第2話 見知らぬ空間
遅くなりました。
中央の球体を除き、他には何も見当たらない。
何故こんな場所にいるのか分からないが、服装は変わらずスーツのままだ。
名前 天童翔
年齢23歳。都内の会社勤めの彼女無し。
会社に休日出勤しようと玄関ドアを開けたら見知らぬ空間にいた。←今ここ。
記憶に欠落は…無いと思う。
現状はいまいち理解できないけども。
一応、球体が鎮座している台座の周囲を見ても、これといった細工は無さそう。
普段なら、こんな怪しい球体には触らないんだが…他に調べる物も無いしな。
指先で球体に触れてみると、
『ダンジョンがクリアされました。ダンジョン制覇者を除き、ダンジョン内の全ての者がダンジョン外へ排出されます。』
頭の中に響いた音声に、一瞬びくっと震えるも僕に変化は無さそうだ。
しばらく待つと、何も無かったはずの目の前に黄金の全身鎧と、ザ・宝箱としか見えない箱、よくアニメや漫画にあるような魔法陣が現れた。
『ダンジョン制覇者には報酬が与えられます。』
制覇というのが、さっき僕が球体に触れたことなんだろうか?
どの道、目の前の報酬?は僕が貰っても良いか?
宝箱を開けてみると、中には金貨や銀貨、巻物が3巻に指輪1個が入っていた。
巻物の一つを開いてみると読んでもいないのに、
『ユニークスキル「全知」を修得しました。』
何か、さっきから頭の中に音声が流れてばかりだけど、さすがに驚かなくなってきた。
常識では有りえないことばかりだし、もうここは異世界なんだろうと想像できる。
「全知って何だ?」
と、声に出すと、
『全知とは真実を見極め、マスターに助言させていただく世界で唯一のスキルです。ユニークスキルとは唯一無二のスキルです。』
今までの頭の中に聞こえてきた音声と、同じ様な声が聞こえた。
「今まで聞こえてきた声の人?」
『今までの音声は「世界の声」。他の者に聞こえるものや特定の者に聞こえるものがあります。私はマスターのためだけのスキルです。』
何かすごいスキルだというのは分かる。
若い女の人の声に聞こえるけど、全知と呼ぶのは味気ないというか、申し訳ない気がするな。
『全知というのはスキル名です。良ければ、私の呼称はマスターの好きになさってください』
…今、僕は声に出してなかったんだけど。
『はい。マスターとは、声に出さなくても意思疎通が可能です。それより私の名付けをお願いします。』
思ったよりこの唯一無二の人、グイグイ来るな。
まあ親近感が湧くから、僕としてはこの方が良いんだけど。
じゃあ、女性っぽいし、この世界に来て初めて会った人?ということで…
「イブってのはどう?」
『ヘブライ語で「女」の意味ですね。旧約聖書‐創世記のヘブライ神話における人類最初の女性ということですか。
安直かもしれませんが、呼びやすいでしょうし気に入りました。これから私は「イブ」です。よろしくお願いします。』
気に入ってもらえた?
というかヘブライ神話とか、その他諸々の情報は僕みたいな若造には正しいのかも分からんよ。
問いかければ教えてくれるなら、
「僕は元の世界に帰ることができる?」
これだけは聞きたい。
会社に未練はないけど、家族や友人、生活があるしな。
『通常であれば帰ることはできません。しかし残りの報酬の巻物のうち、一つに「空間魔法」があります。これは今や失われたいわゆるロスト・マジックです。空間魔法を使えばマスターが行ったことのある場所には行ける、つまり地球に帰ることができます。』
マジで!?帰ることができんの?
一時はどうなるかと思ったけど、帰ることができるなら良かった。
これからどうなるか分からないけど、とりあえず残りの報酬を貰っておくか。
報酬の残りは黄金の全身鎧と巻物2巻、指輪、金貨と銀貨か。
巻物のうち一つは空間魔法だとイブが教えてくれたけど、他がどういった物か、よく分からないんだよな。
『マスター。巻物は空間魔法と回復魔法(極)、隠蔽の指輪、オリハルコンの全身鎧、この世界で流通する硬貨です。』
すごいな。
すごいものばかりだけど、使いこなせる気がしないな。
『マスターには「異世界人」の称号があります。この世界の者より多くの魔力、体力があります。魔法の使い方などは私がアドバイス及びサポートさせていただきます。』
「優秀な相棒がいて助かるよ。早速空間魔法の詳細から教えてくれる?」
『では、空間魔法には空間の「固定」「転移」「切断」「アイテムボックス」があります。人や物を空間に固定、別の場所に転移、物を切ったり攻撃に使われる「切断」、容量無限及び時間停止しているアイテムボックスとなります。』
異世界転移ものによくある設定だな。分かりやすい。
じゃあ次に回復魔法(極)の説明をお願い。
『分かりました。回復魔法(極)は、怪我や部位欠損、病気など全ての状態異常を完治させることができます。もっとも、効果の高い魔法ほど魔力を多く使用します。空間魔法もそうですが、実際に使って慣れていかれるのがよろしいかと思います。』
なるほど。
イブのサポートがあれば大丈夫か?
後で試してみよう。
『残りの隠蔽の指輪は、鑑定などのスキルから装備者のステータスを隠蔽します。オリハルコンの全身鎧は、「物理耐性」「魔法耐性」「自動修復」「自動調節」が付与されています。言葉のとおりの機能がありますが、自動調節は装備者のサイズに調節され、快適な体温調節の機能があります。もっとも、限度があり極端に熱いですとか冷たいなどはある程度に制限されます。』
指輪はともかく、最高の鎧かもしれないな。
見た目、金ピカの「ガン○ム」というか、近代的な仮○ライダーって感じ。あとめちゃくちゃ派手。
『この世界は創造神を模した硬貨が流通しており、金貨や銀貨、銅貨があります。銅貨1枚でマスターの世界の100円くらいでしょうか。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨となります。』
了解。っことは金貨1枚で日本円に換算すると100万円くらいになるのか。
いっぱいあるんだけど…。
じゃあ魔法から修復していこうかな?
『空間魔法を修得しました。』
『回復魔法(極)を修得しました。』
よしよし。問題なく修得できたみたいだ。
でも指輪は指に通すだけだけど、大量の硬貨や鎧はどうするかな。
持っていくのは大変、というか無理だな。
重たいし持てない。
『マスター。空間魔法のアイテムボックスに全て入れてください。鎧はアイテムボックスから直接換装することもできます。』
イブに言われたとおり、鎧と硬貨全てをアイテムボックスに入れることができた。
アイテムボックスと念じて、鎧や硬貨を選択したら収納できた。便利便利。
次にオリハルコンの全身鎧を装着と念じると全身を鎧に包まれていた。
思ったより軽いし、全く動きを阻害しない。
自動調節のためか快適だな。
「イブ。これでここでの要は終わりかな?」
『マスター。あと一つ、マスターが今いる「最古のダンジョン」はマスターが制覇者となりました。ですのでこのダンジョンはマスターの物です。今後このダンジョンをどうするのか決めなければなりません。』
えぇ、どうするって言われてもな。
難しいことは分からないし、どうしたら良いと思う?
『今すぐ大幅な改変を望まないのであれば、外に出た後にマスターのアイテムボックスに入れてはどうでしょう?幸い最古のダンジョンは塔型ですので収納できます。』
そんな事もできるの!?
いろいろあり過ぎて、驚くことはそう無いと思ってたけどびっくりだよ。
「じゃあそうしよう。一回この世界を見てみたいし、魔法陣に乗れば良い?」
『はい。魔法陣に乗れば、自動的に外に出ることができます。この世界も楽しんでください。マスター。』
何か最後にイブの感情を感じたけど、とにかく外に出てみるか!
そう思い魔法陣に向けて、僕は一歩を踏み出した。
やっと外に出れそうです。どんな世界が広がっているのでしょうか。