第22話「帰ってきた剣聖」
――場面は、王宮へと移る。
重厚な扉が、勢いよく開かれた。
「――陛下っ!!」
荒い息を伴った男の声が、大きな寝室に響き渡る。
寝台の傍では、執事長が静かに見守る中、
二人の女の召使いが、仰向けに横たわる老いた王の身体を、静かに介抱していた。
突然の侵入に、彼女たちは思わず息を呑む。
「何事だ……」
かすれた声で、王が視線を向ける。
若い男の執事は、膝をつくことすら忘れたまま、
震える声で叫んだ。
「アリシア様が――戻られました!
八十年前の大戦を生きた、あのアリシア様が……!」
その言葉に、王も、執事長も、
そして召使いたちまでもが、息を詰める。
やがて、王がゆっくりと口を開いた。
「……それは、本当か。間違いなく、あのアリシアなのか?」
震えを帯びた声で、真偽を確かめる。
「はい。間違いございません」
若い男の執事は、真剣な眼差しでそう答えた。
その表情を見て、嘘ではないと悟った王は、
執事長である髭を生やした老人と視線を交わす。
互いに、静かに頷き合った。
すると執事長は、短く名を呼ぶ。
「エリオ!」
呼ばれた若い執事――エリオは、
その声にすべてを察したかのように、背筋を正し、
「はい!」
即座に返事をした。
次の瞬間、
二人は揃って踵を返し、慌ただしく寝室を後にする。
廊下へ出ると、執事長とエリオは足早に歩き出した。
「アリシア様は、どこに!?」
早歩きのまま、執事長が問いかける。
エリオは迷いなく答えた。
「正面にて、お待ちいただいております!」
「……なんと……! ならば、急がねば」
そう言い残し、
二人はアリシアのもとへと、さらに歩みを速めた。
アリシアたちは、正面玄関のある大広間で、
「陛下へご報告してまいります」
そう言って立ち去った若い執事を待っていた。
やがて少しして、
白く整った髭をたくわえた、いかにも執事然とした装いの老人と、
先ほど大広間へと案内してくれた若い男の執事が、
揃って戻ってくる。
すると、アリシアたちが声をかけるよりも先に、
老人の方が一歩前に出て、静かに声をかけた。
「皆様、大変お待たせいたしました」
そう言って一礼すると、顔を上げ、
左右に並ぶ二人へと視線を向ける。
「ルシアス様、セリア様」
それぞれの名を呼び、丁寧に頭を下げる。
そして最後に、
中央に立つアリシアへと向き直った。
「……ということは、貴方が、アリシア様……」
そう言われ、アリシアは静かに、しかしはっきりと答える。
「はい」
老人は小さく頷き、改めて名乗った。
「――私は王家に仕え、執事たちを統括しております。
クラウス・フレイヴァンにございます」
少し間を置いてから、隣へと視線をやる。
「そして、こちらにおりますのが、
同じく執事を務めております、エリオ・レットです」
クラウスの視線に気づき、
若い執事――エリオは、慌てて一歩前に出て頭を下げた。
「エリオです! よろしくお願いします!」
その後、アリシアからも軽く挨拶を済ませると、
クラウスは静かに告げる。
「では、陛下のもとへご案内いたします」
そうして三人は、
クラウスの背中を追うようにして歩き出した。
やがて一行は、二階の奥へと辿り着いた。
重厚な扉――
主な素材は木材で、ドアノブなどの装飾には金があしらわれている。
ひと目で、この先が特別な場所であると分かる扉の前で、
クラウスは足を止め、くるりと振り返った。
「こちらが、陛下の寝室にございます」
それだけを告げると、
向かい合う二枚の扉を、ぐっと押し開ける。
クラウスが中へと入り、
皆もまた、静かにその後へと続いた。
ルシアス、セリア――
そして、最後にアリシアが部屋へと足を踏み入れる。
その姿が視界に入った瞬間、
寝台に横たわる王は、かすかに身体を震わせた。
「……アリシア」
震えた声で、名を呼ぶ。
アリシアもまた、寝台の上の王に気づき、
変わらぬ調子で、元気よく呼びかけた。
「アル!」
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