沈黙を破ったのは、リッタだった。
「ええ......ほんとに奥行くの?」
不安を隠そうともしない声音。
それに対し、セリアは視線を森の奥へ向けたまま、静かに言葉を選ぶ。
「わたくしも、あまり気は進みませんが、フィアナを助けるためには、やはり奥に進むしか......」
その言葉を聞き、リッタは唇を噛む。
そして最後に、アリシアの方を振り返った。
「アリシアは?」
アリシアは一度、森を見据え、それから仲間たちへと視線を戻す。
迷いを含みながらも、その声ははっきりとしていた。
「私も、セリアに賛成かな......とにかく今は奥に進むしかないと思う」
短い沈黙ののち、リッタは小さく肩を落とした。
納得したわけではない――だが、拒む理由も見つからない。
彼女は渋々と頷き、三人の進路は決まった。
こうして三人は、人の気配が薄れていく森の奥へと足を踏み入れる。
どれほど歩いただろうか。
枝葉の隙間から差し込む光が弱まり、空気がひやりと湿り始めた頃。
道の脇に、不自然な影が現れた。
それは古い木材で組まれた小屋だった。
扉は固く閉ざされ、壁板は歪み、今にも崩れ落ちそうなほどに朽ちている。
かつて人が暮らしていた痕跡だけが、かろうじてその形を保っているようだった。
その小屋に気づいたセリアが、思わず足を止める。
そして二人へ向けて、指を差した。
「ねえ、小屋があるわ......」
すると、アリシアが小屋の存在を確かめるように一歩前へ出た。
「ほんとだ......小屋だね......」
風化した木材の匂いが、森の空気に混じって漂っている。
三人は無言のまま視線を交わし、警戒を解かぬまま怪しい小屋を調べることにした。
足音を殺し、恐る恐る距離を詰めていく。
その途中、リッタがふと何かに気づいたように足を止める。
彼女は小屋の側面へと回り込み、外壁の方へ視線を向けた。
それにつられ、アリシアも一瞬だけリッタの方へと注意を逸らす。
――その刹那だった。
先に小屋の正面へ立っていたセリアが、扉に手をかける。
軋む音とともに扉がわずかに開いた、その瞬間。
「きゃー!!」
裂くような悲鳴が森に響いた。
アリシアは反射的に振り返り、セリアのもとへ駆け寄る。
「どうしたの!?」
怯え切ったセリアの肩越しに、アリシアも小屋の中をのぞき込む。
――そこで、視界が凍りついた。
薄暗い室内の壁。
そこには、乾ききらない赤黒い痕跡で、無惨にも文字が刻まれていた。
We made a mistake.
血で書かれたとしか思えない、その歪な文字列は、まるで最後の力を振り絞ったかのようだった。
部屋の中は荒れ果て、家具は倒れ、物は無秩序に散乱している。
そして、その文字の下。
床には、首を失った死体が横たわっていた。
性別すら判別できないほどに損壊し、荒らされた肉体。
それが人間だったという事実だけが、嫌というほど伝わってくる。
アリシアは、息を呑んだまま動けなかった。
声は喉の奥で凍りつき、思わず手で口を押さえる。
気づけば、視界が滲み、涙が静かにこぼれ落ちていた。
恐怖に耐えきれなくなったセリアが、震えながらアリシアに抱きつく。
その胸元に顔を埋め、必死に現実から目を逸らす。
――その時。
小屋の脇へ回り込んでいたリッタが、深刻そうな表情を浮かべて戻ってきた。
それを目にしたセリアは、小屋の中で見た惨状をリッタに伝えようと、震える喉で名を呼びかけた。
「リッ――」
だが、その声は最後まで形にならなかった。
「ねえ、2人とも。見てほしいものがあるんだけど......すこしいい?」
小屋の脇から、リッタの声が重なる。
セリアは、はっと息を呑み、抱きついていたアリシアの胸元から顔を上げた。
不安と恐怖が入り混じった表情のまま、アリシアを見つめる。
アリシアもまた涙を浮かべた目でセリアと視線を合わせ、何も言わずに頷いた。
二人は覚悟を共有するように、リッタの後についていく。
リッタが先頭に立ち、森の中を案内する。
小屋から少し離れた場所――木々の陰に隠れるようにして、もうひとつの建物が姿を現した。
それは、先ほどのものとよく似た古い小屋だった。
アリシアとセリアは思わず足を止め、目を見開く。
互いの顔を見合わせ、言葉にならない不安を確かめ合った。
小屋の前まで来ると、リッタが小さく呟く。
「さっき2人が見てたのと同じような小屋だよね」
そして、少し間を置いて続ける。
「でも見て欲しいのは、それじゃなくて......中」
その言葉に、二人は息を詰める。
先ほど見た光景と同じものが待っているのではないか――そんな予感が、否応なく胸を締めつけた。
視線が宙をさまよい、やがて互いに戻る。
小さく、しかし確かに頷き合い、二人は覚悟を決めた。
恐る恐る扉に手をかけ、小屋の中へと足を踏み入れる。
薄暗い室内の奥。
壁にもたれるように横たわり、床に座り込む形で――老いた男性と思われる亡骸があった。
恐ろしい光景であることに変わりはない。
だが、先ほど目にした惨状と比べれば、その死はあまりにも静かだった。
暴力的に奪われた痕跡はなく、争った形跡も乏しい。
ただ、そこで命が尽きた――そう言わんばかりの亡骸。
驚きはしたものの、アリシアもセリアも、先ほどのように声を失うことはなかった。
沈黙が落ちる。
その中で、リッタが静かに口を開く。
「男の死体もそうなんだけど」
一拍。
わざと間を置き、低い声で続けた。
「......上」
その一言に、二人は即座に反応した。
ゆっくりと、しかし逃げ場のない動きで視線を持ち上げる。
天井近くの壁。
そこに、またしても血で書かれたとしか思えない文字が残されていた。
Don't trust him.
乾いた赤が、闇の中で異様に浮かび上がっている。
アリシアが、かすれた声で口を開いた。
「これって......」
セリアは小さく頷き、視線を逸らさぬまま答える。
「わたくし達が見たものと同じ......」
言葉が尽き、再び沈黙が流れる。
――その時だった。
小屋の外から様子を見ていたリッタが、突然、切迫した声を上げた。
「2人とも、今すぐここを離れないと!」
あまりにも焦った声音。
普段、感情を乱すことのないリッタの慌てように、二人は思わず振り返る。
アリシアが戸惑いを隠せず問いかけた。
「急に、どうしたの?」
リッタは外にある“何か”から目を離さぬまま、深刻な表情で言葉を返す。
「まずいことになった......」
アリシアは、え?と小さく首を傾げる。
セリアと一瞬だけ視線を交わし、二人はリッタの見つめる先を確かめるため、小屋の外へと出た。
森の空気は、先ほどよりも明らかに重い。
リッタの視線の先――地面には、一本の線のようなものが刻まれていた。
細く、だが不自然なほど真っ直ぐに掘られたそれは、森の奥へ、どこまでも続いているように見える。
アリシアたちには、それが何を意味するのか分からなかった。
二人は顔を見合わせ、やがてリッタへと振り返る。
セリアが、不安を含んだ声でたずねた。
「あの線がどうかしたの?」
リッタは一瞬、視線を落とす。
そして、何かを言いかけるように顔を上げ――
その瞬間だった。
リッタの表情が、急激に歪む。
まるで、この世のものとは思えない“何か”を目にしたかのように。
瞳は見開かれ、恐怖に引きつった顔に、冷や汗が頬を伝っていた。
その異変に、セリアが小さく首を傾げる。
「ん?」
だが、リッタは答えなかった。
彼は、何かを諦めたように。
すべてを悟ってしまったかのように、ゆっくりと視線を下へ落とす。
そして、かすれた声で呟いた。
「終わりだ......僕たち全員」
その言葉と同時に。
アリシアとセリアは、先ほど見た地面に刻まれた線――
その延長線上にある“背後”へと、言いようのない気配を感じ取った。
殺意に満ちた、恐ろしく冷たい存在。
二人の表情が、無意識のうちに歪む。
逃げ場はないと、本能が理解してしまったからだ。
そして――
静かに。
恐る恐る。
二人は、ゆっくりと後ろを振り返った。
次第に、視界の端に異物が映り込む。
黒く、擦り切れ、ところどころが裂けたフード付きの布地。
それを纏う、小柄な人影。
そして――
不釣り合いなほど巨大で、鋭利な刃を持つ、大鎌。
本能が、限界まで警鐘を鳴らした。
危険だ、と理解するよりも早く、アリシアは反射的に振り返る。
――はっきりと、見えた。
特徴は、完全に一致している。
そこに立っていたのは、温泉宿で語られていた存在。
噂でも、比喩でもない。
間違いなく、“黒の死神”そのものだった。
それが放つ殺気は、あまりにも冷たく、あまりにも濃い。
空気そのものが凍りついたかのようで、三人の呼吸は一斉に乱れた。
セリアとリッタの額に、冷や汗が浮かぶ。
そしてアリシアの胸を、八十年ぶりの恐怖が鋭く貫いた。
黒く、ぼろぼろの布を頭から深く被り、
その下から覗く足元は、傷だらけの裸足。
背丈は、セリアやリッタよりも一回り小さい。
だが、その小さな身体には不釣り合いなほどの大鎌を、易々と携えている。
ただ立っているだけ。
それだけで、この場の均衡は完全に崩れていた。
一瞬の沈黙が流れる。
アリシアは氷華を構え、迷いなく臨戦態勢を取った。
リッタとセリアも、恐怖に足を震わせながら、それぞれ身構える。
死神は鋭い視線をアリシアたちへ向けた途端、大鎌を構え、素早い速度で向かってきた。
空気が裂ける。
次の瞬間、巨大な刃が眼前に落ちる。
アリシアは咄嗟に氷華を叩き上げた。
キン――!
金属が真正面から噛み合い、衝撃が腕を通って肩まで突き抜ける。
刃先が滑り、火花が散る。
キン! キン!
鎌が角度を変えて追い打ちをかける。
受けるたび、硬い音が森に跳ね返り、耳の奥が痺れる。
ガキィン!
今度は横薙ぎ。
氷華が弾かれ、刃が擦れて嫌な金属音が伸びた。
アリシアは足元を踏ん張り、体勢を崩さずに押し返す。
だが、死神は止まらない。
間合いの内側で、鎌が“重さ”ごと振り抜かれる。
キィンッ……!
刃が弾け、空気が震えた。
次の瞬間。
死神は空中でアリシアたちの後方へ飛んだ。
アリシアはそれを見上げると、飛んでる最中、死神は目を見開いてアリシアを見た。
そしてそのまま、ズザザと地へ足を引きずりながら、後退し、着地した。
死神は腰を落とし、視線を低く伏せたまま動かない。
フードの奥は闇に沈み、表情は読み取れなかった。
ただ、次の動きを待っているかのように、その場に静止している。
アリシアは剣を構えたまま、荒く息を吐いた。
「はぁっ……はぁっ……」
肺に空気を送り込むたび、胸が焼けるように痛む。
指先がわずかに震えているのを、自分でもはっきりと自覚していた。
その背後で、セリアが恐怖に目を見開き、声を絞り出す。
「今何が起こったの......」
アリシアは、はぁ、はぁと息を切らしながら、視線を死神から外さずに答える。
「この敵......本当に強い......」
沈黙が、張り詰めた空気を押し潰すように漂っていた。
その中で、リッタが小さく息を整え、分析するように呟く。
「三連撃......」
セリアは、その言葉の意味を理解するより先に反応していた。
「えっ」
思わず声が漏れ、信じられないものを見るようにリッタを振り返る。
リッタは自嘲気味に口元を歪め、淡々と続けた。
「見えたけど、反応出来なかった。凄い速さだよ......」
だが、その評価は即座に覆される。
アリシアは静かに首を振り、短く否定の声を落とした。
「ううん」
次の瞬間、確信を伴った言葉が空気を切る。
「五連撃」
二人の視線が、弾かれたようにアリシアへ集まる。
驚きが、はっきりと顔に浮かんでいた。
アリシアは氷華を握る指に、わずかに力を込めながら語る。
「それに、速いだけじゃない。一回一回の斬撃がとても重かった......」
腕に残る感触が、否定を許さなかった。
力任せではない。
精密で、確実に命を断ち切るための重さ。
リッタは視線を落とし、現実を噛みしめるように呟く。
「そんな......あの一瞬で5回も斬撃を」
そして、結論に辿り着く。
「じゃあ間違いなくこいつは、黒い死神......」
アリシアは、わずかに目を細めたまま答える。
「そうね、強さも噂通りみたい......」
だが、すぐに小さく首を振る。
「もしかしたらそれ以上かも」
その一言で、場の空気がさらに重く沈んだ。
アリシアは一歩前に出て、背後の二人へ手を伸ばす。
視線は、ただ一体の敵だけを捉えたまま。
「二人は、できる限りここから離れて」
セリアが、思わず一歩踏み出した。
声には焦りと怒りが滲んでいる。
「何を言うのよ!」
そのまま、言葉を止めることができずに続ける。
「私たちだって......」
その想いに重なるように、リッタも前に出た。
迷いのない声だった。
「そうだよ。一緒に戦うよ」
二人の言葉を受け、アリシアは一瞬だけ目を伏せる。
そして、ふっと力を抜くように――にこりと微笑んだ。
その微笑みは、安心させるためのものではない。
覚悟を決めた者の、静かな表情だった。
アリシアはゆっくりと死神へ視線を向ける。
黒いフードの奥に潜む存在を、真っ直ぐに見据えながら口を開いた。
「この死神、私が八十年前に戦った相手の中でも、五本の指には入る強さよ。」
一呼吸。
過去をなぞるような、短い沈黙。
「もしかしたら、今の私では敵わないかも......」
その言葉に、セリアが思わず声を張り上げる。
「なら尚更!」
割り込むように、必死に訴えかける。
だが――
アリシアは、静かに首を振った。
「ううん」
その声音は、揺れていなかった。
「だからこそ、二人には逃げて欲しいの。もし私が倒れてしまったら、皆ここで死んでしまうことになる。それだけは何としても避けたいの......」
言葉の一つ一つが、重く、逃げ場を塞ぐ。
セリアは、その場で立ち尽くした。
唇がわずかに震え、何か言い返そうとして――できない。
ただ、唖然とした表情のまま、アリシアを見つめていた。
アリシアは、ゆっくりとセリアへ視線を向けた。
その表情は静かで、どこか懐かしむような微笑みを浮かべている。
「セリアのことは、古い友達から任されてるからね」
その言葉を残し、今度はリッタへと目を移す。
逃がさないように、確かめるように。
「リッタも。クラウスさんから任された、私が守るべき存在......友達だからね」
その瞬間、リッタの目がわずかに見開かれた。
だが、すぐに視線を落とし、何かを噛みしめるように黙り込む。
その反応を見て、アリシアは言葉を重ねた。
声は穏やかで、揺らぎがない。
「安心して。私が死んでも、二人のことは絶対に追わせないから」
まるで事実を告げるような言い方だった。
覚悟は、すでに固まっている。
アリシアは再び死神へと向き直り、氷華を構える。
それは、今までで最も無駄のない構えだった。
一瞬の隙もなく、力も迷いも削ぎ落とされた、完全な臨戦態勢。
これから起こる戦いが、ただの勝負ではないことを雄弁に物語っている。
その背後で、セリアの嗚咽がこぼれた。
涙を止められないまま、必死に声を絞り出す。
「アリシア、嫌よ!お友達になれたのに、こんなところでお別れだなんて、わたくしたちだけ逃げても、その後陛下に合わせる顔がないわ......アリシアを助けるために同行させてもらっているのに、逃げろだなんて......」
感情が決壊し、セリアはその場に崩れ落ちる。
だが――
リッタは歯を食いしばり、セリアの身体を抱き上げた。
震える彼女を支えながら、首を横に振る。
そして、短く言い切る。
「行こう」
セリアは、涙を零したままリッタを見つめ、はっとしたように目を見開いた。
その視線の先で、リッタは静かに言った。
「あれは僕たちの適う相手じゃない......」
強がりも、迷いもない声だった。
だが、セリアが見つめるその横顔を伝い――一筋の涙が、静かに落ちる。
それを見た瞬間。
セリアは、何かを悟ったように視線を逸らした。
もう、引き止めてはいけないのだと、心のどこかで理解してしまったからだ。
アリシアから目を背けたまま、セリアは震える声で言葉を紡ぐ。
「絶対......生きて戻ってきてね......まだまだ話したいこともやりたいことも、教わりたいことだってあるから」
願いというより、祈りだった。
その声を、横目で確かめる。
アリシアは、わずかに口元を緩め、短く頷いた。
「うん」
そして、静かに続ける。
「ありがとう」
次の瞬間には、アリシアの意識はすでに戦場へと戻っていた。
リッタがセリアを連れ、離脱しようとした、その時。
背後から、アリシアの声がかかる。
「リッタ」
足が止まる。
振り返る間もなく、続く一言。
「もし私に何かあったら、セリアをお願いね。」
リッタは、一瞬だけ振り向いた。
迷いのない目で、短く頷く。
「うん」
そのやり取りを聞き、セリアは思わず目を見開く。
だが、言葉を発する前に――
リッタはセリアを強く抱え、地を蹴った。
一気に跳躍し、死神とは反対の方向へ。
風を切り、距離を引き離す。
森の中へと、二人の姿が消えていった。
死神は、逃げていくセリアたちを首を傾げて見送り、
不気味な笑みを浮かべた。
次の瞬間、その下半身が黒い煙のように崩れ、
実体を失ったかのように空間を滑る。
一瞬で、アリシアの横――上空。
そのまま通過しようとした刹那。
アリシアは地を蹴った。
重力を置き去りにするように跳び上がり、死神の進路へ身体を滑り込ませる。
刃がぶつかった。
甲高く、乾いた金属音が空を裂き、
衝撃が波となって腕を打つ。
刃先が噛み合い、削れ、火花が散った。
止められた死神は、わずかに目を見開き、
至近距離でアリシアを見据える。
――だが、次の瞬間。
その口元が歪み、再び笑みが浮かんだ。
大鎌が振るわれる。
一撃ではない。
間を置かず、角度を変え、連続して叩き込まれる斬撃。
金属が擦れ合う音が重なり、
高音と鈍い衝撃音が混じり合って空中に反響する。
キン――ッ
一際鋭い音が鳴り、
氷華が強く弾かれた。
アリシアはその反動を利用して距離を取り、
空中で体勢を立て直す。
剣を構え直し、死神を真正面から見据える。
「追わせないって言ったでしょ」
死神は、その場でゆっくりと一周するように首を巡らせた。
森。
空。
逃げていった二人の気配が消えた方向。
すべてを確かめ終えたあと、再び――
鋭い視線を、アリシアへと突き刺す。
その視線を、アリシアは真正面から受け止めた。
一歩も退かず、剣を構えたまま、はっきりと言い切る。
「私が死んでも、あの子たちの元へは絶対に行かせない!」
覚悟を宣言する声だった。
恐怖も、迷いも、すでにそこにはない。
死神は、その言葉を聞いて――
再び、不気味に口元を歪めた。
「いいねー……その威勢」
語尾を伸ばし、噛みしめるように。
褒めているはずなのに、評価されている感覚は微塵もなかった。
一拍。
死神は、わざと間を空ける。
逃げ場がないことを、理解させるために。
「守ってみなよ……守れるものなら」
まるで結果を知っている者が、
無意味な挑戦を許可するような口ぶりだった。
更新が少し空いてしまい、すみません。
その分、今回はかなり濃い回になったと思います。
ここから物語は一気に加速していくので、
これからは毎日投稿を目標に進めていきます。
引き続き、よろしくお願いします。




