国境泣き騎士団
登場人物
サウスタン
クレハ 本作の主人公。
シトロン 主人公の同期その1
オーロラ 主人公の同期その2
ゼウス 主人公の同期その3
バッハ 主人公達4人の上司
ノースタン
カリファ 敵国の少女
メー太 カリファに飼われている羊
シュバルツ 敵国の兵士
ロイロット シュバルツの上司
モブ兵士(4人〜6人)
1場
国境。場にいるのは、クレハ。
クレハ「休戦中だからって、随分と閑散としてるよな...ここも。最前線だとは思えないや」
下手からメー太、バク転などの見栄えのいい動きをしながら登場。
クレハ「うおおお、何?!」
メー太「こんにちは、羊です!(サムズアップ)」
クレハ「羊?!え、二足歩行...」
メー太「羊です!」
クレハ「は、はい。羊ね。羊、うんわかった」
メー太「おっと、こんな見た目をしていますが執事をさせていただいております」
クレハ「羊の執事だ!」
メー太「好きな花はツツジです」
クレハ「ツツジ好きの羊の執事!」
メー太「朝は7時に起きてます」
クレハ「ツツジ好きの羊の執事は7時起き!」
メー太「父親も同じ時間に起きてます」
クレハ「ツツジ好きの羊の執事もツツジ好きの羊の執事の父も7時起き!」
カリファ(声だけ?)「メー太、メー太ぁ!」
メー太「ハッ!お嬢様!」
下手から出てくるカリファ。そして、そこにスライディングして飛び込み腹を見せて犬のようにハッハッと言っているメー太。クレハは、担いでいた銃を手に持つ。
カリファ「メー太、駄目でしょ。こっちは国境付近なんだから。サウスタンに行ったら、ノースタンに帰ってこれなくなっちゃう───って、うわぁ!」
カリファは、クレハに気が付き、その場に伏せて手を挙げる。
カリファ「お願いします!どうか命だけは、命だけは助けてください!マフィンでもしますから!」
クレハ「それを言うなら『ナンでもしますから』だ!」
カリファ「私とフォカッチャして...スコーン、しよ?」
クレハ「いけない!パンの名前なのに卑猥に聴こえる!」
メー太「お嬢様、どうして怖がっているのですか?」(一度ブリッジしてから立ち上がる)
クレハ「立ち上がり方キモ」
カリファ「どうしてって、この人はサウスタンの兵隊さんよ!ノースタンに住む私達は、殺されちゃう!」
メー太「そ、そうなんですか?!大変、ミトンにされてしまう!」
クレハ「羊肉ならマトンだ!なんで鍋つかみになるんだよ!」
メー太「ほら、私ってモフモフしてますし」
メー太、クレハに抱きつく。
クレハ「あー!ウザい、鬱陶しい!こいつ、本当に羊なのか?なんで二足歩行で人の言葉を喋ってるんだよ!」
メー太「羊っぽいことをしろと言われれば羊になれます!」
メー太は、四つん這いになる。
メー太「ヒヒーン!」
クレハ・カリファ「「ヒヒーンは馬!」」
メー太「いやー、間違えたんだっちゃ。恥ずかしいんだっちゃ」
カリファ「それはラムだけどラムじゃないわ!」
メー太「ここから、始めましょう。一から……いいえ、ゼロから!」
クレハ「それはラムですらない!」
カリファ「で、でも私が!メー太が羊であることを保証します!」
メー太「流石はお嬢様」
クレハ「───とまぁ、もうコイツが羊だろうと羊じゃなかろうともういいよ。君はどうして国境になんか来たの?」
カリファ「メー太を追ったら、ここに着いてしまって...」
クレハ「そうだったのか。駄目だぞ、メー太」
メー太「そうだぞ、メー太!」
クレハ「メー太はお前だ!ほら、帰れ帰れ!」
カリファ「は、はいー」
カリファ、一目散に下手にはけ。メー太、ムーンウォークで帰る。
3秒ほどの間。
メー太「ポゥ!」
メー太、下手にはけ。
クレハ「全く、なんだった...メー太はともかく、女の人は可愛かったな。名前を聞きそびれた...」
メー太「今、私のことを呼びましたか?」
メー太、顔を覗かせる。
クレハ「呼んだけど出てこいとは言ってない!帰れ!」
メー太「お嬢様の名前はカリファでーす!」
メー太、今度こそはけ。
クレハ「カリファ───さん、か。可愛い名前だな...」
シトロン、上手から入ってくる。
シトロン「あ、やっぱりここにいた!クレハ、帰るぞ?また訓練サボってこんなところにいて。今度こそバッハ先輩に怒られるぞ?」
クレハ「あー、うん。そうだな。帰ろう」
2人とも上手にはける。
2場
上手からオーロラ、下手からゼウス。お互いに、両手に剣。
オーロラ「シトロン、クレハを探しに行く───だなんて抜け出していったけど、結局自分も訓練をサボりたいってことだよな」
ゼウス「ふん、我は愚民のように訓練をサボりはしない。神に背くような行動はできないからな」
オーロラ「はいはい、そうだな。んじゃ、早速1戦」
ゼウス「我に無謀にも勝負を挑むとは...我の新たなる必殺技でも喰らえ!」
ゼウス、剣を両手で握って構える。
ゼウス「うおおおおおおお!!!!!!喰らえ、我のスーパーアルティメット奥義!『浄滅』」
ゼウス、オーロラへ突撃するも軽く避けられ背中を叩かれる。転ぶが、すぐに立ち上がる。
ゼウス「ふん、我が神から授かりし剣技を避けきるとは...ハッ!もしやオーロラも何らかの神に導かれし眷属なのか?!」
オーロラ「あー、最悪だ。コイツがまた妄想の世界に入ってしまった...」
ゼウス「貴様、どこの神の眷属だ...ハッ!もしや、我が神を狙う敵対秘密結社Pに所属する神の眷属か!」
オーロラ「気にしないでくださーい!コイツが言ってるのは全部妄想なんで、気にせず訓練続けてくださーい!」
ゼウス「ふん、我が神に逆らったことを最後と思え...神の意思により、我は貴様に裁きを執行する!」
そう言って、ゼウスは剣を持ってオーロラへと攻撃を繰り返す。オーロラは、それを全部受け止める。
ゼウス「中々やるではないか!神にどれだけの代償を払った?」
オーロラ「少なくとも、お前と違って知性を代償にはしてない!てか俺は無宗教だ!」
ゼウス「ムシュウ教...だと!?まさか悪魔ルシファーを信仰する───」
オーロラ「違う!ノットレリジョン、ム・シュ・ウ・キョ・ウ!」
クレハとシトロン、上手から入ってくる。
シトロン「ただいまー」
オーロラ「あ、助けてくれよシトロン!ゼウスがまた変なことを言ってるんだよ!」
シトロン「叩けば直る。剣で」
クレハ「大丈夫?それ死んじゃわない?」
オーロラに剣で叩かれるゼウス。
ゼウス「ぐへー」
ゼウス、舞台の端っこの方で倒れる。
オーロラ「アイツがいると話が進まないからな。それで、クレハはまた国境近くに行ってたのか?」
クレハ「あぁ、そうだ」
シトロン「またサボってやがったのか。そんなに訓練が嫌いか?」
クレハ「いや、訓練が嫌って訳じゃないんだけど...あるだろ?少し静かなところに行きたい───って時が」
オーロラ「おいおい、クレハが急にセンチメンタルなこと言い始めたぞ。まだシリアス突入には早すぎるぞ」
クレハ「別にそんな重い話じゃないよ!ただ、あそこは静かだから好きなんだよ。最前線であるからこそ、双方近付けないから警備もあまりいないんだ」
シトロン「近付いちゃ駄目なところに入っちゃ駄目だろ。オセンチなのに大胆だな」
クレハ「うるさいな、ちっちゃいことは気にするな」
シトロン「国際問題だからちっちゃいことではないと思うけどな」
クレハ「ってか、今日はノースタンの羊飼い?の少女と出会ったよ」
オーロラ「羊飼い?」
クレハ「うん、羊を追ってたらどうやら国境付近まで来てたらしくて」
オーロラ「へぇ、そんなこともあるんだな」
シトロン「どうだった?可愛かったか?」
クレハ「まぁ...可愛かったよ」
シトロン「へぇ...よかったじゃんか。また会えるといいな」
クレハ「うーん、でももう次は会えないんじゃないかなぁ...」
バッハ、上手から登場。
バッハ「お前ら、ちゃんと訓練してるのか?」
シトロン「バッハ先輩!」
傍らで倒れているゼウス以外の3人は敬礼。
バッハ「おい、ゼウスは何してるんだ?」
オーロラ「えっと、そこで失神してます」
クレハ「そ、それで。バッハ先輩はどうしてここに?」
バッハ「お前らがふざけてるって報告が来たから来たんだよ。ゼウスは馬鹿やってるし、クレハ。お前はまた抜け出したんだろ?」
クレハ「あ、バレてる...」
バッハ「当たり前だろ、お前ら。俺についてこい」
3人「「「はーい」」」
全員、はける。オーロラは、ゼウスの足を引きずってはける。
3場
反対側から、メー太とカリファが登場。
カリファ「全く、メー太。勝手にあんなところまで行っちゃ駄目でしょ」
メー太「申し訳ございません、お嬢様」
カリファ「あの兵隊さんが優しい人じゃなかったら、私達殺されてたのよ?」
メー太「ところで、さっきの人...カッコよくなかったですか?」
カリファ「まぁ…そうね。確かにカッコよかった」
メー太「私とどっちの方がカッコいいですか?」
カリファ「そうねぇ...羊の中ではカッコいいほうじゃないかしら?」
メー太「お嬢様、そうやって誤魔化さないでくださいよ。恥ずかしがらなくてもいいんですよ。ほら、メー太の方がカッコいいって───」
カリファ「さっきの兵隊さんの方がカッコよかったわ」
メー太「(猫ミームのヤギのやつ)」
カリファ「huh?」
メー太「ハッハッハ、お嬢様。そんな素っ頓狂な声を出してどうしたんですか?」
カリファ「んな、失礼ね!羊の癖に山羊の真似なんかしちゃって!」
メー太「別にいいじゃないですか」
カリファ「また、会えるといいなー。さっきの兵隊さん」
メー太「お嬢様が私以外の男性を好きになるなんて...」
カリファ「別に私はメー太のことを好きになったつもりはないわよ?」
メー太「ええ?!じゃあ、どうして私と一緒にいるんですか!私のことを弄んでそんなに楽しいですか!」
カリファ「うるさい畜産物!」
メー太「畜・産・物!」
メー太、後ろに吹っ飛ぶ。
カリファ「あなたも大きくなれば出荷なんだから。ちゃんと大人しくしてるのよ!」
メー太「すごい恐ろしいこと言いますね!」
カリファ「ほら、早く帰るわよ。帰らないと、パパとママに心配かけちゃう!」
メー太「は、はい...わかりました。お嬢様」
2人退場。
4場
真っ先にゼウスが入ってきて、その後他4人が登場。ゼウスは真ん中で立ち止まり、4人の方を見る。
ゼウス「よく来たな。貴様らも神の意志で来たのか。神の顕在させた漆黒の炎に導かれここまで来たのか!待っていたぞ、伝説の剣士たちよ!」
バッハ「うるせぇ、人の部屋に入って早々騒ぐんじゃない」
オーロラ「ごめんなさい、ゼウスは見慣れない部屋で興奮してるんです」
バッハ「5歳児か!って、なんでお前らはここに呼ばれたかわかるか?」
全員、首を傾げる。
バッハ「はぁ...全く、お前らは。訓練を抜け出すやつに、訓練で騒いでるやつ。正直に言えば、他の騎士達の邪魔なんだよ」
バッハ、その後口パクで話す。
クレハ「それから、俺達はバッハ先輩からの長い長ーいお説教を受けた」
シトロン「先輩は、国境付近の兵士を束ねているからといって、自分のほうが先に生まれて先に出世したからといって俺達に舌鋒鋭く責め立てた」
オーロラ「あぁ、長い。長い長い!こんな説法、聴いてられるか!」
ゼウス「我ら4人は不真面目達磨!説教なんぞ聞きはせん!」
4人、ポーズを取る。も───
バッハ「真面目に聴け、お前ら。ちゃんとお話を聴けたらプリンでもあげるから」
4人「「「プリン!」」」
4人、一列にピシリと並んで説教を聞く。そして、バッハだけが動く。
クレハ「はい、先輩!(挙手)お説教は終わりましたか?」
バッハ「まだだ!」
シトロン「はい、先輩!(挙手)お説教は終わりましたか?」
バッハ「まだだ!」
オーロラ「はい、先輩!(挙手)お説教は終わりましたか?」
バッハ「まだだ!」
ゼウス「はい、先───」
バッハ「まだだ!」
そして、バッハは話し終えて───
バッハ「ってことで、次にふざけたら除隊にでもするからな!以上!」
4人「「「プリンだぁぁ!」」」
バッハ「5歳児か!」
シトロン「はい、先輩!プリンは、プリンはどこにありますか!」
バッハ「部屋の奥の冷蔵庫だ。4人で好きに食いやがれ!」
オーロラ「よし、俺取ってくる!」
ゼウス「貴様!その褒美は我のものだ!抜け駆けなんかさせない!」
バッハ「おい、人の部屋で走るな!」
オーロラとゼウス、下手へとはける。
バッハ「全く...なんて騒がしいんだ...」
シトロン「やれやれ、アイツラは本当にガキですよね。プリンなんぞでそんな喜ぶなんて」
バッハ「プッチンプリンだぞ」
シトロン「プッチンプリン!俺がプッチンする!」
シトロン、そう言って皆についていこうとするも2人が戻ってきたので止まる。
オーロラ「聴いてくれ...2人共」
シトロン「どうしたんだ?どうしたんだ?」
クレハ「早くプリンを出してくれよ!」
ゼウス「そのプリンなんだが...3つしかない」
机に出された3つ入りのプッチンプリン。4人は、その場に崩れ落ちる。
クレハ「俺達は4人なのに...プリンは3つだって?」
シトロン「どうするんだよ、おい!どうするんだよ!」
オーロラ「かくなる上は...」
4人「「「じゃんけん!最初はグー、ジャンケンポン!!」」」
クレハ、敗北。
クレハ「負け...た?この俺が?」
その場に倒れるクレハ。
シトロン「すまないクレハ...これは必要な犠牲だったんだ」
オーロラ「ありがとう、戦友。クレハの思いは俺達が必ず未来に繋ぐ」
ゼウス「ゲヘナで会おう。友よ」
3人、倒れたクレハに親指を立てる。
バッハ「───これ、プリンの話だよな?」
シトロン「てことで、先輩。俺達はスプーンとお皿を取ってきます。プッチンしたいんで」
そう言って、3人はプリンを持って下手へはけ。
バッハ「おーい、クレハ。起きろー。今度、なんか買ってやるから」
クレハ「本当ですか?」
バッハ「別にいいよ、真面目に訓練してくれるなら」
クレハ「わかりました...じゃあ、今日は我慢します」
バッハ「偉くなったな。5才児から小学1年生に進級だ」
クレハ「うーん、嬉しくない...って、先輩」
バッハ「どうしたんだ?」
クレハ「タバコ、吸わないんですか?」
バッハ「ああ、子供が生まれたからな」
クレハ「そうだったんですか、おめでとうございます」
バッハ「ほら、俺達はもう半年くらいここにいるだろ?だから、写真でしか娘を見たことはないけどよ。生まれたってなら子どもの体に悪いかもしれないしタバコはやめておこうかなって」
クレハ「いい父親じゃないですか」
バッハ「別にな。禁煙する理由を探してたし。───と、そうだ。思いつきなんだが、聞いてくれるか?」
クレハ「なんですか?」
バッハ「クレハ、お前ら4人は国境の見張りをしないか?」
クレハ「俺達4人が...国境の見張り?」
バッハ、上手へはける。
クレハ(独白)「バッハの思いつきにより、俺達は国境の見張りをすることになった。理由としては、俺が訓練を抜け出して国境近くまで移動するからと、訓練の邪魔がいなくなるから───という理由だった。俺達4人は、翌日からプリンと引き換えにその仕事を引き受けることになったのだった」
5場
シトロン「それじゃ、ここは頼むよ!」(声だけ)
クレハ「はーい ───と、やっぱりここは静かだよな。今日からここの見張り、ずっとここにいられるのか」
メー太、下手から雑巾がけをして登場。
クレハ「?????????」
メー太「あ、ご無沙汰しております。御存知の通り、メー太でございます!」
クレハ「な...何してたんだ?」
メー太「雑巾がけです」
クレハ「雑巾がけだと?───って、メー太!また、ここに来たのか!来ちゃだめって言っただろ」
メー太「いやー、お嬢様がアナタに会いたいとおっしゃってまして───って、お嬢様だ!」
下手から出てくるカリファ。そこに飛び込み腹を見せるメー太。
カリファ「もう、またこっちに来たの?駄目でしょう。次からは首輪を付けるわよ?」
メー太「はっはっはっ、首輪が着いたら家畜じゃなくてペットじゃないですか(笑)」
カリファ「って、うわぁ!」
カリファは、クレハに気が付き、その場に伏せて手を挙げる。
カリファ「お願いします!どうか命だけは、命だけは助けてください!麺でもしますから!」
クレハ「家系彼女?」
カリファ「今夜は...アブラマシマシで、どう?」
クレハ「いけない!ラーメンの注文なのに卑猥に聴こえる!」
メー太「お嬢様、この方は悪い人じゃありません。昨日の兵隊さんですよ」
カリファ「あ...本当だ。えっと...帰りますね」
メー太「え、帰っちゃうんですか?」
クレハ「待ってください、少しお話...しませんか?」
カリファ「え...よろしいのですか?」
クレハ「俺...今日からここの警備になりましたし、国境から入ってこなければ罰することはございませんから」
メー太「そうですよ」
メー太、クレハの肩を叩く。
クレハ「メー太、お前は今国境を越えてるからな。殺しても文句は言われないぞ?」
メー太「おっと、残念。私は羊ですので。人間の決めた国境なんて関係ありません」
クレハ「本当に羊か?」
メー太「はい、私は羊です!羊っぽいことをすればいいですか?」
クレハ「でも、昨日はできなかっただろ?」
メー太「馬鹿にしないでくださいよ。おほん、死神を殺す方法は…人間に恋させる事だ」
クレハ「だから、羊はレムじゃなくてラムだって言ってるだろ!」
音響「ゆっくり霊夢よ」
クレハ「レムでもレイムでもない!」
音響「今日は国境について解説していくわ」
音響「よろしく頼むのぜ」
クレハ「止めろ!ゆっくり解説を見るんじゃない!」
メー太「ずん───」
クレハ「ずんだもんも駄目だからな!ほら、カリファの方へ戻れ」
カリファ「え...どうして、私の名前を」
メー太「あ、すみません。私が勝手に教えちゃいました」
カリファ「え、そうなの?」
クレハ「あぁ、メー太が教えてくれたよ。俺も名乗ったほうがいいかな」
カリファ「よければ、お名前を知りたいです。兵隊さんって呼び続けるのも変ですし」
クレハ「俺の名前はクレハです。今日からここの警備だ。よろしく」
カリファ「クレハさん、素敵な名前ですね」
クレハ「カリファさんこそ、素敵な名前ですよ」
2人は境界の上で手を合わせる。
メー太「おーっと、お二人は何故かラブラブムード。私がここにいるのは邪魔ですかね。少し遠くで見ておきましょう」
メー太、観客席へとプールの中に入るように階段を下る。
メー太「あ、お隣失礼」
シュバルツ、下手から登場。
シュバルツ「おい、お前ら。国境付近で何してるんだ」
2人は、手を離してシュバルツの方を見る。
カリファ「あ、あなたは...」
シュバルツ「俺の名前はシュバルツ!誇り高きノースタンの三等兵だ!お前ら、国境付近でコソコソイチャイチャしやがって!」
メー太「姫様、大丈夫でしょうか...」
シュバルツ「俺達ノースタンの兵士を無視して国を跨いでランデブーか?そんだけ男と会いたいならノースタンの売国奴にでもなりやがれ!」
メー太「これは...嫉妬!もしや、三角関係!?」
カリファ「うるさい!メー太は黙ってて!」
シュバルツ「うるさい...だと?今、俺にうるさいって言ったのか?」
カリファ「え、違...」
シュバルツ「俺はノースタンの三等兵だぞ!農民の癖に口答えするな!」
そう言って拳を振るうシュバルツ。クレハは、カリファを庇い拳を受け止める。
シュバルツ「お前...サウスタンの騎士だな?恋人が殴られるのは見てられねぇってのか?」
クレハ「恋人じゃない。でも、誰かが殴られそうなのを見て止めずにそれでも本当に騎士なのか?」
シュバルツ「敵国の女だぞ?」
クレハ「敵国かどうかなんて関係ない。弱き者を守るために俺は騎士になったんだ」
シュバルツ「ケッ、そうかよ」
そう言って、シュバルツは手を離す。
シュバルツ「お前、名前は?」
クレハ「クレハだ。サウスタンの三等兵で、国境の警備を職務にしている」
シュバルツ「お前も国境警備か。お前とは仲良くなれなさそうだぜ」
そう言って、立ち去るシュバルツ。
カリファ「あの...助けてくれて、ありがとうございます」
クレハ「いえ、誰かを助けるのが仕事ですから」
カリファ「えっと...明日もここに来ていいですか?一緒に、お話がしたいです」
クレハ「うん、いいよ。ここで待ってる」
シトロンがやってくる。
シトロン「騒がしいが、どうかしたんだ───って、その女!昨日言ってたやつか?!」
カリファ「ま、またですか?!」
クレハ「カリファ、早く帰れ!」
カリファ「で、でもメー太が!メー太がいないの!」
メー太「お嬢様!私のことをお呼びですか?呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン、ビビディ・バビディ・ブー」
そのまま、カリファとメー太は退場。
クレハ「この後、シトロンに彼女かどうか散々聞かれたけど、なんとか説得して誤解を解いた。そして、そこから1ヶ月。2日に1回とかのペースで、俺とカリファ、ついでにメー太はあの国境で会っていたのだった」
クレハ、はけ。
6場
場に出てくるシュバルツ・ロイロット・モブ兵士全員。
シュバルツ「ただいま戻りました!」
ロイロット「おぉ!シュバルツ三等兵!国境付近はどうだったかね?」
シュバルツ「特に異常は無かったです。───と、最近サウスタンの国境付近を警備する騎士が変わったようです」
ロイロット「そうかそうか。そいつ等は強そうだったか?」
シュバルツ「いえ、我々ノースタンの兵士がいれば一瞬にして潰せるような輩でしょう!」
ロイロット「そうかそうか。報告ご苦労!」
シュバルツ、モブ兵士に倣い一列に並ぶ。
ロイロット「さて、ノースタンの三等兵諸君。私の声が聴こえているかね?」
モブ兵士・シュバルツ「ハッ!」
ロイロット「兵士たるもの強くあれ!弱きものを駆逐し、精錬された強きを求めよ!」
モブ兵士・シュバルツ「兵士たるもの強くあれ!弱きものを駆逐し、精錬された強きを求めよ!」
ロイロット「武の道を極め、ノースタンの勝利へ貢献せよ!」
モブ兵士・シュバルツ「武の道を極め、ノースタンの勝利へ貢献せよ!」
ロイロット「諸君らの輝かしい活動を期待しているぞ!それでは、解散!訓練に戻れ!」
モブ兵士・シュバルツ「ハッ!」
7場
場にはバッハとクレハ達4人組がいる。
クレハ「それで、バッハさん。呼び出しってなんですか?」
シトロン「俺達、別に何もやらかしてないですよね?」
バッハ「今日は別にお説教するために呼び出したんじゃない。今日は、皆にとある報告をしようと思ってな」
オーロラ「報告?」
ゼウス「まさか、大悪魔であるベルゼビュートの軍勢が動き出したのか?!」
バッハ「んだよ、それ。ベル...なんだって?」
ゼウス「まさか...貴様、ベルゼビュートを知らないのか!」
バッハ「おい、こちとら上官だぞ。貴様呼ばわりするな」
オーロラ「ゼウスの頭がおかしいのはいつものことなので無視してください」
クレハ「それで、報告ってのは?」
シトロン「ダンゴムシを拾ったとかですか?」
バッハ「5歳児か!」
シトロン「あ、砂のお城を作ったとか?」
バッハ「5歳児か!」
シトロン「乳歯が全部抜けたとかですか?」
バッハ「5歳児───じゃないな!小5か!」
クレハ「それで、報告ってのは?」
バッハ「俺はついに国境じゃなくて軍の本部に呼ばれることになった!」
オーロラ「え?!」
ゼウス「それは要するに...」
シトロン「ついに幼稚園デビュー?!」
バッハ「5歳児か!!しつこいんだよ、お前ら!出世したの、出世!」
クレハ「出世」
シトロン「バッハさんがか...」
オーロラ「出世、か」
ゼウス「ほう、出世とな...」
4人とも、首を傾げる。
バッハ「なんで納得してないんだよ。俺は真面目に仕事してたんだよ、お前らと違ってな!」
クレハ「え、えっと!おめでとうございます!」
オーロラ「他の騎士には伝えたんですか?」
バッハ「あぁ、他の皆には訓練の時に伝えておいた。お前らは、国境の警備だったからこうして個別で伝えてるんだよ」
シトロン「本部にはいつ行くんですか?」
バッハ「もう招集がかかってるから、明後日には出発だろうな」
クレハ「明後日...ですか。寂しくなりますね」
バッハ「何、別に死ぬわけじゃない。また、何かあったら顔出しに来るよ」
ゼウス「それで、先輩がいなくなったらここのボスは誰になると言うのだ?まさか大悪魔───」
バッハ「国から、別の人が派遣されてくるだろうよ。ちゃんと、相手を敬うんだぞ」
シトロン「わかってるっちゅーの」
そう言って、バッハの頭を叩く。
バッハ「全然敬ってねぇ!」
クレハ「そうだ、お別れパーティーとかしませんか?」
バッハ「お別れパーティー?」
クレハ「はい!本部入りのお祝いも兼ねて、お祝いパーティーですよ!明後日なら、まだ明日もあります!」
バッハ「お祝いパーティーか...それも悪くないかもな。明日の夜にでも、やるか!」
シトロン「よっしゃ、パーティー!」
オーロラ「パーティーにはプリンも出ますか?!」
バッハ「用意しといてやるよ、好きなだけ食え!」
4人、大喜び。
バッハ「でも、ちゃんと今日の夜も明日も仕事はあるんだから、ちゃんと働けよ!」
4人「イェッサー!」
そう口にして、バッハは出ていく。
8場
辺りは夜。オーロラとゼウスははける。
クレハ「明日はバッハ先輩のお別れパーティーか。今日の夜は楽しみで眠れなさそうだな」
シトロン「そんなにパーティーが嬉しいか?」
クレハ「あぁ、バッハ先輩。国境から離れるってことはまたお嫁さんや息子さんに会えるってことだろ?」
シトロン「そう言えば、子供が生まれたって言ってたな」
クレハ「うん、だから嬉しくってさ」
シトロン「クレハは、優しいんだな」
クレハ「え?」
シトロン「別に、俺はそこまで考えなかった。ただ、バッハ先輩がいなくなって、いじっても許される人が減っちゃうなー、くらいだったからさ」
クレハ「そっか」
シトロン「まぁ、とにかく仕事だな。俺はいつも通り向こうを見て回るから、クレハはそっちをお願い」
クレハ「あぁ、わかった」
シトロン、はける。
クレハ「昼でも静かなここだけど、夜は更に静かだな。こんな夜中に敵襲だなんて───」
メー太、ミッキーみたいな歩き方で登場。
メー太「やぁ、皆!僕の名前はミッキー!」
クレハ「ストップ!やめろやめろやめろ!」
メー太「あ!クレハさん!」
クレハ「まだそのミッキーは著作権切れてないの!」
メー太「え?そうなんですか?(ミッキーボイス)」
クレハ「だーからやめろ!」
メー太「ハハッ!大丈夫ですって、夜だから誰も聴いてませんよ(ミッキーボイス)」
クレハ「夜だから高い声は響くんだよ!殺されるぞ!」
カリファ「あ、メー太。いたいた、駄目じゃない。こんな夜に抜け出しちゃ───って、うわぁ!」
カリファ、クレハに気が付き、その場に伏せて手を挙げる。
カリファ「お願いします!どうか命だけは、命だけは助けてください!ロンでもしますから!」
クレハ「麻雀だって?」
カリファ「ハク///ハッ///チュン///」
クレハ「いけない!三元牌なのに卑猥に聴こえる!」
カリファ「って、このツッコミ。クレハさんでしたか」
クレハ「こっちもカリファで良かったよ。敵襲だったら困ってたよ。それでどうして、こんな時間にここにいるの?」
カリファ「急にメー太が夜の散歩に行きたいって言うものだから、連れて行ってあげたらここまで走ってちゃって」
クレハ「そうなのか。メー太、またカリファを困らせたのか?」
メー太「はい、そうです。へへっ、褒められると照れますな」
クレハ「褒めてないよ!」
メー太「褒めてなかったんですか?」
クレハ「当たり前だ。こんな夜中にカリファを外に出歩かせるんじゃない。危ない目にあったらどうするんだ」
メー太「それは、その...すみません」
クレハ「全く、帰り道も気をつけるんだぞ。カリファは可愛いんだから、変な人に襲われちゃうかもしれない」
カリファ「私が、可愛い?」
クレハ「あ」
メー太「おっと、クレハさん。本音を口にしてしまったようですね。もう、隠さなくていいんじゃないですか?」
クレハ「隠すって...」
メー太「2人だけの空間だけに私はドロンジョします!」
クレハ「なんでヤッターマンなんだよ」
メー太、おしおき三輪車に乗るような動きではけていく。
クレハ「ドロンジョしながらドロンした!」
カリファ「あ、メー太!勝手に行かないでよ!」
カリファ、メー太を追いかけようとするも自然と足を止める。
カリファ「その...さっきの話の続き、聴いてもいいかな?」
クレハ「話の続き...」
カリファ「その...私のこと、可愛いって言ってくれたの...嬉しい、よ」
クレハ(独白)「そういう雰囲気になってしまった。ここで逃げてしまってもいいけれど、そしたら二度とチャンスは無いかもしれない。それなら...」
クレハとカリファ、お互いに向き合う。
クレハ「今夜は月が綺麗ですね」
カリファ「───え?」
クレハ「海の向こうの遠い国では、相手に好意を伝える時にこういうそうです」
カリファ「今夜は月が綺麗ですね───って?」
クレハ「はい」
カリファ「月が綺麗に見えるなんて当たり前じゃない。だって、遠くにあるんだもの」
クレハ「じゃあ、これだけ近くにいても綺麗に見える君は、月より何倍も美しい」
クレハ、カリファにキスをする。
クレハ「月が綺麗に見えるのは、遠くにあるからじゃない。カリファ、君と見てるからだ」
カリファ「クレハ...」
カリファ、クレハに抱きつく。
カリファ「私は、そんなカッコいいこと言えないからさ。好き、好きだよ」
クレハ「俺もだ」
カリファ「ありがとう、嬉しい」
クレハとカリファ、離れて舞台の縁に座る。
クレハ「どうして、こんな境界線なんかあるんだろうな」
カリファ「私に聞かれてもわからないわ」
クレハ「わかってる。遠い昔の偉い人が決めたことなんか俺にもわからない」
カリファ「でも、こんな境界さえ無ければ私達は一緒に暮らせる事ができるのに...」
クレハ「なぁ、カリファ」
カリファ「何?クレハ」
クレハ「脱国して、俺のところに来いよ」
カリファ「へ?」
クレハ「一緒に住もう。2人で、幸せになろう」
シュバルツ、入ってくる。2人はそれに気付かない。シュバルツは2人の話を静かに聴く。
カリファ「パパとママがいるから...それに、メー太とかもいるし...」
クレハ「駄目...か?」
カリファ「まだ、駄目。でも数年後、私が独り立ちしていいよってなったらさ、私をクレハのお家に連れてって」
クレハ「いいよ、約束だ」
2人は、ハイタッチ。
カリファ「そうだ、ちょっと思ったんだけど、ちょっと今日は寂しそう?」
クレハ「え?」
カリファ「いや、夜だからそう見えるってだけで、気の所為だったらごめんなさいなんだけど、なんだか寂しそうだよ」
クレハ「───」
カリファ「ごめん、やっぱ私の勘違いだったかな」
クレハ「いや、違う。勘違いじゃないと思う」
カリファ「そうなの?」
クレハ「うん。明後日、俺の先輩だった人が本部に異動になるんだ。先輩の前じゃ恥ずかしくって言えないけどさ、尊敬してた先輩だったから。ちょっと顔に出てたかもな」
カリファ「そうなんだ...兵隊さん事情は大変だね」
クレハ「でもまぁ、明日の夕飯はお別れパーティーが行われるから」
カリファ「お別れパーティー?」
クレハ「あぁ、出世祝いを兼ねてね」
カリファ「そっか、じゃあ楽しんできてね」
クレハ「うん、もちろんだよ。───ほら、今日はもう夜も遅くなっちゃうから帰りな。お父さんとお母さんが心配しちゃうよ」
カリファ「うん、そうだね。メー太、帰るよ!」
カリファが振り向いた時に、シュバルツは隠れる。そして、カリファははけていく。
クレハ「さてと。俺も仕事に戻らなきゃ。明日はパーティーもあるし、怒られたくはねぇからな」
クレハ、カリファとは反対側にはける。入れ違うように、シュバルツが出てくる。
シュバルツ「おいおい、今アイツが話してたことってよ...さっきの女───カリファって言ってたか?を拷問して吐かせれば、俺もノースタンに貢献できるかもしれねぇ!」
シュバルツ、はける。
9場
場には、カリファとメー太。
メー太「お嬢様、クレハさんと随分ラブラブじゃないですか」
カリファ「べ、別にラブラブじゃないわよ」
メー太「私ともラブラブしてくださいよー、にゃんにゃん」
カリファ「にゃんにゃんは猫です。メー太は羊でしょう?」
メー太「正直言わせてください。もう誰も、私のことが羊だなんて思ってないですよ。演劇を見てる皆さんもそう思うでしょう?」
カリファ「メー太、メタいよ。滅多なことは言わないで!」
シュバルツ、後ろから登場。
シュバルツ「おい、止まれや。お前ら2人」
メー太「だ、誰ですか?アナタは!」
2人に接近するシュバルツ。
メー太「お嬢様には、指一本触れさせません。羊の執事である、このメー太が相手しましょう!」
メー太、シュバルツに攻撃しようとするも1発殴られて後ろへ吹き飛ぶ。
メー太「ごぎゃぁ!」
カリファ「メー太!」
シュバルツ「お前ら、さっきサウスタンの騎士と何話してたんだよ」
カリファ「え、えっと...」
シュバルツ「素直に教えてくれたら痛いことはしないがよ、話さなかったら...わかるよな?」
メー太「お嬢様!逃げてください!」
カリファ、逃げようとするもシュバルツに掴まれる。
シュバルツ「おいおいおい、無視して逃げれる訳ないだろ?俺はノースタンの三等兵だぜ?お前みたいな農民とは格がちげぇんだよ」
カリファ「助けてッ!」
シュバルツ「助けて欲しけりゃ話せ!話さないなら、お前の家族ごとぶち殺す!」
メー太「お嬢様!」
ロイロット「シュバルツ三等兵、駄目じゃないか。そうやってビビらせちゃ」
シュバルツ「ロイロット様!」
ロイロット「怖がらせたって意味はない。下手っぴだね、拷問が」
シュバルツ「ロイロット様。では、どうすれば?」
ロイロット「こうするのさ」
ロイロット、カリファの頬を叩く。
カリファ「痛ッ!」
メー太「お嬢様!お前、お嬢様に何を!」
ロイロット、メー太の腹を蹴り上げる。
メー太「がはっ」
カリファ「メー太!」
メー太「お嬢様...」
ロイロット「女など、銃後にいるくせして文句をいう生物としての劣等種だ。弱肉強食の世界においては、強者である我々男に殴られるだけの弱者に過ぎないんだよ」
シュバルツ「これ以上、痛い思いしたくなければ話せよ。お前は、あそこで何を話してた!密告か!」
カリファ「話しません!あなた達みたいな人に、話してたまるもんですか!」
シュバルツ、カリファを殴ろうと拳を振るう。が───
メー太「明日の夜、パーティーがあるみたいです!」
カリファ「え...メー太?」
メー太「明日、国境付近にいる一般騎士達の先輩が本部に呼び出されたので、そのお別れパーティーをするみたいです!」
ロイロット「本当か?羊よ」
メー太「はい、本当です!私はしっかりと聴いていました!」
カリファ「メー太、喋っちゃ駄目!」
ロイロット「そうかそうか、教えてくれてありがとう。羊よ、私達についてこないか?」
メー太「───よろしいのですか?」
ロイロット「あぁ、君であれば役に立てるかもしれないからな。それに、喋れる羊というのは珍しい。では、シュバルツ三等兵、私達は帰るぞ」
シュバルツ「ハッ!」
ロイロット「羊よ、来たければ好きについてくるがいい」
シュバルツ、ロイロット、はけ。
カリファ「メー太、なんで教えちゃったの!」
メー太「───」
カリファ「言っちゃ駄目な情報だったじゃない!」
メー太「何がどう...駄目なんですか?」
カリファ「それはその...クレハ達が困っちゃう!」
メー太「いいじゃないですか、あんな人間」
カリファ「───え?」
メー太「私は、羊の執事ですがそれ以前に一匹の家畜。お嬢様だって、そう言っていたでしょう?家畜だって、飼われる人を選ぶ権利はあるんです」
カリファ「嫌だ、メー太。行かないで!」
メー太「アナタはいつも私のことを家族ではなく家畜と呼んだ。お嬢様、さようなら」
メー太、シュバルツとロイロットと同じ方向へはける。
カリファ「ごめん、待って!ねぇ、メー太!メー太ってば!そんな...メー太が、メー太が...どうしよう、どうしよう、どうしよう...」
暗転。
明転。
場にはロイロットとシュバルツ。そしてメー太と、モブ兵士達。
シュバルツとモブ兵士達は一列に、メー太はロイロットの後ろに。
ロイロット「皆の者、戦闘の準備はできているか?」
シュバルツ・モブ兵士「ハッ!」
ロイロット「本日の夜、サウスタンの国境近くの兵士達がパーティーをするという密告が入った。二等兵三等兵諸君!君達の活躍を楽しみにしている!よろしいか?」
シュバルツ・モブ兵士「ハッ!」
ロイロット「それでは、皆に新入りを紹介する。羊のメー太だ」
メー太「私は、執事の───いや、バトラーのメー太です。訓練はしていないので、今日の夜の戦闘で活躍はできないかもしれませんが、私も密告した身。皆様のお力添えできるように頑張ります!」
ロイロット「期待しているぞ」
メー太「はい!」
ロイロット「兵士たるもの強くあれ!弱きものを駆逐し、精錬された強きを求めよ!」
モブ兵士・シュバルツ「兵士たるもの強くあれ!弱きものを駆逐し、精錬された強きを求めよ!」
ロイロット「武の道を極め、ノースタンの勝利へ貢献せよ!」
モブ兵士・シュバルツ「武の道を極め、ノースタンの勝利へ貢献せよ!」
ロイロット「諸君らの輝かしい活動を期待しているぞ!それでは、解散!本日の夜に備えて訓練に戻れ!」
モブ兵士・シュバルツ「ハッ!」
10場
パーティー会場。場にはクレハ・シトロン・オーロラ・ゼウスの4人。
オーロラ「お前ら、盛り上がってるか?」
一同「いええええええい!!!」
オーロラ「今日は、我らがバッハ先輩の出世祝いとお別れパーティーだ!今日はドンドン盛り上がっていけぇ!」
クレハ「なんだか、オーロラのテンションが高いな」
シトロン「そうだね。いつもはもっと静かなんだけどな。酔ってるのか?」
クレハ「いや、今日の料理にお酒は入ってないと思うぞ。ってか、ゼウスは?」
ゼウス「ふん、神の舞踏会にも参加している我がこんな陳腐な催しで嬉々とするわけがないだろう」
シトロン「うわ、腕組後方彼氏面かよ。萎えるわー」
ゼウス「我は神の意見にしか従わん。文句を言うのであれば、貴様であれど神の裁きを下してやるぞ?」
シトロン「はいはい、そうですかー」
クレハ「2人共、喧嘩なんかしないで今は楽しもうぜ?」
ゼウス「クレハ、こんなつまらないパーティー、2人で抜け出さないか?」
クレハ「いや、楽しいけれど...」
ゼウス「楽しい...のか?ふん、まぁいい。我は一人でだってパーティーは抜け出せる!」
クレハ「あの!そのパーティーを抜け出すやつって一人で抜け出しちゃうとただぼっちのやつってことになるぞ?!」
ゼウス、はける。
クレハ「って、行っちゃった...」
シトロン「まぁ、ゼウスのことは放って置いて俺達は楽しもうぜ!」
クレハ「あぁ、そうだな!」
オーロラ「お前らー、ついに主役の登場だー!今回のパーティーの主役はこの方!俺等の先輩、バッハだー!」
バッハ、登場。
バッハ「皆、楽しんでくれてるか?」
一同「はい!」
オーロラ「それでは、本日の主役のバッハ先輩から、ありがたーいお言葉をいただこうと思います!」
バッハ「ありがたいお言葉?そんなハードルを上げられると困るんだが...おほん」
バッハ、語りだす。(ピンスポがいいかも?)
バッハ「皆、今日は楽しんでくれているか?今日は俺の出世祝いとお別れを兼ねたパーティーだから、できるだけ最高の思い出にしてくれると楽しい。そんな前置きはおいておいて、少し有意義なことを話さないとクレハやシトロン・オーロラ、ゼウスに校長先生だとかいう仇名を付けられてしまう。最後の最後でそんなくだらない陰口の種を残すのは嫌だから、ちゃんと話させてもらうよ。最初に、君達に問いかけたい。君達は、敵国であるノースタンのことをどう思っている?声を上げる必要はない。心の中で思ってくれていれば結構だ。君達は、敵国をどう思っている?悪しき国だと、憎き場所だと、蔑むべき土地だと思っているかもしれない。だけど、俺はそう思わない。俺はここに派遣されてもう4年。ここにいる大半よりかは長くいて、俺は多くのノースタンの兵士を見てきた。そして、多くのノースタンの人たちと交渉をしてきた。そこでわかったのが、全く持って当たり前のことなのだが、俺達の敵国であるノースタンに住んでいる人物だって、同じ人間なんだ。同じ言語を話し、同じような服を着て、同じような生活をしてる。ただ住んでるところが違うだけなんだ。国境一つ跨いでるだけで、俺達はいがみあい憎しみ合い殺し合っている。なんだか、不思議なことだとは思わないか?俺は不思議だと思っている。だから俺は、本部入りをしてそれなりの地位に着いたら、終戦にまで持っていって平和的解決をしようと思っている。俺には、嫁と娘がいる。もちろん、父親も母親もいる。皆にだって、家族がいるだろう。もしくは、家族がいただろう。家族になる予定の人間がいるだろう。家族になるはずだった人間がいるだろう。それは、ノースタンの人達だって同じなんだ。俺達はきっと殺し合うべきじゃない。仲良くするべきなんだ。もう少し待っていてくれ、俺がどうにかこの戦争を止める。そしたら皆も、家族と暮らせる平和な世界になるはずだ。俺がこの野望を───いや、綺麗な言い方をしよう。この夢を叶えるまで、誰も欠けずに生きていてほしい。さて、今日はこんな会に参加してくれてありがとう、以上だ」
一同、拍手。
オーロラ「バッハ先輩、ありがたいお言葉をありがとうございました!それでは皆、まだまだパーティーは続きます!バッハ先輩も参加したことですし、再度!」
全員「乾杯〜!」
そのまま、和気藹々と喋りながらはける。一方で、場に出てくるのはゼウス。
11場
ゼウス「なんともまぁ、閑静なところだ。神から天啓を頂くに相応しいな」
ゼウス、その場にカッコつけながら座る。場に入ってくる、ロイロット等敵兵集団。
ロイロット「さぁ、進むんだ!ノースタン!敵の領土は目の前だ!」
ゼウス「我を誘う天使の言葉───いや、違う!これは、敵兵!」
ロイロット「お別れパーティーをしていると聞いていたが、ここにいるのか?」
シュバルツ「でも、敵は奴だけみたいです」
ロイロット「そうか!では、貴様ら!コテンパンにしてやれ!」
出てくるのはモブ兵士達。
ゼウス「ふん、我は雑魚とではなく大ボスとだけ戦うと決めているのだがな...しょうがない、神に愛されてこの世に顕現した眷属、このゼウスが貴様らの相手を───」
台詞の間に、モブ兵士1が襲いかかる。たまたま、ゼウスは避ける。
ゼウス「───貴様、我の言葉を遮り襲いかかろうとしたな?」
モブ兵士1「うっせぇ!お前みたいな雑魚はとっとと死んでおけ!」
ゼウス「我のことを雑魚と申すか...面白い。貴様のことをぶち殺してやる!喰らえ、我のスーパーアルティメット奥義!『浄滅』!!!!」
モブ兵士1、ゼウスの攻撃を食らって後ろに吹き飛ぶ。他のモブはざわつく。
ロイロット「誇り高きノースタンの兵士が慌てふためくんじゃない!敵はたった一人!徹底的に潰してやれ!」
ゼウス「残念だな、徹底的に潰されるのはお前達のほうだ。見た感じ、1000人以上いるようだが...全て我が殺してやる。何せ我は、神の眷属!人間界最強だからだ!」
ゼウス、殺陣。そのまま、下手の方へ移動。上手では、パーティー会場。
シトロン「大変だ!国境の方が騒がしい!もしかしたら、敵襲かもしれない!」
バッハ「敵襲だと?それは本当か!」
シトロン「国境付近はいつも静かです!だから、何か異変があると考えていいかもしれません!」
バッハ「クソッ!お前ら、行くぞ!敵襲だったら全力で迎え撃つ!」
オーロラ「バッハ先輩...満腹で動けません...」
バッハ「何言ってんだ、吐いてでも動くんだよ!サウスタンの騎士の根性を見せてみろ!」
そう言って、バッハはオーロラを立たせる。
ゼウス「がはっ!」
ロイロット「やっとか。面倒な抵抗をしやがって!だが、貴様もここで死ぬ!」
ゼウス「死んでたまるか...我は神の眷属!こんなところで、死んでたまるか!」
ゼウス、ロイロットへと飛びかかり斬り殺そうとするももう立ち上がれない。
ゼウス「クソ、我はまだ...」
ロイロット「とっとと死ね、厨二病」
ゼウス、背中から串刺しにされて死亡。そのまま、上手(パーティー会場)へ乱入。
シトロン「クソッ!もうこんなところまで来やがった!」
クレハ「ゼウスが、ゼウスがいない!なぁ、皆!ゼウスは知らないか?!」
ロイロット「ゼウス───それは、神の眷属とか言っているふざけた男か?」
クレハ「あぁ...そうだ!」
オーロラ「どうしてお前がそんなことを知っている!」
ロイロット「俺が殺したからだ」
オーロラ「───ッ!お前!」
オーロラ、ロイロットへ襲いかかるものの他のモブ兵士に止められる。
オーロラ「クソッ!邪魔だ、どけ!」
モブ兵士2「どくものか!」
モブ兵士3「どくものか!」
オーロラ「ゼウスが殺されて、怒らないわけがないだろ!」
シトロン「助太刀だ!」
オーロラ「シトロン!」
シトロン「ゼウスの友達はお前だけじゃねぇ!俺だって、クレハだってゼウスの友達だ!アイツは変なことばかり言うが、悪いやつじゃない!」
クレハ「そうだ!ゼウスは弱くない!お前らなんかに負けるものか!」
ロイロット「ぷ、ははは!認めろよ、現実を!ゼウスは死んだ。俺が殺した。貴様らがパーティーをエンジョイしている間に、俺に殺されたんだよ!」
バッハ「お前ら、一旦撤退だ!ここから下がるぞ!」
シトロン「クソ...逃げるぞ!」
シュバルツ「逃がすものか!」
そのまま、全員上手へはけ。
12場
下手から入る、カリファ。
カリファ「メー太...メー太、どこに行っちゃったの...」
カリファ、舞台の真ん中でしゃがみ込む。
カリファ「ごめんなさい、私のせいで...私がちゃんとしなかったせいで、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
カリファ、何かに気付く。そして、立ち上がる。
カリファ「メー太?ねぇ、メー太なの?!」
モブ兵士4「メー太?誰だそりゃ。そんな奴知らねぇな」
カリファ「アナタは...」
モブ兵士4「俺は誇り高きノースタンの上等兵!そこらの同期とは大違い!乗馬に銃撃・剣技に座学。何をしようとトップワン。敗北知らずのこの俺様に貴様は命を狙われた!」
カリファ「どうして私が!」
モブ兵士4「何も知らんのかアンポンタン!教えてやるぜワンからテン。貴様は隣の騎士と密会。かけられちゃうのは、スパイ容疑。貴様は祖国の裏切り者だ。不要な存在、消えちまえ!」
カリファ「そんな、私はスパイなんかしたつもりはないわ!」
モブ兵士4「貴様の言葉を信じるものか!貴様はここで死ぬ運命!命短し恋せよ乙女!命投げ出し死晒せここで!」
カリファ「お願い...お願い!誰か助けて!」
モブ兵士4「助けは来ねぇよ、流せよ涙!お前の最期はここなんだ!弾丸食らって、あの世に行って。貴様の人生バッドエンド!」
カリファ「誰か...助けてッ!」
モブ兵士4「だから助けは来ねぇと言っている。お前はここで死ぬんだよ。さよなら今生。また来て───いや、また来るといいな、売女」
モブ兵士4が、カリファに発砲しようとする刹那、モブ兵士4が倒れる。
カリファ「───え?」
メー太「お嬢様!!!大丈夫でしたか?」
カリファ「───え、メー太?どうして...ここに?」
メー太「決まってるじゃないですか。私は、名前を呼ばれれば西から東へどこまででも駆けつけます。それに、お嬢様の危機なんですよ。助けに行かないわけないじゃないですか」
カリファ「でも昨日、私のところには行けないって...」
メー太「お嬢様。私は家畜ですが、それよりも前に一人の男です。私にだって、守りたい女性が一人いたっておかしくないでしょう?」
カリファ「メー太!!!」
カリファ、メー太に抱きつこうとする。だが、メー太はそれを避ける。
カリファ「え...メー太?」
メー太「残念ですが、お嬢様が抱きつくべき相手は私じゃありません。会いに行きましょう。お嬢様が好きで、お嬢様なことが好きな彼のところ───そう、クレハさんのところに」
カリファ、うなずく。2人共、下手へはける。
13場
場には、戦いつつ逃げるクレハ達。皆、戦闘中。
シトロン「あークソ!数が多すぎる!」
オーロラ「おい、クレハ!どうにかしてコイツラを倒すことはできないのかよ!」
クレハ「そんなの俺に聞かれたって困るよ!って、うお!」
シトロン「危ない!」
シトロン、クレハを助ける。
シトロン「危ないな、しっかりしろ!」
クレハ「あ、ありがとう」
バッハ「クソ!さっきまでいたコイツラの上司───ロイロットはどこ行った!」
クレハ「え、バッハ先輩知ってるんですか?」
バッハ「あぁ、俺だってロクに4年間もここにいたわけじゃねぇ!敵の重要人物の名前くらい覚えてるよ!」
シトロン「ソイツを殺せば、一先ずは収まりそうなんですか?」
バッハ「確実に収まるとは言えないけど、相手は混乱するだろうよ!」
クレハ「じゃあ、俺達に行かせてください!」
バッハ「できるのか?」
シトロン「できるかどうかじゃない!やるんですよ!」
バッハ「そうか、じゃあお前ら2人に任せるぞ!」
クレハ・シトロン「はい!」
モブ兵士2「そんなこと、させるかよ!」
上手側へはけようとする2人に攻撃しようとするモブ兵士2。
オーロラ「させねぇよ!」
オーロラ、モブ兵士2を斬る。
オーロラ「2人共!!そっちは任せた!バッハ先輩は俺に任せろ!」
クレハ「任された!」
クレハ、シトロンの2人は上手にはける。
バッハ「オーロラは行かなくてよかったのか?ゼウスの仇なんじゃ...」
オーロラ「俺はそんなに情熱がある男じゃありません。ただ、皆の近くにいればそれだけでよかった。例えるのであれば俺は、金魚のフン。だけど、ゼウスが死んだって聞いて俺もこのままじゃいられないと思ったんです。俺は金魚のフンじゃ嫌。俺は金魚に───いや、鯉になりたい!そのまま龍になってしまいたい!その為なら、滝登りだろうとなんだろうとしますよ。それに、2人がいればロイロットだかボイコットだかは知りませんが、そんな奴は倒せます。馬鹿にしないでくださいよ、訓練をサボってたかもしれないけど彼ら努力をしてたんです!」
近くにいたモブ兵士3を斬る。
バッハ「そう...だったのか」
モブ兵士2、ゆっくりと立ち上がりバッハの後ろで剣を振ろうとする。
オーロラ「───ッ!危ない!」
バッハ「あ」
オーロラ、バッハを庇い自分が斬られる。そのまま、倒れる。
バッハ「───おい、オーロラ?」
モブ兵士2「ふへへへ、やった...やってやった...ぞ」
バッハ、モブ兵士2を斬る。
バッハ「おい、嘘だろ?さっきまであんなこと言ってたじゃんか!そんなすぐに死ぬなよ!鯉になるんだろ!龍になるんだろ!滝登りだろうとなんだろうと耐え抜くんだろ!おい!約束はどうした!クレハやシトロンとした約束は!」
オーロラ「あはは...次に会ったら、2人には謝っててくださいよ...俺は約束を守れなかったって...」
バッハ「何言ってんだよ、馬鹿野郎死ぬんじゃねぇ!上司からの命令だ!聞けねぇなんて言わせねぇぞ!」
オーロラ「俺は問題児ですよ?先輩の命令なんて聞くわけないじゃないですか。俺はワガママなんですから...」
バッハ「おい、やめろ!目をつぶってんじゃねぇ!死ぬな!死ぬなよ!」
オーロラ「俺は、金魚のフンなんです。だから、ゼウスに付いていくんです」
バッハ「やめろ、死ぬなぁァァァ!」
オーロラ、沈黙。ゆっくりと、バッハは立ち上がる。
バッハ「これだから戦争は嫌いなんだ...別れってのは、心臓が張り裂けそうになるんだよ。そんなだったら、死ぬほうがマシだ。───って、オーロラに救ってもらった命を無駄にするわけには行かないから死にはしないがよ」
場に入ってくる、兵士5と兵士6。(兵士1や4が格好を変えるのもアリ)
モブ兵士5「おい、あれ!」
モブ兵士6「サウスタンのお偉いさんじゃねぇか!」
モブ兵士5「アイツを殺せば俺達も出世街道まっしぐら!」
モブ兵士6「よっしゃ、じゃあどっちが先に殺せるか競争───だ?」
そのまま、モブ兵6はその場に倒れる。
モブ兵士5「───は?おい、どうしたんだよ、急に倒れて」
バッハ「ごちゃごちゃうるせぇな。俺は今、悲しみに暮れているんだよ、失せろ」
ホリを赤にして、モブ兵士5はオーバーに倒れる。場に倒れた人達含めてはけ。(暗転代わり)
14場
下手から出てくるメー太とカリファ。
メー太「お嬢様!ここからはノースタン!現在、戦闘が起こってますので流れ弾には注意してくださいね!」
カリファ「わ、わかった!」
メー太「そうだ、お嬢様。この国境を超える前に一つだけ私と約束をしてくださいますか?」
カリファ「約束?」
メー太「お嬢様は兵士じゃありません。それに、戦争だからと言って無闇矢鱈と国境を超えていいわけではありません。だから、ここを超えたらもうノースタンには戻ってこれないと思ってください」
カリファ「もう...戻ってこれない?」
メー太「はい。もう戻ってこれないし、戻ったとしてもスパイ容疑で殺される。だから、私ともうノースタンには戻らない───って約束してくれますか?」
カリファ「でも、家にはまだパパとママが...」
メー太「引き返すことができるのは、ここで最後です。ここで戻って、スパイ容疑にかけられない訳では無いですけどね」
カリファ「───わかったわ。もうノースタンには戻らない。昨日の夜から帰ってなくてパパもママも心配してるだろうけど...会えないのは悲しいけれど...それでも私は、サウスタンに行くわ」
メー太「その意気です───って、昨日帰ってないんですか?」
カリファ「当たり前じゃない!メー太を探してずっと森林を探し回ってたのよ!」
メー太「お嬢様、そこまで私のことを心配してくれるなんて...なんだか照れますね」
カリファ「当たり前じゃない。メー太は私の大切な家畜───いや、家族だもの」
メー太「お嬢様!!」
上手からロイロットとシュバルツが登場。
ロイロット「おいおい、羊さんよぉ。ずいぶんと楽しそうじゃねぇか!」
メー太「───ッ!ロイロット様!どうしてここに?」
シュバルツ「どうしてここに、だと?貴様、ロイロット様になんて口を利いているんだ!」
ロイロット「まぁ、いい。羊。そこの女を───私達に逆らった女を渡せ」
カリファ「わ、私?」
メー太「お嬢様をどうするつもりですか!」
シュバルツ「随分と物わかりの悪いやつだなぁ!」
ロイロット「仕方ないだろう。相手は羊。頭が弱いのも仕方がない!」
ロイロット・シュバルツ、爆笑。
メー太「質問に答えてください!お嬢様をどうするつもりですか!」
シュバルツ「教えてやるよ。その女は弱いくせに、スパイなんていう小賢しい行動に手を染めた。弱い者は殺される───それはこの世の心理だろう?だから、俺達の手で殺すんだよ。俺達は強いからな」
メー太「野郎ッ!」
シュバルツ「悔しいのなら、俺と勝負しろ。剣でな」
メー太「ですが私は、剣など持ってません」
シュバルツ「じゃあ、俺のを1本貸してやる」
メー太「───」
シュバルツ「おいおい、信用しろや。じゃあ、どっちを使うか選ばせてやるよ」
シュバルツ、2本剣を抜く。
シュバルツ「俺の持つ剣だ。どっちがいい?」
メー太「では...左で」
シュバルツ「おらよ」
シュバルツ、剣を滑らせてメー太に渡す。
カリファ「え、メー太?戦うの?」
メー太「当たり前です!そうしないとお嬢様を守る方法があるというのであれば、私は火の中だろうと水の中だろうと行きますし、雨が降ろうと槍が降ろうと、お嬢様を守ります!」
シュバルツ「そんじゃ、勝負開始だ。行くぞッ!」
メー太とシュバルツ、殺陣。
カリファ「メー太、頑張って!」
シュバルツ「お前みたいな雑魚、一瞬で殺してやるよッ!」
メー太は、初めて剣を握るので辛うじて付いてきている感じ。
その後ろで、ロイロットはカリファに銃を向ける。
メー太「お嬢様!」
発砲音。
カリファ「キャッ!」
メー太は、カリファを庇うように動く。(この時に、奇しくもカリファに抱きつくような形に)
カリファ「メー...太?」
ロイロット「ッチ、女を殺そうと思ったのに失敗だ!何をしているシュバルツ!」
シュバルツ「え、俺ですか?!」
ロイロット「あぁ、そうだ!お前があの羊を惹きつけていないから悪いんだ!」
ロイロット、シュヴァルツを殴る。そのまま説教。
カリファ「メー太!メー太!」
メー太、仰向け。
メー太「お嬢様...お怪我はありませんか?」
カリファ「私の心配じゃなくて、自分の心配をして頂戴!」
メー太「お嬢様...ごめんなさい、私はクレハさんのところにお嬢様をお連れできませんでした...」
カリファ「嫌よ、死んじゃ嫌!い、今なら喧嘩してて逃げれそうだから逃げれば...」
メー太「お嬢様、もう私は動けそうにありません...足手まといになる前に、お嬢様だけでも逃げてください...」
カリファ「そんなの...そんなの無理に決まってるじゃない!」
カリファ、メー太の手を握る。
カリファ「私、メー太がいなくなって、メー太の大切さに気付いたの!だから、もういなくならないで!メー太は大切な家族なんだから!」
メー太「お嬢様...もう私は長くないんですよ。腹を撃たれているから後数分持っていいほうです...」
その時、上手からクレハとシトロンが登場。
クレハ「さっきの銃撃音、どこだ?」
シトロン「いた!ロイロットだ!」
クレハ「え...メー太?」
クレハ、メー太とカリファに近付く。
カリファ「ク、クレハ!お願い、メー太を助けて!」
クレハ「どういう状況なんだよ....どうして、どうして2人がここに!」
メー太「クレハさん、お嬢様をアナタのお嫁さんにしてあげてください。私のお嬢様を...頼みます」
クレハ「おい、しっかりしろ!おい!───」
メー太「───」
カリファ「───メー太?」
クレハ「カリファ、下がっていてくれ。まだここは安全じゃない」
カリファ「クレハ...ねぇ、メー太は...」
クレハ「───7時まで、起きないんじゃないか?」
カリファ「メー太はお散歩に行く7時に起きるけど...そういうことじゃなくて!メー太は死んじゃったの?!」
クレハ「死神を殺す方法───メー太は人間に恋をするって言ってたな。でも、その方法で死ぬのは死神だけじゃなかったみたいだ。その方法で、羊も死ぬんだ」
カリファ「───え」
クレハ「メー太の意志は引き継いだ。俺は死んでも、お前を守る」
カリファ、下手はけ。
15場
シュバルツ「何カッコつけてんだよ、お前!到着が遅れて仲間が死んでんじゃねぇか!」
クレハ「お前ッ!あの時の!」
ロイロット「感謝するよ、お前に。俺達が今ここにいられるのは、お前がパーティーのことをペラペラ話してくれたからだ。ありがとう。このまま死んでくれると嬉しいぞ」
シトロン「おい、クレハ!この2人、どうするんだ?並大抵の敵じゃない!隙を見せないぞ!」
クレハ「じゃあ、強行突破しかないだろ!」
ロイロット「おいおい、わざわざ死にに来るのか?それでも構わないが...愚かだとは思わないか?」
クレハ「なんだと?」
ロイロット「お前らは雑魚だ。私と比べればどうしようもないくらいに雑魚だ。弱き者は強き者に蹂躙され、ドンドン命を散らしていく。これはこの世の摂理だ。だから、貴様らが死んでいくことに何も思わないが、それでも私はできれば強い者と剣を交えたい。だから、頭を捻って強くなることはできないのか?」
シトロン「黙って聞いてりゃ偉そうに!俺達は弱くねぇよ!」
ロイロット「いや弱い。試しに、剣でも交えてみるか?その弱さを痛感してみるか?」
シトロン「野郎ッ!」
クレハ「待て、アイツの挑発になんか乗るな!」
シトロン「だけど、こんだけ言われて何も思わないのかよ!俺は確かに弱いかもしれないけど、それでもコイツが強いからって偉そうにしているのは看過できねぇ!」
シュバルツ「お前、ロイロット様にケチを付けるのか!」
シトロン「お前もなんとも思わないのかよ!雑魚は死んでもいいって───お前らは捨て駒だって言われてるようなもんなんだぞ!」
シュバルツ「あ?」
シトロン「お前らは弱いからいてもいなくても変わらない───コイツはそう言ってんだぞ!」
シュバルツ「は、違うに決まってるだろ!俺は誇り高きノースタンの───」
ロイロット「シュバルツ。お前も同じだ。お前も弱い」
シュバルツ「───は!」
ロイロット「コイツら2人を相手するのは、私一人で十分だ。こんなところで油を売っていないでとっとと最前線に行って戦ったらどうだ?」
シュバルツ「ですが...」
ロイロット「油を売ってヘイトを買うのが君の仕事か?違うだろう!君は兵士だ!最前線に立ち、敵国の兵士と戦うのが仕事だ!それ一つすらできない雑魚など、ノースタンには不要!」
シュバルツ「───ッチ、わかりました。では、ご武運を」
ロイロット「さて、邪魔はいなくなった。攻めるのならとっとと来い。シュヴァルツに貴様ら2人は無理だが、私であれば貴様ら2人など一瞬で死体に変えられる。そう、さっき死んだ羊みたいにな!」
シトロン「俺等のことを甘く見やがって...」
クレハ「───許さない。メー太のことを馬鹿にするなんて!」
いざ、勝負。
交互に攻撃していくも、全て受け流される。
クレハ「クソ、やっぱ強いな...」
ロイロット「弱いくせにチマチマとうざったらしく攻撃しやがって!とっととくたばれ!」
シトロン「それはこっちのセリフだ!お前の方こそ、死ね!」
シトロンの猛攻。若干押され気味になりながらも、シトロンは攻撃を続ける。
クレハ「シトロン、そろそろ交代(後退)だ!攻撃ばっかじゃ隙が出る!」
シトロン「じゃあ、どうしろっていうんだ!交互に攻撃しても猛攻でも駄目!コイツを倒す方法は!」
ロイロット「残念だな、お前らに私は殺せない。お前らは私に殺される運命!」
シトロン「そんなのは嫌だッ!」
直後、発砲音。倒れるシトロン。そして、剣を手放して死ぬ。
ロイロット「おいおい、まさか忘れてたとは言わせないぞ?君達は私の銃撃音を聞いてここに来たんだから」
クレハ「おい...シトロン!立て!」
ロイロット「残念だ。私が狙った獲物の中で、生きて帰ったやつはいない」
ロイロットは上手の方を向き、クレハは下手の方を向く。
クレハ「シトロンを...よくもシトロンを...」
ロイロット「だから言っているだろう。弱者が死ぬのはこの世の摂理。この世は強者の為にある。動いたら殺す。動かなくても、殺すがな」
クレハ「シトロンが死んじまった、メー太も、ゼウスも殺された...どうすれば、どうすれば...」
ロイロット「遺言を残させてやるよ。まぁ、届ける人がいればの話だけどな」
クレハ「遺言?」
カリファ、下手から登場。シトロンの剣を拾って震えながら狙う。
クレハ「遺言を残させてくれるのか。じゃあ...決まったよ」
ロイロット「なんだ?」
クレハ「俺達を散々馬鹿にしてくれたな。死ぬのはお前だ、馬鹿野郎」
直後、カリファがロイロットの背中を刺す。そして、クレハが動き出し、ロイロットの息の根を止める。
クレハ「やった...やっと殺せた...」
カリファ「クレハ...大丈夫だった?」
クレハ「ありがとう、カリファが助けに来てくれなかったら死んでたよ」
クレハとカリファ、ハグをする。
クレハ「今夜は、月だけが綺麗ですね」
カリファ「───え?」
クレハ「この前俺は、月が綺麗なのはアナタと見ていたからだと言った。でも違った。月が綺麗なのは、月では誰も死んでないからだ」
カリファ「じゃあ、私と永遠に月を見ていましょう。皆の分まで」
16場
ゼウス「ロイロットが死に、ノースタンの兵士の統率が取れなくなり、ドミノ倒しのようにノースタン兵は瓦解していく。それはまるで、一夜の夢のような儚さだった」
オーロラ「のべ1万3400人。これがこの戦争で死んだ人の数だ。サウスタンとノースタン。2カ国合計での死者だった」
シトロン「戦争中、一番の活躍を見せたのはサウスタンの支部長であったバッハ。彼は、敵兵の多くを虐殺し、攻め込まれた失敗を水に流した───つもりだった」
ロイロット「兎にも角にも戦争は終わり、平和な時間は元通り。殺し合いのない、平々凡々とした時間が、また過ぎて行くことになったのだ」
メー太「そんな中一人、騒動に紛れサウスタンに不法入国した女が一人。ソイツは男とランデブー。幸せになれよ、幸せになれよ!死んだ人の分までな!」
全員はける。場には、クレハとバッハ。
クレハ「あ、バッハさん...お疲れ様です。昨日の夜は...ごめんなさい。ノースタンの兵士が撤退した後はもう疲れて寝ちゃって...」
バッハ「───クレハか」
クレハ「シトロンは死んじゃいました。それで、その...オーロラは」
バッハ「死んだ。死んだよ。俺を庇うようにして死んだ」
クレハ「───そう、ですか」
バッハ、タバコを吸う。
クレハ「あれ、禁煙してたんじゃ...」
バッハ「そうだな。禁煙してたな」
クレハ「娘が産まれたからって...」
バッハ「死んだよ。嫁も娘も。一族郎党残さず全員殺された」
クレハ「そんな!どうして!」
バッハ「俺がお別れパーティーなんかしたからだ。責任は全部俺にかかっている。だから、俺も殺される」
クレハ「なんで!ノースタンの兵士は追い返したじゃないですか!」
バッハ「それでも、戦争を起こしちまったら誰かが責任を取らなきゃ行けないんだ!まだ、今回は軽い方だ。なにせ、死ぬのは俺とその家族だけでいいからな!」
クレハ「そんな...そんなぁ...」
バッハ「俺はもう本部に行く。殺されに行くんだ。次に会うときはクレハ。お前が地獄に来たときだ」
クレハ「───」
バッハ「俺が渡せる最後のプレゼントだ。味わって食えよ」
バッハ、クレハに3つ入りのプッチンプリンを渡す。そして、上手にはけ。
クレハ「プリンが3つも...バッハ先輩。もうシトロンもオーロラもゼウスも死んじゃったんですよ。プリンを3つも、食べられませんよ...」
上手にクレハははける。
そして、下手からカリファが上手からシュバルツが入ってくる。
カリファ「ど、どうしてアナタがここに!」
シュバルツ「おいおい、そんな怖い顔で睨むな。俺は別にお前を殴りに来た訳じゃねぇ!」
カリファ「じゃあ、どうして!」
シュバルツ「さぁな、きっと理由はお前と一緒だ」
カリファ「理由...理由なんてない...ただ静かなところに来たかっただけ」
シュバルツ「俺も理由なんかない。ただ、静かなところに来たかったんだ」
カリファ「アナタ、訓練は?」
シュバルツ「もうそんなのねぇよ、負けた俺は軍隊を除隊。今ではただの百姓だ。お前はいいよな、サウスタンに亡命できて」
カリファ「何もいいことなんかないわ。パパにもママにももう会えない」
シュバルツ「随分と可愛らしい悩みだぜ」
上手からクレハが入ってくる。
カリファ「あ、クレハ」
クレハ「カリファ!やっぱりここにいたのか。って、シュバルツ、お前!どうしてここに!」
シュバルツ「だぁもう、警戒すんなよ!もう俺は軍隊を除隊になったから、お前らに危害を加える理由も何もねぇ!」
クレハ「そうなのか?」
シュバルツ「そうだよ。クレハ、お前はどうしてここに来た?」
クレハ「ここに行けばまた、誰かと会えると思ったからだ」
カリファ「そう言えば、当たり前だけど私とメー太との出会いはここだったな」
シュバルツ「俺との出会いもここだった。全く、いわくつきだぜ。ここは」
クレハ「───そうだ。丁度3人いるし、一緒にプリンを食べないか?」
カリファ・シュバルツ「プリン?」
クレハ「本当は騎士友と戦うつもりだったんだがな。死んじゃったから」
シュバルツ「───そうかよ。じゃあ、食ってやる」
クレハ、2人にプリンを渡す。
クレハ「じゃあ...」
3人「いただきます」
緞帳、下がる。
結