第8話 探し人『黄金の騎士』
早いもので、今年も終わりますね。
今年最後の投稿です。
「ちょっと良いですか?」
その声に振り返ると、3人の女性がいた。
一人目は長い金髪に青い瞳のすごい美人。
質の良さそうな装備に身を包み、その透明感のある美しさから『こんな綺麗な人がいるんだな』と思ってしまう。
二人目は、これまた金髪で、笑顔の柔らかい雰囲気の美人だ。
耳が尖っているからエルフか?
三人目が銀髪の、目つきのきりっとした美人。
美人しかいないのか?
3人とも高校生くらいの年齢に見えるが、スタイルが凄く良い。
「おい、見ろよ。パーティ『オリハルコン』だ。相手の男は誰だ? 駆け出しみたいだが。」
「俺も声をかけられてぇーな。」
ざわざわと、周りからそんな声が聞こえてくる。
パーティ『オリハルコン』? この女性たちのことか?
何か周りの人が一目置いている、というか憧れみたいな感じで様子を窺っている。
芸能人を見た、みたいな感じか?
「どうかしましたか? 」
声をかけられ、返事をしない僕にしびれを切らしたのか、金髪で青い瞳の女性が言う。
この人が、リーダー的な立場だろうか。
「いや、あまりに美人な人に声をかけられて、その相手が自分だと分からなかっただけだよ。」
「そうですか。それでお話しても?」
綺麗だと言われ慣れているんだろう。
僕の社交辞令にそう返す。
美人と思ったのは本当だよ? 3人ともちょっとお目にかかれないような美人でスタイルが良い。
「良いけど、ちょっと用事があってな。後にしてもらえないか?」
取り敢えず、冒険者の登録だけはしておきたい。
どんな話か知らないが、話が長くなるかもしれないし。
「分かりました。それではギルドを出てすぐの食事処『雅亭』でお待ちしています。」
そう言って彼女らはギルドを出ていく。
そういえば、お互いに名も名乗らなかったな。
まあ行けば分かるか。
あんまり良い予感はしないがな。
カウンターの列が進み、やっと僕の番になる。
カウンターの先に座っている女性が受付嬢だろう。
「いらっしゃいませ。当ギルドにようこそ。ご要件はなんですか?」
営業スマイルで話しかけてくる。
「冒険者登録をしたい。」
「分かりました。一応お尋ねしますが成人していますか?」
と聞いてくる。
成人?僕は23歳だが。
『マスター。この世界の成人は15歳です。マスターが若く見えるのでしょう。』
おいおい、イブ。いくら何でも僕は15歳以下には見えんだろう?
この世界の人は彫りが深く、ガタイも良いからな。
日本人は若く見られるらしいし。
「こう見えて僕は23歳だ。」
「失礼しました。では問題ありませんので、この用紙に必要事項を記載してください。代筆も可能です。」
と言って受付嬢が紙1枚を差し出してくる。
僕は文字は読めるが、書くことはできないかもと思い代筆を頼んだ。
氏名 カケル
使用武器 鉄棍
出身 グレンダ王国
と記載してもらった。
他にスキルや魔法についても聞かれたが、何も持っていないことにした。
出身がグレンダ王国になっているのは、この世界の地名に詳しく無いし、一番最初に来たのがこの国だったから適当に決めた。
「冒険者カードができるまでの間、冒険者の説明が必要ですか?」
受付嬢に聞かれたが、イブが教えてくれるし必要無いだろう。
薬草採取とか素材の売却など、常設依頼があるみたいだから、基本的なことをゆっくりやるつもりだ。
そこまでガツガツするつもりもないしな。
「お待たせしました。これがカケル様の冒険者カードです。失くされると罰金などのペナルティがありますので注意してください。」
受付嬢に手渡されたカードを見ると、『E』の文字が。
駆け出しとか新米ってことだな。
僕はカードを受け取り、巾着袋に入れる振りをして空間魔法『アイテムボックス』にカードを入れた。
受付嬢に礼を言ってカウンターを離れた。
さっきのパーティ『オリハルコン』が待ってるかもしれないから、食事処『雅亭』だったか?に向かうとしよう。
「悪い。待たせたか?」
「いいえ、それほどではありません。」
僕の言葉に金髪の女性が答える。
何かデートの待ち合わせみたいだな、と思いながらテーブルの席につく。
何か注文するかと聞かれたので、適当にお願いしておいた。
金髪で青い瞳の女性が、僕を見ながら、
「まず始めに自己紹介を。私はアイリスと申します。銀髪の彼女がリデル、エルフの彼女がティエルです。私達は3人でパーティを組んでいます。」
アイリスが代表して他の二人を紹介する。
「僕はカケルという。それで? 話というのは何だ?」
何のようで話しかけてきたのか気になり、率直に聞くことにした。
「あなたは『黄金の騎士』ですか?」
幾分声をひそめ、アイリスがそんなことを言う。
『黄金の騎士』って何だ?
『マスター。オリハルコンの全身鎧を着たマスターのことだと思われます。昨日、「最古のダンジョン」がクリアされ、ダンジョンと共に消えたマスターが話題になっているようです。正体不明のため、風貌から「黄金の騎士」と呼称されています。』
なるほどな。
でも何で、それが僕だとバレたんだ?
ここはとぼけるしかないな。
「『黄金の騎士』って何だ?」
「知らないの? 昨日はその話題で持ちきりだった。『黄金の騎士が最古のダンジョンをクリアして消えた。』って。」
リデルと紹介された銀髪の女性が、無愛想に言う。
「その話題は知らなかったが、それが何で僕だと思ったんだ?」
それが分からない。
見た目の共通点なんか無いはずだろ?
オリハルコンの全身鎧を着ている時、僕はしゃべってもいないし。
「魔力です。私は魔力が見えます。私達は『黄金の騎士』が現れた時、その場にいませんでしたが、他の魔力が見える者が言うには、強大な魔力だったと。」
「しかし、強者の割に鍛えたような研ぎ澄まされた印象が無く、変わった雰囲気だったそうです。」
今度はティエルがニコニコしながら言う。
何か同じようなことを武器防具屋『ドワーフの親方』のエイガスにも言われたな。
『マスター。イブはあの時、マスターに忠告しようとしました。魔力を隠さなければ正体がバレる恐れがあったからです。』
あの『マスターは強者の雰囲気があるのに、平凡な顔をしている』のくだりか!?
分からんだろう、普通?
ただの悪口だと思ったわ!
イブ、何とかならないか?
『この後、イブがマスターの魔力を隠蔽します。今、魔力を隠蔽すると不自然になりますから。ついでに説明しておきますと、強者は皆、魔力を抑えるものですよ。』
まあ今更かもしれないけど頼むわ。
しかし彼女達は、昨日いなかったようだからごまかし通すしかないな。
「僕は見ての通り、新米の冒険者だぞ?『黄金の鎧』など身につけていない。人違いだ。」
僕のその言葉に、アイリスがピクリと震えて笑顔になる。
何だ? 僕は何かまたミスったか?
アイリスは笑顔のまま、
「そうですか。それではあとひとつ。私達、というか私が『黄金の騎士』を探す理由だけ説明します。」
彼女らの話はまだまだ続きそうだ。
来年もよろしくお願いします。
皆さん良いお年をお迎え下さい。