第10話 地球での日常と非日常
異世界から転移で戻ってきた。
バタバタしたけど、こっちでゆっくりするか。
いろいろあって、結局異世界であまり金貨などを使わなかったな。
金貨の使い道があるかもと思っていたんだが。
仕方ない、今日は日曜日だし買い物にでも行くか。
隣町まで来ると、人混みで賑わっている。
いつもと変わらない日常に見える。
ぶらぶらと周り、買い物を終えるとそろそろ良い時間になった。
駅に向かって歩いていると、消防車の慌ただしいサイレンや火災を知らせる「カンカンカン」の警報が聞こえてきた。
どこかで火事か?
比較的近かったので向かってみると、どうやら十数階建てのマンションで火災のようだ。
現場には消防車やパトカーが駆けつけ、そのさらに周囲にざわざわと野次馬が集まっている。
どうやら逃げ遅れた人がいるようで、野次馬の何人かがマンションのベランダを指差している。
マンションの窓という窓から、煙が出ているのが見える。
「イブ。この火事で逃げ遅れた人は、どこにいる?」
『逃げ遅れた者は2名です。向かって右端の7階のベランダに女児、左から2戸目の5階のベランダに高齢女性がいます。』
それなら転移で順次、助けることができるな。
女児が一人でいるのは留守番のためか?
火の回りが早いみたいだし、急がないと。
建物の陰で、オリハルコンの全身鎧に換装し、まずは5階の高齢女性のところに転移した。
高齢女性は、煙や熱さから逃げるためかベランダにおり、口元にハンカチか何かをあてていた。
突然現れた僕に驚きながらも、高齢女性は僕に向かって、
「助けて!」
と助けを求める。
その高齢女性の肩に触れ、すぐにマンションの直下、野次馬が集まる場所に転移をする。
すると、野次馬から歓声が上がる。
すぐに残りの、7階にいる女児を救うべくマンションを見上げる。
すると、女児がベランダから身を投げるところだった。
煙や熱さに耐えかねたのか!?
熱かっただろう。
煙が多く、恐かったのかもしれない。
女児は幼いながらも、自分が助かるために考えた末、勇気を出して身を投げたのかもしれない。
しかし、下は硬い歩道だし、落ちたら大怪我じゃすまないかもしれないぞ!
女児が飛び降りたことで、周りから悲鳴があがる。
女児が身を投げた瞬間、僕はとっさに空間魔法で女児を固定する。
「う、浮いてるわ!」
野次馬のあちこちから、同様の声が聞こえてくる。
固定した女児の位置まで僕は転移し、僕自身を空間魔法で固定して女児を抱える。
女児は目に涙を溜めながらも鳴き声は上げていなかった。
すぐに女児と一緒に高齢女性と同じ場所へ転移し、女児を降ろすのを見て、周囲からさっき以上の歓声が上がる。
「すげえ!すげえよ、あんた!」
「良かった! 子供は無事!?」
歓声で辺りは大騒ぎになる。
イブ! もう逃げ遅れた人はいないな?
『はい。このマンションにはもう、逃げ遅れた人はいません。』
良かった。
一応、高齢女性と女児に回復魔法をかけておこう。
煙を吸って、一酸化炭素中毒になっていたらいけないからな。
二人の状態異常を、全て回復させるつもりで回復魔法(極)を使った。
よし、すぐにこの場を離れよう。
野次馬や警察、救急隊が集まりそうだったからだ。
そう判断し、今回も自宅に転移した。
『ご覧ください! また「黄金の騎士」が現れました!火災現場に取り残された2名を、あの突然消える不思議な力で救助したようです!』
『救助された2名は「黄金の騎士」の不思議な光に包まれましたが、怪我は一切ありませんでした!』
『それだけではありません! 救助されたうちの一人、高齢女性には末期の癌があったそうですが、なんと完治していたそうです!』
『これも「黄金の騎士」の不思議な力なのでしょうか!まるで「魔法」です!』
私の名前は、西園寺麗華「さいおんじれいか」。
日本有数の財閥、西園寺家当主、西園寺龍臣「さいおんじたつおみ」の一人娘です。
大学に通う22歳で、もうすぐ父の仕事を任される予定です。
任されるとは言え、その仕事はごく一部ですし、正直私には自分が本当にやりたいことがありません。
このままで良いのか、と思うことはあります。
これから、成り行きで父の仕事を継いでいくのかもしれません。
「お嬢様。そろそろ会合の予定です。外出の準備はお済みでしょうか?」
昨日に続き、『黄金の騎士』のニュースを見ていた私に、父の部下が私を促してきます。
気は進みませんが、この会合も仕事のうちです。
しかし、先日から噂やニュースで聞くようになった『黄金の騎士』は本当の話なのでしょうか?
正直、『魔法』とか信じられません。
突然姿が消えたり、重症の人や末期の癌の人を一瞬で完治させるなど不思議なことばかりです。
そう思いながらも、この時はどこか他人事のように思いながら身支度を整えました。
身支度を整え、私が部屋を出ると……
私は… 何故か一人で中世ヨーロッパの様な街中に佇んでいたのです。




