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遠い波の記憶

作者: 朝宮行人


男は、錆びついた鉄塊を前に、煙草に火をつけた。無数のボタンとランプが付いた、得体の知れない機械。説明書には、「時空間転移装置」と記されていたが、どう見てもガラクタにしか見えない。男は、煙を深く吸い込み、ボタンを押した。


次の瞬間、轟音と共に光が男を包み込み、意識が遠のいた。男が目覚めると、そこは見たこともない風景が広がっていた。三つの太陽が不気味な影を落とし、地面は水晶のように光を反射している。男は、ポケットからウイスキーの小瓶を取り出し、喉を潤した。


「ここは一体……」


男が呟くと、背後から声が聞こえた。


「ようこそ、地球人」


振り返ると、そこには半透明の体を持つ、奇妙な生物が立っていた。光る触手と七つの目が、男をじっと見つめている。生物は、言葉ではなく、直接意識に語りかけてきた。


「あなたは、この星で初めての地球人です。歓迎します」


男は、戸惑いながらも、この生物との奇妙な交流を始めた。彼らの文化、科学、そして宇宙に対する考え方は、地球の常識をはるかに超えていた。彼らは、時間を操り、空間を歪め、意識だけで宇宙を旅する能力を持っていた。


男は、この星で多くの知識を吸収し、地球に帰る方法を探し求めた。しかし、ある日、生物は男に衝撃的な事実を告げた。


「あなたは、もう地球には帰れません。なぜなら、あなたの地球は、もう存在しないのです」


男は、絶望の淵に立たされた。しかし、生物は、男に小さな光る球体を与えた。


「しかし、あなたは、新しい地球を創ることができます。この宇宙の種を使って」


男は、その球体を手に取り、生物が用意した宇宙船に乗り込んだ。そして、かつて地球があった場所へと向かった。


宇宙空間に球体を放り投げると、それはまばゆい光を放ち、急速に膨張し始めた。そして、やがて、新しい地球が誕生した。緑豊かな大地、青い海、白い雲。それは、紛れもなく地球だった。


男は、新しい地球に降り立ち、深く息を吸い込んだ。そして、空を見上げ、呟いた。


「これが、俺の新しい故郷か」


男は、この星で新たな人生を歩み始めた。鳥たちの歌声で目覚め、畑を耕し、夕暮れには浜辺で海を眺める。それは、彼がずっと夢見ていた穏やかな日々だった。


しかし、時折、男の心に奇妙な感覚がよぎることがあった。それは、デジャヴュのような、あるいは、何か大切なことを忘れているような、言いようのない違和感。男は、その感覚を振り払うように、浜辺で拾った貝殻を手に取り、じっと見つめた。


ある夜、男は夢を見た。見慣れない機械の前に立つ自分。轟音と光。そして、暗闇。目が覚めると、男は冷や汗をかいていた。それは、ただの夢とは思えない、妙なリアリティがあった。


男は、浜辺に向かい、打ち寄せる波を見つめた。三つの月が静かに空を照らしている。男は、この美しい星で、確かに幸せを感じていた。しかし、心の奥底に、拭い切れない孤独感と、言いようのない不安が渦巻いていた。


男は、砂浜に腰を下ろし、貝殻を握りしめた。波の音を聞きながら、男は遠い記憶を辿ろうとした。しかし、それは、霞のようにぼんやりとしていて、捉えどころがない。まるで、誰かの作った物語の中に迷い込んだような、そんな気がした。

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