第3話 外に出てみたら…
魔法陣の上に立つとすぐに魔法陣が輝き出す。
あっ!鎧を装着したままだった!と思っているうちに魔法陣の輝きは増していく。
あまりの眩しさに目を閉じ、しばらくして目を開けると…
見上げるほどに巨大な塔を背に、僕は立っていた。
魔法陣は消えて無くなっていたので、どうやら一方通行らしい。
この塔を中心に、中世のヨーロッパの様な町並みが並んでいる。
周囲には金髪の外人さんの様な人や、物語に出てくるような一見して獣人、ドワーフの様な人。
あっ、エルフっぽい人もいる。
いろいろな種族がいるみたいだけど、周りの人はいわゆる冒険者?の様な装備に身を包んでいるし、エルフはやっぱり美人だな。
しかしこの状況、僕は魔法陣で光り輝いて出てきたよな。
そこに金ピカの全身鎧を着た僕。
そういえば、「制覇者以外はダンジョンから排出される」とか言ってたような。
ここにいる人達、もしかして「排出された」人たち?
すごい目立ってる。
皆こっち見てるし。
ど、どうする!?逃げるか?
「お、おい。あんた!あんたが最古のダンジョンを制覇したのか!?」
「何よあの人!?あんな鎧見たことないわ!何でできてるのよ!?」
「何で鑑定できないんだ!?何も見えねぇ!」
最初に僕に話しかけてきたのは、がたいの良いおっさんだった。
っていうか、最後の奴。勝手に鑑定すんなよな!
隠蔽の指輪が無かったら、鑑定されてたのか?
いろいろ聞かれたら面倒だな。説明しても信じてもらえないだろうし。
結果として、顔も隠せるこの全身鎧を着ていたのは正解だったか。
騒ぎにはなったが、身バレは避けられそうだ。
『マスター。当初の予定通り、「最古のダンジョン」を収納してはどうですか?転移によって、その場を離れることをおすすめします。』
そうするか。
これだけ注目されてたら、身動きできないしな。
でも、僕が最古のダンジョンを収納して、この街の人は大丈夫か?
『ここはグレンダ王国の王都です。基本的にダンジョンは資源を産出するので、その周囲に街ができ、栄えるのです。ただこの王都には「最古のダンジョン」を除き、あと2箇所のダンジョンがありますので大勢に左程影響は無いかと。』
それなら大丈夫か?
ならさっさと行くか。
これ以上ここにいても、捕まることは無いにしてもろくなことにならない気がする。
僕はアイテムボックスを開き、「最古のダンジョン」に向けて手をかざし、収納した。
「なっ!?ダンジョンが消滅した!?どうなってる!?」
ざわざわとした喧騒の中、続いて僕は転移を試みる。
っと言っても、見える範囲に転移しても意味がないし、思い浮かぶのは地球しかない。
とりあえず僕の部屋で良いか。
下手なところに転移して、この格好の怪しい人物が目の前に現れたら、それだけで大騒ぎだしな。
僕は、今朝出たばかりの自室を思い浮かべ、転移した。
「陛下!一大事です!」
この王国の重鎮、宰相が慌てて駆け込んできた。
いつも冷静沈着な彼からしたら珍しいことだ。
「どうした、宰相。いつものそなたらしくない。隣国でも攻めてきたか?」
「そのようなこと、あるわけ無いでしょう!変わらず良好な関係を築いております!そうではなく、我が国の最古のダンジョンが制覇され、しかもダンジョンが消失したのです!」
「何だと!一大事ではないか!」
「だから、そのように申し上げているのです!」
双方が驚くのも無理もない。
「最古のダンジョン」は、いつから存在しているのかわからず、その名のとおり最も最古からあるダンジョンで、制覇されたことの無いダンジョンで有名であった。
そのダンジョンが制覇された、というのが信じられないのだ。
「それは真なのか?宰相?」
「間違い有りません。目撃者も多数おりますし、実際にダンジョンが消失しているのを確認しております。」
「ぬう。では間違いないか。して、何者がダンジョンを制覇したのだ?」
「それが分からないのです。目撃者によると、黄金の全身鎧に身を包んだ者としか。正体不明のため、その者を仮に黄金の騎士と呼称しますが、黄金の騎士がダンジョンに手をかざした後、ダンジョンが消失したとのことです。黄金の騎士も突然姿を消したようです。」
分からない事だらけだ。
黄金の騎士の正体が不明なら、ダンジョンや黄金の騎士がが消えたのも不明。
「そうか。何も手がかりは無いのか?」
「一応、黄金の騎士やその者に繋がる情報提供者には報酬を与える触れを出していますが、今の所進展はありません。情報は乏しいですが、黄金の騎士が身につけていた鎧はオリハルコン、姿を消したのは空間魔法ではないかと思います。」
空間魔法か。
言い伝えに聞くロスト・マジックであるため、詳細は分からないがその可能性が高そうであるな。
しかし、オリハルコンの全身鎧や空間魔法など聞いたことがないな。
空間魔法は言わずもがな、オリハルコンも超希少金属だ。
その超希少金属のオリハルコンの全身鎧など、国宝にも無い。
いったい何者であるのか。
「宰相。引き続き、情報収集を頼む。良い者であれば良いが、悪意ある者であった場合、最古のダンジョンの制覇報酬を悪用されるかもしれぬ。最古のダンジョンの制覇報酬など、どれほどの物か分からん。」
「はい。分かりました。些細なことでも、黄金の騎士について判明すれば報告します。」
こうして主人公、天童翔の預かり知らぬところで正体不明な『黄金の騎士』の噂が広まっていった。