第9話 異世界での1日
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
「それではあと一つ。私達、というか私が『黄金の騎士』を探す理由だけ説明します。」
アイリスが何を言うのかと僕は身構える。
「私はこの国の王女です。私には妹が一人いますが、病にふせっています。他に姉妹はいませんし、大事な妹なのです。それとリデルは私の護衛兼友人の伯爵家令嬢、リデルも私の護衛兼友人で、2人とも良くしてくれています。」
続いてアイリスの話を要約すると、魔力や魔法、スキルは子孫に遺伝することがあるそうで、貴族、特に王族は優秀な者との婚姻が求められる傾向にあるようだ。
正直、いつの時代だよと思うが、この世界ではそれが普通なんだろう。
それでアイリスは、王命もあり『黄金の騎士』を探していた、というわけだ。
「まず魔力が強い、特に回復魔法に秀でた方を探しています。その理由は妹の妹の治療をお願いするためです。私も18歳の大人ですので分別はあります。強いだけで婚姻をしようとは思っていませんが、妹を助けてくれる人なら良いと思っています。その辺りは王も理解してくれています。」
一国の王女なら後継者には責任が伴うのだろう。
でも僕には関係ないな。
相手の都合で結婚を決められてもな。
僕はこの世界の住人ではないしな。
話がこれだけなら、もういいだろう。
「残念ながら『黄金の騎士』のことは知らないから。話が以上ならこれで失礼するよ。力になれなくてすまないな。」
「私は諦めませんよ?『黄金の騎士』様?」
僕が立ち去り際にアイリスがそう言う。
テーブルに銀貨1枚だけ置いて席を離れる。
高そうな店だけど、そんなに食べてないし、自分の分は足りるよな?
足りなかったら格好悪いけど。
彼が立ち去る姿を見届けて、リデルがアイリスに尋ねる。
「良かったの?アイリス。」
「私も同感です。彼が『黄金の騎士』だと確信したのでは?」
リデルに続きティエルがアイリスに尋ねる。
「そうですね。彼、カケルが『黄金の騎士』で間違いないでしょう。彼は黄金の騎士のことを知らないと言っていましたが、何も情報を与えていないにも関わらず、『黄金の鎧は持っていない』と仰っていました。私達は、鎧が黄金、とは言っていません。これは少し不自然です。」
それに魔力のこともあります。
冒険者の新人とは思えないほどです。
「彼の素性や人となりも分かりませんし、今はこれくらいで良いでしょう。」
アイリス達と分かれてから、どうするか考える。
取り敢えず当初の予定であった冒険者登録はできた。
そういえば、アイリスには病気の妹がいると言っていたな。
僕の回復魔法(極)なら、その治療も可能だろう。
ただ問題なのは、今すぐ治療に向かえばアイリスの話を聞いた後ということもあり、更に疑いを深められることか。
まあでも、救いたい人を救う。
やりたいことをやるだけだ。
「イブ。アイリスの妹が、どこにいるか分かるか?」
『はい。アイリスの妹は『ルミエール・グレンダ』と言います。王宮の一室で療養中のようです。王宮まで行けば、目視で転移すれば良いかと。』
そうか。
それなら王宮まで行ってみるか。
王宮にはすぐに着いた。
王都で一番大きく、立派な建物だから分かりやすい。
さて、アイリスの妹、ルミエールはどこにいるのかな?
『マスター。王宮の端にある、棟の最上階にいるようです。今はちょうど、ルミエール一人のようです。』
よし、転移や回復魔法(極)を使うなら『黄金の騎士』で行くか。
人気のない場所で、アイテムボックスでオリハルコンの全身鎧に換装し、ルミエールの部屋に転移した。
ルミエールの部屋は、まさに女の子の部屋という感じで華やかな様子だ。
そういえば、女性の部屋に無断で入るのは問題だな。
さっさとルミエールを治療して出よう。
部屋の中央に位置するベッドには、15歳くらいの女の子が横になっている。
ルミエールは、アイリスを少し幼くしたような容姿だが、やはり美人だ。
ルミエールは寝ているのか、室内は静まり返っている。
イブ。ルミエールはどこが悪いのか分かるか?
『はい。生まれつき心臓が悪いようですね。生来からのものなので、普通の回復魔法では治癒できないのでしょう。マスターの回復魔法(極)なら完治可能です。』
僕がルミエールに手を向けたところ、ルミエールが目を覚ましたようだ。
「どなたですか? 」
ルミエールは上体を起こし、こちらを不思議そうに見ている。
不意の問いかけに驚くが、開きなおることにする。
「私は、あなたの姉上にあなたの治療を頼まれた者ですよ。」
幾分、いつもの僕より丁寧な言葉遣いにする。
「そうなんですか。わざわざありがとうございます。私、元気になりますか?」
良い子だなぁ。
疑うことを知らないのか、悪い者に騙されそうだぞ。
「すぐ終わりますので。」
そう言って右手をルミエールに向け、回復魔法(極)を使用する。
全ての異常を排除し、体力が回復するよう念じる。
「わあ、暖かいです。それに、胸も苦しくなくなりました。」
どうやら上手くいったようだ。
ルミエールの顔色も良くなっている。
僕が安心していると、急に部屋のドアが開けられた。
「ルミエール! 大丈夫ですか!?」
「いた。『黄金の騎士』。」
パーティ『オリハルコン』の3人が部屋に飛び込んでくる。
僕が後ずさると、
「逃しません! 正攻法で行きますよ! リデル!」
「任せて。『神速』」
リデルに右手を掴まれた。
早い!? 『異世界人』の称号で、魔力だけじゃなく身体能力も上がっているはずなんだが、避けられなかった。
続いて正面からアイリス、左手側からティエルに抱きつかれる。
正攻法って、力づくで捕まえてるだけじゃねぇか!
鎧越しで感触は分からないが、美女3人に抱きつかれるのは全男性の憧れではないか。
しかし、僕にそんな余裕はない。
体に触れられていると転移ができない。
「観念してください。逃げられませんよ? カケル様?」
アイリスが僕の兜に手を伸ばす。
何とかならないか? イブ!?
『相手に危害を加えない方法なら、空間魔法『固定』をしようしてください。固定で3人を固定し、離れてから転移してはいかがですか?』
よし!早速、空間魔法『固定』で3人をその場に固定する。
イブ。僕が逃げた後、3人の固定を解除してあげてくれ。
「なっ!? 動けません!」
「私もです!これはあなたの力ですか!?」
僕は何も答えず、3人の拘束を解いて離れる。
ふう。ヤバかったが、転移で逃げるとしよう。
「待ってください! まだ…」
最後まで聞かず、僕は地球の自室に転移した。
「逃げられましたか。」
残念そうにアイリスがつぶやく。
「それより、ルミエールは大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。お姉様。先程の方のおかげで、病が治ったようで調子が良いです。お姉様が頼んで下さったのですか?」
「あなたの病気が治って本当に良かったです。あなたの治療は、直接は頼んでいません。先程の方に心当たりはありますが、あの方の善意でしょう。」
今回は逃げられてしまいましたが、また会うこともあるでしょう。
その時は、きちんとお礼を言わせて下さい。カケル様。




