プロローグ
西方戦争。
後にそう呼ばれることとなった、西方各国の混乱と騒乱はトルメニアの完全降伏によって幕を閉じた。
だがその直後に発生した、世界規模の魔法消失は争いの日々と同じかそれ以上の混乱を大陸西方に引き起こす。
それまで存在した魔法という名の奇跡。
その喪失は日々の生活への変化に始まり、そして軍政への混乱、はたまた国家によっては貴族階級の地位喪失へと繋がり、様々な矛盾と混乱が世界を包み込む。
その意味において、敗戦国であるトルメニアこそがもっとも戦後の一時的平和を享受したとさえ言えよう。
なぜならば彼の国は魔法排斥を元々の国是としていたのだから。
誰かが言った。
西方戦争の真なる目的は、魔法が失われることを前提にトルメニアを事前に潰すことにあったのだと。
実際、そこに一握りの事実が存在したかそうではなかったかを知るものは少なからず存在した。
だがそれを知る者たちは固く口をつぐみ続けた。
結果、噂はあくまで噂。
何らの真偽なきものとして人々の話題から消え去っていく。
そして残ったものは新たなる現実。
魔法なき世界において新たな秩序を願うもの。
魔法なき世界において変わらぬ秩序を願うもの。
無数の者たちの思惑と願いが絡み合い、混沌とする存在しなかった未来へと歩みだした世界は何処へと向かうのか。
道なき道を誤らせぬため、男は再び歩みだす。
なぜならば彼は一人の少年からこの世界の管理者としての責務を託されたのだから。