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色なき色

中学3年生15歳の天音雫です。


何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです。

家にある焔水晶を使えば、渚冬の居場所がわかるはずだ。


あの水晶は、誰かの安否を確認するうえでいつも役に立ってきた。


元はといえば、幼き頃の夕星がお転婆すぎてすぐにフラフラと何処かへ姿を消すため、迷子になって見つけられなくなることを防ぐためのものだったのだが。


「まさか俺が使うことになるとは……しかも、渚冬相手に」


軽口で不安を誤魔化し、ひたすら駆ける。


夕陽色の髪に、一粒、また一粒と雨滴が落ちる。


それはやがて本降りの雨となった。


「あーあ、時雨時に当たったか。

…………渚冬にあったら文句言わないとな」


時雨夜では、秋から初冬の夕方頃に毎日雨が降る。


この雨が人間界でいう”時雨“にかなり似ていることから、ここは”時雨夜“と名付けられたらしい。


最も、


「ちょっ、雨、雨が強すぎて痛てぇ………あられでも降ってんのかよ……」


人間界の”時雨“は小雨なのに対して、時雨夜で降る”時雨“はもはやスコールであった。


だからこそ、渚冬の、弟ーー湊は家に上がって、待っているように勧めてくれたのだ。


「よく出来た弟だな、本当。

そりゃ自慢したくなるよな」


水たまりを踏み、着物を、派手に塗らし、全身から水滴を滴らせながら走る。


数分で、夕星は自宅へと辿り着いた。


その数分が、命取りになることなんて、わかっていた。


乱暴に玄関の扉を開ける。反動で扉が、外れそうになるが気にもとめない。


家の中には誰もいなかった。


両親はどちらも仕事中だろう。


いつも帰ってくるのは時雨時が終わったあとなのだ。


濡れたまま家の中に入り、廊下を濡らしながら、焔水晶が置いてある部屋に向かう。


使い方は、簡単だ。


安否確認したい人の名前を唱え、ただ、強く願うだけ。


もどかしさで足をもつれさせながら部屋の扉を雑に開ける。


ひとつ、深呼吸をしてドアの目の前で立ち止まる。


外からは、静かに雨の音が聞こえてきていた。


焔水晶は、淡い夕陽色の光を放ち、部屋の真ん中の台の上に、堂々と鎮座していた。


部屋には焔水晶しかない。質素な部屋だが、庵家の他の部屋がごちゃごちゃしすぎているので、余計に物寂しく見える。


圧倒的な存在感を放つ焔水晶へと、近づく。


普段、使わぬようにと言われ続けている、それに近づく。


焔水晶は、スノードームのように炎の模様が一秒ごとに形を目まぐるしく変えていた。


美しく、神秘的な光景だが、夕星はそれどころではなかった。


夕星が気になるのは、ただ、渚冬の安否だけなのだ。


目の前に立つと焔水晶の今まで命を持つもののように動いていた炎模様は動きを止めた。

まるで、主人に命令されるのを待っているかのように。


これで渚冬が何処にいるのか、何をしているのか、あれが夢だったのか、全てが分かる。


賭けるしかなかった。夢であってくれ。水晶に、平和な日常風景が映ってくれ。


見たいはずなのに見たくない。


知ってしまうことへの怖さが夕星を躊躇わせていた。


それでも、


「手遅れに、なったら困る、からな………」


夕星は震える声を無理矢理押し出した。


夢でない可能性を完全に否定できないのなら確かめなければいけない。深く深く、息を吸って、


「渚冬を。稲荷 渚冬は何処にいるのか、見せてくれ」


一呼吸に、そう命令する。


その命令を聞いた瞬間、炎模様は一瞬で消え、無色透明に、次いでーーーーーー


「渚、冬………?」


焔水晶には、見知らぬ景色が映し出されていた。


漆黒の闇の中に、かろうじて木がたくさん立っているのが見える。…………どこかの森の中、だろうか。


焔水晶は、一人の影をズームして写していった。

小さな人影。頼りない足取り。


ーーーーそれは、渦巻く水を片手に、恐る恐る森の中を歩く渚冬だった。


無事であったことにほっとしたのも束の間、次いで映し出された光景に夕星は凍りついた。


「ーーーーーっ」


渚冬の周りが、白く、白く、染まっていく。


絵の具を上からぶちまけたように乱暴に、何者にも、染まらぬはずの黒が、色なき色の白に染められていく。


でも、その白は絵の具なんて優しいものではなくて。


それは、夕星がこの世界にいる間は、一番見たくないと思っていたーーーー


「逃げろ、なぎーーーーー!!」


咄嗟に、届かないのを分かっていながら、絶叫する。が、その名を呼び切るその前に、それは遮られる。


突如として焔水晶が真っ白になり、表面にヒビが入る。


焔水晶にはもう、何も映っていない。


「待っーーーーーー」


やめてくれ。渚冬を助けに行かなきゃいけないのに。


俺が、助けに行かなきゃ、あいつはこのままじゃ、死んでしまうかもしれない。


焔水晶に思わず片手を触れたその瞬間、凄まじい揺れが夕星を、庵家を、襲いかかり焔水晶が爆ぜた。


「ーーーーーーーは」


眼前、伸ばした手の先で粉々になった焔水晶がゆっくりと宙を舞う。


美しくもあるその光景に愕然としたその瞬間、


ーーー頭を強く殴られたような衝撃、視界が真っ黒に塗りつぶされ、夕星は意識を手放した。



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