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長男の約束

高校1年生になりました、天音雫です!

何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです!

風に乗り、再び目の前を舞った桜の花びらが視界に入る。


遠い昔、過去の記憶を彷徨っていた意識が現へと浮上した。


ーーーーあれから、8年が経った。


渚冬が人間界に渡ってからのあの8年は激動の日々だった。


こちらに来てすぐに渚冬は桐ヶ谷神社の神主になるため様々な事を行った。


結界を張り、呪いをかけ、塩をまき、神主として求められることの詳細を学んで1年が過ぎた。


そしてそこから3年あまりは本格的に神主として、そして修行もろくに受けないまま守護神として、桐ヶ谷神社で何の異常もなくこの街を守り続けた。


事件が起こったのは時雨夜から渡ってきて4年が経ったある冬の日だった。


渚冬は用があって桐ヶ谷神社を少し開けていた。


そして、帰ってきたとき、桐ヶ谷神社の紅い鳥居の向こう側に、


ーーー湊が、いた。


赤ん坊のままの姿の桜を胸に抱いて。


声を失った兄に弟は抱きつき泣き喚いた。


何故人間界へ行くことを言わなかったのか、どうしても玲瓏行きになったことを言わなかったのか、何故自分をおいていったのか。


渚冬を問い詰めどうして、どうしてと糾弾した。そして、その時渚冬は己がかけた呪文のせいで桜が4年間眠りっぱなしで時が止まっていたことを知った。


あの時の絶望感は今でも鮮明に覚えている。


『何とか症候群っていうのにかかっちゃったみたいでなぁ。4年間もやで!ホンマにびっくりしたわ』


ようやく泣き止んだ湊の言の葉一つ一つが耳に刻まれている。


本当は、違う。渚冬のかけた呪文のせいで桜の時は止まったのだ。


だけど、症候群のせいだと信じている湊にそんなこと、言えるわけがなかった。


桜を愛しそうに撫でている湊を見ていたあの瞬間、渚冬は己が地獄に落ちていくような感覚を味わった。


全て失敗したことを悟った、あの日。


唯一、ようやく泣き止んだ湊が嬉しそうに、突然変異が起きて、桜は水の権能ではなさそうだからどんな権能か楽しみだとそう言っていた、ほの言葉だけが渚冬にとっての朗報だった。


それ以外は全て救いようがなかった。


湊は勿論渚冬の事を覚えていた。


桜は湊の英才教育を受けて育ったらしく、湊に優しく抱かれながら笑顔で、


「なぁぎ、にー」


と手を伸ばす。


もう二度と会わないと誓ったのに。


それで家族を守れると分かっていたのに。


こうしていればまた家族を傷つけてしまう。でも、帰れ、なんて。もう会いに来るな、なんて。


言えなかった。口が裂けても。


そう言うことで守れるのに。


弱すぎる長男の心は弟妹を追い返し遠ざけることを拒んだ。


それからの4年間、湊と桜は毎日渚冬に会いに来た。


時雨夜から毎日人間界にある桐ヶ谷神社に通い詰めとりとめのない話をたくさんした。


牢に入れられていた2年と、人間界にいた4年間の合わせて6年間の空白を埋め合わせるように。


そうして、桜は6歳に、湊は17歳に、渚冬は20歳になり、桜も人間界デビューできる年になった。


ぬいぐるみになって人間に買ってもらうという異例のデビュー方法で、葵と瑠依に出会い、…………自分は死にかけた。


そしてこれからも、多分もっと色々な事が起こる。


「夕星」


そっとその名を呟く。


この8年、ずっと夕星の意識を取り戻す方法を探し続けた。それでも、未だに見つからない。


でも決して諦めない。


桜と違って夕星の時は止まっていないらしい。


今も治療士のもとで、20歳の姿になった夕星が意識を失ったまま渚冬を待っている。


諦めない。決して。


『守ってやれよ、長男』


夕星。自分は、守れているのだろうか。家族を。

大切な人達を。


自分の側にいることは、事故や事件などの物騒で、物理的な危険からは守れている気がする。


時雨夜でなく人間界で会うことで神々からの偏見や鋭い言葉も浴びずに済む。


守る。絶対に。夕星との大切な約束なのだから。


「おーい、渚冬君、元気かい?」


「ーーーー祐介さん。珍しいですね」


「そうかもなー。

そんなことより、神といえども随分危ないところにいるな?」


下からかかった声を聞き、渚冬は座っていた鳥居から身を乗り出した。


このタイミングでこの人が来るとは。


運命とは不思議なものだ。


「………少し、物思いにふけっていまして」


「へぇ、渚冬君も過去を振り返ったりするんだなー」


「それは、僕だって神ですから

しかも僕は人一倍ならぬ神一倍、色々な記憶や後悔がありますよ」


「渚冬君が言う後悔は言葉の重みが違うな。

暴走する恋心で掟を破った俺とは大違いだ」


頭を掻き、軽快に笑う祐介に自然と渚冬の、口元も、ほころんだ。


「迷惑かけるかもしれないけど、これからもこの街と俺達の家族をーー主に子供を、頼みます」


あのときと同じように頭を下げる祐介。


同じ神が、ここに来て願いを唱える他の人間と同じように手を合わせ頭を下げるのは何だか滑稽な気がする。


口元を着物の袖で、隠し軽妙に応じる。


「もちろん、お任せください。」


二人の間に柔らかな風が吹く。


穏やかな日々が、この人間界に流れる。


渚冬は澄み切った青い空を見上げて笑みを浮かべた。





ここまで読んでいただいた皆様、本当にありがとうござました!違和感を覚えたりするところも多かったと思いますが、少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです!

[ 修正点 ]

私のミスが今更発覚してしまったので、ここで修正させていただきます。”稲荷ぐるみは仮の姿です1“で、渚冬と湊を誤って双子の兄弟と記載してしまっていました。正しくは、年の離れている、普通の兄弟でした。

紛らわしくなってしまい、申し訳ありません。

もう一度、現在の稲荷家3人の年齢を下にまとめさせていただきます。

また、この事は近々投稿予定の“稲荷ぐるみは仮の姿です3”の後書きにも書かせて頂く予定です。


稲荷 渚冬  20歳

稲荷 湊   17歳

稲荷 桜   6歳( 実年齢10歳 )

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