第6話 認知された『黄金の騎士』
『速報です。本日午前○時○分、都内で撮影されたものです。こちらの映像は加工されたものではありません。視聴者から複数提供された映像です。』
テレビのニュースで、キャスターが興奮したように早口で説明している。
映像は事故後の人だかりを映し、慌ただしい様子となっている。
そこから、金色の全身鎧を身に着けた人物や光り輝く状況、突然姿を消すところまでが流された。
続いて、事故を目撃した者へのインタビューがなされている。
『親子が車に轢かれていました。車は停まること無く、○○方向に逃げて行ったんです。』
『親子は怪我をしていて、特に幼稚園くらいの男の子がぐったりしていました。』
『突然、金ピカの鎧を着た人が現れて、鎧の人や親子が光ったと思ったら、男の子が元気になっていました!何が起こったのか分からないんです。他の皆も分からないんじゃないですかね?』
『鎧の人?突然消えてしまいました。見失ったわけじゃありません。本当に目の前から消えたんです!他の人も見ていました!』
インタビューに答える人々は、皆が一様に興奮した様子で話す。
前代未聞の状況で、何も知らない人が聞いたら「こいつら何言ってんの? 頭大丈夫か?」と思われそうだ。
ひき逃げとは言え、交通事故でこんなに大々的に取り上げられているのは、話題性があるからだろう。
同じ映像が、繰り返し流される。
画面が切り替わってスタジオが映る。
『ご覧いただいた映像は本当のこと何でしょうか。にわかには信じられないと言いますか。』
『そうですね。しかし、複数の情報提供者がいて、目撃者も多数いるようです。』
『まるで騎士の様な鎧を着ていますね。金色の。さしづめ「黄金の騎士」という感じです。』
『しかし何故正体を隠しているんですかね。何か後ろめたいことでも有るんじゃないですか? 私なら正々堂々と正体を明かします。』
最後の奴、嫌みしか言えないのか?
皆がお前みたいなやつじゃないっつーの。
考えが浅いというか、何も考えてないんだろうな。
会社にもテレビがあり、また、会社から近いこともあって皆がテレビを見ている。
因みに今は昼なので休憩中だ。
ちゃんと仕事はしているんだぞ?本当は休みだけど。
「翔。やっぱりさっきの本当にあったことみたいだよ? テレビに出てるもん。」
そう言って、同期の一太が話しかけてくる。
こいつは、いつも僕に話しかけてくるな。
友達いないのか?
僕も人のことは言えないかもしれないが。
一太に続き、小柄なショートカットの髪型の女性が話しかけてきた。
「ねえねえ。何の話なの?」
この女性は、近藤彩美。
僕達より一歳年上の先輩だ。
一歳しか違わないけど、何かとお姉さんぶってくる。
多分、背が低くて幼く見えるのを気にしているから、お姉さんぶってくるのだと僕は思っている。
そう考えると、その幼い風貌もあいまって微笑ましいのだが。
僕達には親しく接してくれるので、親近感を持って僕は「彩ちゃん先輩」と呼んでいる。
因みに彩ちゃん先輩が酒を買おとすると、必ず年齢を聞かれるため、自動車運転免許証をすぐ出せるようにしていることを僕は知っている。
「むっ!翔くん? その姪っ子を見るような眼差しは何かな? お姉さんに対する敬いが足りないよ?」
「そんなこと無いって、これ以上無いくらい尊敬していますよ? 彩ちゃん先輩。」
これくらいの、馴れ馴れしい態度ができるくらいには仲が良いと僕は思っている。
「全然尊敬されてないよね? 何度注意しても改めないんだから。」
そう言ってため息をつく彩ちゃん先輩。
子供が「食欲がありません。」とため息をついているようにしか見えない。
「そんなことより、二人は何の話をしてたの? あのニュースのこと?」
「そうなんですよ、近藤先輩。これ全部本当のことなのかなって話していたところです。」
テレビを指さしながら、一太が彩ちゃん先輩に説明している。
パッと見たら特撮かな? って内容だもんな。
そう簡単には信じられない。
彩ちゃん先輩は顎に手を当てて、その風貌には似つかわしくない仕草をしながら、
「普通なら有り得ないけど、怪我した人が本当に治ったのなら良かったと思うわよ? 何が正しいのか分からないけど、これからもっと情報が集まってくるんじゃないかしら。」
大人だ。彩ちゃん先輩なのに。
僕はふと気になり、
「二人は、この鎧の奴みたいな不思議な力があったらどうする?」
と聞いてみた。
一太と彩ちゃん先輩は顔を見合わせ、少し考えた後、それぞれが答えてくれる。
「この鎧の人に何ができるのか知らないけど、僕も人助けかな? 人の治療ができるなら、新しい商売もできそうだよね。」
「私も、詳細が分からないと何とも言えないんだけど、救える人は救いたいかな。でも鎧を着ているのは正体を隠したいからかしら?そうすると、目立ちたくないとか力に制限があるとか?」
そうだな。
僕は日常に支障が出そうだから正体をバラしたくないし、魔力の都合上、際限無く人助けはできない。
結局、僕にできるだけのことをするという決意のままで良さそうだ。
しかし、一太も商売には興味があるのか。
商売と言えば、僕が持っている大量の金貨とかどうするかな。
異世界なら使えるみたいだけど。
明日は日曜日だし、仕事を休んでグレンダ王国?に行ってみるか。
そう思い、僕は明日休むためにも仕事をできるだけ片付けることにした。
自宅に帰り、一息つく。
明日異世界に行くとして、何か準備する必要があるか。
行けるのも、グレンダ王国の『最古のダンジョン』があった付近しか知らないから、あそこになるよな。
「イブ。明日、異世界に行こうかと思うんだが何か用意した方が良いか?」
『そうですね。マスターが何をしたいのかにもよりますが、取り敢えず身分証明書を得るためにも、冒険者になっておいてはいかがですか?』
冒険者か。
やっぱりあるんだ、そんな職業。
因みに、冒険者の詳細を聞いても良いか?
『はい。あの世界には冒険者ギルドがあり、持ち込まれた依頼を達成することで、それに応じた対価を得ることができます。また、冒険者にはランクがありS、A、B、C、D、Eの6段階に分けられ、基本的にはそのランクの依頼しか受けることができません。例外では指名依頼があります。』
なるほど。
因みにイブの言うランクは、
S 人外
A 一流
B ベテラン
C 中堅
D 若手
E 初心者
として扱われるようだ。
『冒険者になるには、最初に手数料として銀貨1枚が必要です。これには冒険者カードの代金が含まれます。その他に必要な者は装備品でしょうか。マスターが「黄金の騎士」を隠したいならオリハルコンの全身鎧は使えませんし、攻撃手段も同様に、空間魔法では正体がばれる恐れがあります。』
そうだよなぁ。
それに、装備が無いと初心者だとか言って絡まれたり、なめられそうだしな。
じゃあ明日は、異世界に行ってから装備品を購入し、冒険者ギルドに行ってみようか。