迷い子さがし
中学生3年生15歳の天音雫です。
何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです。
「………なんだ、今の風?」
権能の上達方法の本を書架の床に体育座りをしながら読みふけっていた夕星は、突如として久遠書架全体を吹き抜けた風に小首をかしげていた。
室内であるこの書架に先程のような風が吹くことは滅多にない。
「うーん、何でだ……?いや、待てよ。」
本から目を上げ、虚空を睨みつけ考えこと3秒、
「はっ!ま、まさか……っ!」
本を手近な棚に乱暴に戻し、
「渚冬が何かやらかしたのかも……?!だとしたら俺の二の舞いになる前になんとかしないとな!友人として!!」
見当違いな方向と己の過去に思想を巡らせ広大な書架のなか、渚冬を見つけるために駆け出した。
「おーい、渚冬ーー!聞こえてんなら聞こえてるって返事してくれー!」
書架のなか、大声を出しながら走り回る姿は、渚冬がいれば、
「何やってるの、夕星っ、迷惑になるでしょ?」
とたしなめてくれるものだが、隣に渚冬がいない以上、彼は止まることを知らなかった。
しかし、止めてくれる神はいなくても、物理的なストッパーがかかる。
「おおーい、渚冬って、もう、書架の一番端まで着いた、のか……?渚冬のこと見つけてねぇのに…?」
焦りが夕星の心を満たす。
渚冬と、別れてから何分経ったんだ、と計算しようと試みるがそもそも来た時間も分からなければ今いる時間もわからない。
夕星の体感時間は5分だが、読書というものは魔法だ。
読んでいる者の時間の流れを以上に早くする。
夕星は一人頭を振った。
本を読んでいた自分の体感時間は信用できない。
ひとまず時間の問題は放置するしかない。
同じように渚冬も読書マジックにかかっているのならば問題ないことなのだから。
真の問題は、先程からこんなに大声で呼びながら書架の中を駆け巡っているのに、渚冬が見つからないということだ。
「…………俺のこと置いて帰ったとか?いやまさかな。あいつはそんなことするようなタイプじゃないよな……長男だし」
そう独りごちり、改めて自分の周囲を見渡す。
しかし、あの見慣れた青髪は何処にも見当たらない。
青い背表紙の本ならばいくらでもあるのだが。
「何処、行ったんだよ……」
冷や汗が滲む。今までこんなことは無かった。
夕星が行方不明、もしくは迷子になることはあっても、渚冬がそんなふうになったことは一度もない。むしろいつも探しに来てくれる側だ。
それが、今回は全く逆の立場となっていた。
額の冷や汗を拭い、バチン、と勢いよく己の頬を叩く。
「探す側ってこんなに大変なんだな。ちゃんと、感謝しないとだめだな。俺いつも渚冬にこんな思いさせてたのか」
困り顔で、やっと見つけたよ、何処行ってたのと言いながら迎えに来る渚冬の姿を思い出し密かにそんなことを胸に誓う。
しかし、そんな誓いも渚冬に、会えなければ果たすことは出来ない。
「よりにもよって、俺の全然知らない馬鹿広い場所で迷子探し……いや、俺が迷子なのか…?」
ふと浮かんだそんな考えに頭をかきむしる。
「いやっ、でも、俺の前からいつの間にかふらっといなくなってたのは渚冬だし、俺はずっと同じ場所にいたし……」
そんな言い訳を口にしながら夕星は来た道を今度はゆっくりと引き返す。
書棚に影という影、脚立の上、下、左右、更には上空まで、至る所に視線を巡らせるが、それでも渚冬は見つからない。
「いやっ、マジでどこ行きやがーーーー」
頭に手をやりながら走っていた夕星の眼の前、突如として、行く先を阻むかのように一人の男が、夕星の目の前に現れた。
「うおぁっ、危ねっ!渚ーー?」
衝突寸前で止まり、名前を呼びかけたが、すぐにその男が渚冬ではないことに気づく。
白い髪に白い着物、色素の薄い瞳、夕星よりも遥かに高い背丈。
ーーーー誰だ?
そんな疑問を言の葉にし、口から発するのに時間がかかりすぎた。
否、相手が早すぎたのだ。
夕星が何か言葉を発する前に、男はこちらに手のひらを向けた。その手のひらが淡い紫色に光っている。
マズイ。
本能的にそう感じた夕星は逃げようと一歩後ろへ下がった。
しかし遅かった。
それは一瞬だった。
目が眩むような紫の光が穿たれ、まさに光の速さで夕星に迫った。
その光景に思わず目をきつく閉じた夕星のその身体を、光は容赦なく貫き、
ーーーーそして、書架には風だけが吹き抜けた。




