第27話「80年以上生きた16歳の少女」
王都より伸びるいくつもの街道。
そのうちの一本――王都のほど近くに位置する大森林へと続く道を、アリシアたちは歩いていた。
王都近郊に広がる巨大な森。
アルシェリア大森林は、豊富な資源を内包することで知られている。
街道に近い手前の一帯こそ、すでに開拓が進み、木材や鉱石といった資源が安定して採取されていた。
だが、それも森のごく一部に過ぎない。
奥へ踏み込めば、そこは魔物の巣窟。
人の手はほとんど入っておらず、いまだ全域を踏破した者はいないとされている。
さらに深部には、未だ知られぬ資源が眠っている――
そんな噂が囁かれる一方で、ここは「二度と戻れない森」としても名高かった。
街道を進むにつれ、周囲の景色は次第に変わっていく。
陽光は木々に遮られ、空気はひんやりと湿り気を帯び、森の気配が肌にまとわりつくようだった。
「そういえば気になったんだけどさ......」
先頭を歩いていたリッタが、ふと思い出したように足を止める。
くるりと振り返り、後ろを歩くアリシアとセリアへと声をかけた。
するとセリアは、少し語気を強めて言う。
「なによ、まだ何かアリシア様に言いたいことがあるの?」
その言葉に、リッタは一瞬だけ言いよどむ。
否定するように小さく首を振り、続けた。
「いや、そうじゃなくて......アリシアは80年前にあった大戦の英雄なんでしょ?」
何気ない確認のようでいて、どこか含みを持った問いだった。
リッタは一度、呼吸を置く。
「......じゃあなんで今、僕らとそんなに変わらない容姿で生きてるのかなって」
その言葉に、セリアははっとする。
言われてみれば――そういえば、と。
思い至ったように、ゆっくりとアリシアを見上げた。
向けられた視線に、アリシアはわずかに戸惑いを見せる。
視線を下へと落とし、静かに口を開いた。
「そうね......確かに当然の疑問......」
短い沈黙が落ちる。
やがて、少し間を置いて、アリシアは続けた。
「でも、ごめんなさい。私にもその答えは分からないの......」
その意外な答えに、セリアは思わず、
「えっ」
と声を漏らす。
一方、リッタは、
「ん?」
と首を傾げ、アリシアの表情を探るように見つめていた。
「80年前......ううん、それより少し前、16歳の誕生日を迎えた日から、一切成長を感じなくなったの......それまでは、背が伸びたりしてたんだけど......」
アリシアが静かにそう答えると、リッタの視線は、何故かアリシアの胸元へと移っていく。
それに気づいたアリシアは、少し顔を赤らめ、恥ずかしそうに胸元を抑える。
「少しずつ大きくなってたのに......」
そう呟くアリシアの様子を一瞥してから、リッタは、
「ふーん」
と短く相槌を打ち、くるりと前を向いた。
頭の後ろに手を回し、どこか軽い調子で続ける。
「まぁいいや。いつか分かりそうだから」
その言葉に、今度はセリアが遅れて反応する。
一拍置いてから、驚いたように声を上げた。
「えっ......ということはアリシア様は、今16歳なのですか!?」
その声に、リッタも反応し、体は前を向いたまま、首だけを後ろへと向ける。
二人の視線を受け、アリシアは一瞬きょとんとした表情を浮かべ、
「あ、あれ......」
と小さく声を漏らした。
「言ってなかったっけ......?」
慌てたようにそう言いながら、視線を彷徨わせる。
アリシアがそう言うと、セリアは一拍置いてから言葉を返した。
「わたくし達の一個上でしたのね......」
セリアとリッタは十五歳。
アリシアは十六歳。
並んで歩けば、身長はわずかにアリシアの方が高い程度で、年齢差を感じさせない容姿の三人だった。
その事実を噛み締めるように、セリアは小さな喜びと、言い表しがたい戸惑いの間で揺れている。
そんな空気を断ち切るように、リッタが冷静な調子で口を開いた。
「ねー......ところで今日はどこに泊まるの?」
アリシアが答えようとした、その瞬間だった。
「この道をもう少し行ったところに、美白効果で有名な温泉宿がありますのよ!本日はそこに泊まることにしましょ!」
被せるように言い切るセリアの声に、アリシアはぱっと表情を明るくする。
「美白効果!?」
嬉しそうに目をきらめかせるアリシアとは対照的に、リッタは腰を落とすようにして、
「えー......僕野宿が良かったなー......」
と、不満をこぼした。
その言葉に、アリシアは少し興味を引かれたように首を傾げる。
「野宿?」
だが、すぐさまセリアがぴしりとした声で遮った。
「すぐ気になさらないでください!アリシア様!」
さらに畳みかけるように言い放つ。
「行きますよ!野宿なんてわたくし達は獣ではありませんわ!」
そう言い捨てると、セリアはそそくさと先へ歩き出した。
取り残されたリッタは、少しだるそうにアリシアの方を見る。
その視線に気づいたアリシアは、ふふっと小さく笑い、
「確かにそうね」
と柔らかく応じると、リッタへ向けて、ほらと軽く手招きした。
「行きましょ!」
促され、リッタは一瞬だけため息をつく。
それでも拒むことはせず、仕方なさそうに、二人の後を追って歩き出した。
お読みいただき、ありがとうございます。
少し会話多めの回でしたが、三人の距離感や空気を楽しんでいただけていたら嬉しいです。
そして次回は――お待ちかね(?)の温泉回になります。
寒い時期ですので、少しでもほっとできる気持ちで読んでいただければ幸いです。
引き続き、お付き合いいただけましたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




