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呪い

中学3年生、15歳の天音雫です。


何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです。



「…………桜」


今だにベビーベッドに寝かされ眠っている愛しい妹の髪に手を触れ、掠れた声でその名を呟く。


母にも湊にも知られぬよう、稲荷家にこっそりと忍び込んだ渚冬は、穏やかな顔で夢の中を揺蕩う桜を前にして固まっていた。


稲荷家周辺は、2年前と変わっていなかった。星彩の魔女の被害を免れたらしい。


渚冬はそのことに安堵した。


自分のせいで、家が破壊されていたら気が狂いそうな気がしていた。


桜は渚冬に気づかずに眠っている。


今がチャンスなのだ。


これからしようとしていることを思い、桜の髪に触れた手が無意識に震える。


だが、これは正しいことなんだと、渚冬は信じていた。


こうしなければ、桜は将来、きっと渚冬のせいで傷つく。


もう、誰も、傷つけたくない。


その思いが渚冬に呪文を唱えさせる。


呪文の途中で、桜の髪色が青色から淡いピンク色に変わっていくのを見て、胸が引き裂かれるような痛みが走る。


それでも呪文を紡ぐ。


今ならまだ間に合うから。


桜が水の権能だと知られれば、稲荷渚冬の妹だと知られれば、周りから忌み嫌われる存在になるだろう。


ーーーーただ、それだけの理由で。


代々受け継がれる権能があったとしても、稀に違う権能が発生することもある。


桜はまだ権能を使っていないはずだ。


権能を使えるのも、自分の権能を、知ることができるのも3歳からだ。


今、この呪文をかければ。


桜の権能を別のものに変えてしまえば。


桜の記憶から兄、稲荷渚冬の記憶がなければ。


稲荷渚冬を、赤の他人だと思って成長してくれれば。


きっと、いい未来に繫がる。


渚冬はそう信じている。


できれば湊にも同じことをしたい。


だが、湊はもう間に合わない。


もう水の権能が確定していて、渚冬の記憶も鮮明にある、はずだ。


水の権能を今更変えるのも、湊の記憶を呪文でどうにかするのも不可能だ。


記憶に至っては、時の流れが解決してくれるのを待つしかない。


「じゃあね、桜

ーーーー元気でね」


これからはもう一生会わない。


そう胸に誓い、そっとその場を後にした。


この時の渚冬は知らなかった。


渚冬がかけたこの呪文のせいで、桜の時を6年間止めてしまうことになるなんて。


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