第17話「基礎講義」
「みなさん。お待たせしました。では、講義を始めましょう!」
アリシアの明るい声が教室に響き、張りつめていた空気がふっと和らいだ。
彼女は教卓の前へ戻ると、静かに手を合わせる。
「今日は魔法学の基本となる、魔力について、そして魔法陣について学習していきます」
黒板の前に立ち、ひと息ついてから講義を進めていく。
「まず、魔力についてです。……これは皆さんもご存知の通り、魔法を発動する際のエネルギーとなるものです」
柔らかな視線で教室全体を見渡す。
「では、この魔力について、説明できる方はいますか?」
アリシアは軽く片手を上げ、生徒たちに挙手を促した。
その問いかけに呼応するように、勢いよく一つの手が上がる。
「はい!」
はっきりとした声が響き、クラス中の視線がそちらへ向かう。
セリア・フローレンスが、椅子に座ったまま手を挙げていた。
「はい。ではセリアさん!」
アリシアに指名されると、セリアは「はい!」と元気よく返事をし、立ち上がった。
姿勢を正し、胸の前で手を揃えると、そのまま落ち着いた所作で発表を始めた。
「魔力とは、先程先生が仰っていたように、魔法を行使する際に用いられる根源的な力のことを指します。
この魔力は大気や大地など、世界のあらゆる場所に存在しており、私たちはそれらを取り込むことで魔力を回復し、体内に蓄える仕組みになっています。
ただ、この“蓄えられる量”には個人差があり、保持できる魔力量が多いほど、より強力な魔法を扱いやすくなります。
また、魔力は魔法を使用するたびに減っていくため、どれだけ蓄えられるかは魔法使いとして重要な要素となります。
……以上です」
セリアが一礼して席へ戻ると、教室のあちこちから小さな拍手が起こった。
アリシアも手を叩きながら、満足そうに微笑む。
「ありがとうございます。素晴らしい回答です」
称賛を送ったあと、アリシアは自然と前へ出て、生徒たちの注意を集めた。
「魔力についての説明は、セリアさんがしてくれた内容で問題ありません。……魔力は自然から常に湧き続けているエネルギーであり、私たちはそれを体内に自動的に取り込み、使用することで、吸収と放出の巡回を成しています」
そこで言葉をひと区切りし、生徒たちの表情を静かに見渡す。
「そして、貯蔵量についても、魔法使いとして重要な要素だと発表してくれました。そちらも正しい解釈です。……確かに貯蔵量は魔法使いにとって重要な要素となってきます。ですが、貯蔵量だけが魔法使いとしての実力を分けるわけではありません。貯めておける魔力量の他に、もう1つ大事な要素があります。……それは使い方です」
しん、と教室が静まり返り、生徒たちの視線が一斉にアリシアへと集中した。
「今日の講義は、魔力と、もう1つ。魔法陣についてお話します、と最初にもお伝えしましたが……そうです。溜め込んだ魔力の使い方に関係してくるのが、魔法陣になります」
その瞬間から、教室にはペンの走る音が広がり始める。
アリシアは黒板の前をゆっくりと歩きながら問いかけた。
「皆さんも、魔法陣という存在についてはご存知かと思いますが、その使い分けについて、というところまで考えたことある方はいますか?」
軽く片手を挙げて促すが、生徒たちは互いに視線を交わし、小さく首を横に振るだけだった。
「その様子を見ると、きっと皆さんは、魔法発動の基礎として魔法陣を学んでいることと思います。魔法陣を生成して、魔法を行使する。確かにこれも正解のうちの一つです。……ですが魔法の発動には大きくわけて3つの発動方法があります。1つは、魔法陣による発動。もう2つは、魔法陣にプラスして詠唱を伴う発動。そして、魔法陣も詠唱もなしに行う発動。これらが存在します」
説明に合わせて、アリシアの右手の上に淡い青の魔法陣がふわりと浮かび上がった。
生徒たちが息を吞む気配が伝わる。
「皆さんもよく知る、魔法陣を使用する発動方式、これは方陣魔法と呼ばれ、術式に沿って魔力を流す方法となります。メリットは魔力の損失が少ないこと。威力も安定します。デメリットは、展開にわずかな時間を要する、ということです。これは詠唱を含めた、詠唱魔法も同様です。詠唱を含めると、魔法陣に流し、発動する際の魔力損失をほぼゼロにでき、威力も最大限出力をあげることができます。デメリットは同様で、そこに詠唱時間が上乗せされ、かかってきます」
アリシアが手を下ろすと、魔法陣は静かに霧散した。
「最後に、魔法陣も詠唱も使用しない発動方式、これは無方陣魔法と呼ばれ、こちらは先の2つに比べて、時間を要さず発動することができます。しかし、デメリットは、魔法自体の質を下げ威力を軽減させてしまうことです。無方陣魔法の威力は、最大でも、方陣魔法の約60パーセント程となってしまいます。これは、特に戦闘において重要な要素となってきます。同じ魔法であっても、発動方式によって、消費魔力、発動時間、威力すらも変わってくるのです」
説明を締めくくると、アリシアは少しだけ肩の力を抜き、柔らかい笑みを浮かべた。
「私が一方的に話している講義ではつまらないですね」
その和やかな一言に、生徒たちから小さな笑い声がこぼれる。
「では、いい機会ですので、演習場に行って、実際にお見せしましょう」
アリシアはそう告げ、生徒たちを連れて教室を後にした。
お読みいただきありがとうございました。
次話は二日以内に投稿予定です。




