白色と死の色
中学3年生、15歳の天音雫です。
何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです。
突如、鈴の音が二人の鼓膜を震わせた。
瞬き一つの間、目の前に一人の少年が頭を垂れてひざまずいていた。
夕星は慌てて渚冬の白髪をバスタオルで隠すように包み、渚冬も素早く涙を拭って冷気を解いた。
目の前に音もなく跪いた少年は銀髪に翡翠色の袴を身に纏い、他の神とは異なる独特なオーラを纏っていた。
「突然、申し訳ありません」
面をあげ、薄い緑色の瞳が二人を射抜く。
「祐月叉付近一帯に避難命令が出ています。」
言葉を失い硬直する二人を前に少年は落ち着いた、しかし焦りが滲む声色で、
「今すぐここから避難しなければ、
ーーーー命が危険です」
そう、爆弾発言をしたのだった。
「は、?避難ってどういうーーーー?」
「そのままの意味です。狼車はもう手配しています」
愕然とした声で問い返す夕星に、少年は指をパチンと鳴らす。
鈴の音一つと共に、2台の狼車が少年の後ろに現れ、避難の本気度を悟った夕星と渚冬は狼狽する。
「他の者は大半、既に狼車に乗り込み避難を開始しています」
少し低い声になり、
「庵家の皆様が夕星様のことを心配されていましたよ。」
「っ……は?!」
「何とか説得して避難させましたけどね」
己のせいで家族が避難していないかもしれないという恐怖で青ざめた夕星にあくまでも冷静な声で避難は終えていると伝える少年。
「そ、それは、よかっ、た…?」
「良くありませんよ、まだ夕星様と稲荷家の方々が避難抱きてないんですから」
目を見開きまだ状況がよく飲み込めてない渚冬と夕星にしびれを切らした少年がぴしゃりと告げる。
「このままでは僕が兄上の信頼を失います。
いえ、それは置いておいて………兎に角、時間がないんですよ。兄上によると、湊様は無事に人間界へと渡る道を走行中です。避難のことは知りませんが、問題ありません。そのほうが、幸運でもあるでしょう。」
静かに、だが早口に紡ぐ。
「ーーーー残るは、あなた、夕星様と、稲荷家一族の皆様だけですよ。少なくとも、避難勧告域にいるのは、の話ですけどね」
一気にまくし立て、立ち上がった少年の袴から少し見えた手首に白く細身の蛇が巻き付いているのを見て、渚冬はやっと気づいた。
「もしかして、執行人のーー?!」
「ーーーーの、弟の菜月ですね、はい。兄上は今湊様と一緒にいるので」
訂正をただし、軽く会釈する姿と、纏うオーラは間違いなく今年、蛇年の執行人のものだった。
「渚冬。何があったか分かんねえけど、執行人が来たってことは、結構……やばいと思う」
冷や汗を額に伝わせ、執行人を見つめたままの夕星の声に渚冬は一気に緊迫感を感じた。
「多分、かなり危ない。避難したほうが良い。多分、今すぐに」
「ご名答です。さすが、ご祖母様が執行人を勤めただけありますね。細かい事情は説明できませんが早く避難しなければ、この辺りは死に染まります」
死、その言葉に渚冬と夕星の間に深い戦慄が走った。
「渚冬!早く狼車に乗るぞ!」
「で、でも、母上は寝たきりでーーーーっ!!」
「っ、ならばお二人は先に狼車で避難を。お母様と桜様は僕が護衛し共に避難させます」
「で、でもっ!」
「行こうぜ、渚冬。このままここにいたら母さんにその髪色見られるぞ?」
食い下がる渚冬だったが小声で夕星に耳打ちされ、その可能性を考え、次は別の恐怖で足が竦んだ。
もし、母上に、桜に、この髪色が、この権能が、バレてしまったらーーーー?
顔面蒼白になる渚冬に夕星は突然手を向ける。
瞬間、渚冬の体が火だるまになった、かのように見えた。
「あっついっ!!!なにするの、夕星?!」
こんな時にと、涙目で抗議する渚冬に、
「お前の全身ビショビショにしちゃったからな。お湯っつっても冷えたら水出し避難するのにびしょ濡れはマズイだろ。ほら、逃げるぞ渚冬!!」
「だからって火だるまにしなくても……!!ちょ、ま、待ってよ!!!」
いい終わるや否や、渚冬の着物の袖を掴み、渚冬を半ば引きずりながら狼車の方に駆け出す。
渚冬は足をもつれさせながらかろうじて振り返り、
「母上と桜のこと、どうかお願いします!!」
「ーーーーもちろん、」
菜月は軽く会釈し答える。
「ーーーー白髪」
タオルの下、一瞬見えた髪に、思わずその言葉を小さく口の中に響かせた。
すぐに、忌まわしい記憶を振り払うかのように頭を振る。
そして菜月は、駆け出すようにして稲荷家の玄関へと向かうのだった。




