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覇王

「建国?貴女、何言ってるんですの?」


「そのままの意味だよ。グレーランドにあたし達の国を造るんだ」


「はい?」


グレーランドは中世で止まっている

土地と労力があれば建国自体は可能だった


「ダメですわ!リスクが高すぎますの!」


「例えば?」


「生半可な戦力では近所の国に根こそぎ略奪されて終わりですの!捕まって犯し殺されるのは嫌ですわ〜!」


「因みに、君の祖国ってどれくらい強いの?」


「それはまあ、近隣諸国が団結してやっと外交らしい外交が出来る程度には力を持っていますわよ。何と言ってもチェニコフ王国騎士団、彼らの存在をちらつかせるだけで、付近の列強諸国ですら大人しくなりますので」


「そっか。それは良かった」


ジュピターはふと思った

グレーランドって、下手したらアンツールよりもチョロい?


「うん、多分大丈夫そうだわ」


「何でそうなるんですの!?」


そんな二人の元に、にやにやしながらゼルが歩いてきた


「へへ、良いんじゃねえの?作ってみようぜ!うちらだけの国!あんたにはそれが出来るんだろ?ツインドリル」


「誰がドリルですの!これは王家に伝わる由緒正しい髪形で、古くは先代王家のアンソニーラが…」


アイレーアの演説を流し聞きながら、ジュピターはグレーランドの地図を端末に購入した

ほぼ一文無しになったが、今のジュピターにはコインの有無など些細な問題でしか無い


(うーん…グレーランドには全然空き地が無いなぁ。適当な国征服するのが一番か)


ジュピターは地図を流し見る

と、手頃な場所に孤立している国を見つけた


(マールス王国…)


国土はそこそこだが、周囲を平野に囲われ他の国は見当たらない

まるでマールス王国を中心に円形のシールドが展開され、誰もそこに近付け無いかの様だった


(ここにしようかな)


不意に、ジュピターは耳鳴りと頭痛に襲われた

息が苦しくなり、とめどなく汗が出る

自分が今極度の緊張状態にある事に気付いたのは、発症からコンマ2秒後の事だった


「!?」


ジュピターはすぐさまその場から離れる


「ゼ…」


その名を呼ぼうとする

だが、四人は既に叩き切られ絶命していた


「…は?」


殺気

ジュピターが脊髄反射的に身を屈めると、大振りな刃が数ミリ上を通過する

彼女はその剣に見覚えがあった


手で地面をつき、足を振ってその反動で軽く飛び、何とかそれから距離を取る

今を逃したらもう二度と捉えられない

ジュピターはそんな焦燥に駆られ、すぐさま振り返り相手を視界に収めた


「余の国に何の用だ。コトリン」


「……………」


少女の体躯

大振りな剣

頭には冠


「…やあ、恐怖の大王アンゴルモア様」


「質問に答えろ。余の国に、何の用だと聞いている!」


アンゴルモアは怒っていた


「良い感じに孤立してたから、征服してあたし達の国にしようかなー…と」


「…ふ…」


アンゴルモアは剣を降ろす


「孤立?違う。奴らは怯えているだけなのだ」


「君に?」


「ああ」


アンゴルモアは王冠を外し、それを二つ目の剣に変え構える

前回の反省を活かしている


「民草は、余が護ると誓った」


アンゴルモアは剣を構える


「…?」


ふと、ジュピターはアンゴルモアの様子が前と違う事に気付く

肌が前よりも白く、ばさばさだった髪は幾分か整えられていた


「君、お化粧なんてしたんだ」


「おめかしばっちりでよろしくと貴様が言ったのだろう!!!!!」


次の瞬間、ジュピターの視界からアンゴルモアが消えた


「!?」


首に冷たい物を感じる

刃と同じ速度で体を傾けて行き、何とか重傷を避けた

だが、左耳がそぎ落とされてしまった


「っ…!」


刃が来た方を見るが、アンゴルモアは見つけられない

背後からの殺気

体勢を立て直す隙も無く、ジュピターはその体制のママ無理矢理前に飛び掛かった


羽織っていたウェアラブルパーカーが裂けた


(斬られる!間違いなくあと二手で仕留めるつもりだ!…だったら…!)


脇腹に冷たいものを感じた瞬間、そこがじんと痛む

次いで、本来あり得ない場所に異物が入り込んだ違和感が腹を襲い、激痛が反対側の脇腹まで広がる

突如下半身の感覚が無くなり、浮遊感、否、ジュピターは本当に切り飛ばされる


ジュピターは胴体から真っ二つにされていた


「っちぃ!」


アンゴルモアの、手を読まれた事に悔しがる声


「う…あがあああぐっ!?…があああ!」


頭が無事なので即死では無い

お陰で、ジュピターは漸く後輪を展開できた


「ブハ!アルガ!」


ジュピターは叫ぶと同時に地面に落ちる

アンゴルモアは追撃を加えようとしたが、自身の正面から振るわれる大槌を視認し、仕留めるのを断念する


その隙にアルガはジュピターの下半身を拾い、ブハとジュピターが居る場所まで走って行く

アンゴルモアは試しにアルガの頭に剣を投げてみたが、彼女の身体は水そのものなので通過するだけだった

剣は彼女が来ていたパーカーの、ポケットの中にあった携帯に突き刺さった


アルガがジュピターに身体をくっつけ、ブハが傷を治療する

今追撃するのは危険と判断したアンゴルモアは、投げた剣を拾い上げながら彼女の復帰の様子を見る


「転職、いや、白ナマコを屠り昇格したのか」


「お陰様でね…」


全快したジュピターは立ち上がる


「ねえアンゴルモア。今謝ったら許してくれるかな」


「否」


「ですよねー」


アルガの周囲に無数の磁界門が開き、そこから小型機械が出てくる

同時にアルガの身体に氷の鎧が形成されていき、小型機械が埋め込まれた氷塊を即席の機械武装に変える


今使える手持ちの中でまともな白兵戦ができるのはアルガだけだった


「確かアンタは言ってた。自分は第一次役職の剣士だって」


アンゴルモアを最強たらしめているのは純朴な戦闘技能

消える様に見えているのは、彼女が相手の視界から外れるのを得意としているから

つまり、戦わずにただ観測する者、観測者を防護する者、前線で戦う者、この三つを一人で揃える事が出来れば、ようやく対等に戦えるようになる


第五次役職だから強いわけでも、第一次役職だから弱い訳でも無い

結局、そこにあるのは力量の差だけなのだ


「はぁ!」


アンゴルモアは双剣で切りつける

アルガは盾でそれを阻み、氷槍でカウンターを図る


槍をかわしたと同時に、アンゴルモアはアルガの視界から消えた

ジュピターの目もそれを捉えられなかったが、ブハはなんとか彼女の動きを追えていた


ブハの目はジュピターの目であり、またアルガのでもある

アルガは、首を上に動かす時間を削って追撃をした


アンゴルモアは剣で槍を弾き、その反動を利用しアルガの背後、ジュピターとブハの前に辿り着く

間髪入れずに剣撃が飛ぶ

ジュピターは数歩後退し、攻撃はブハの大槌が弾いた


(大振りで高威力…だが速度は無い!)


アンゴルモアは更に二度攻撃する

武器で受けきれず、ブハの耐性が崩れた


「そこだ!」


剣がブハの胴体に入り、そのまま左肩へと"通過"した

ブハの身体は幽霊の様で、そこに実体は無い


流体のアルガ

霊体のブハ

コンマ一秒

アンゴルモアは、ジュピターが繰り出す化け物に共通する特性を見出した


「撃破不能…掻い潜って本体を叩けと言う事か」


「バレた?」


後隙にアルガのシールドアタックが刺さり、アンゴルモアは後方に弾き飛ばされる

其れに比例する様にジュピターも後退していく


距離を離せば、それだけ相手の行動が補足し易くなる

そんな考えの元だった


考えが甘かった


「!?」


アンゴルモアが居ない

距離を離した状態で消えられては、それだけ行動予測が困難となる


(しまった、完全に裏目に出た)


ブハに実体が無い事はもうバレている

このままでは、ジュピターの首は一秒以内に宙に舞う事になる

リアリティのある死の恐怖が、ジュピターの首筋を伝う


と、ジュピターの後輪の、赤いランプが光を取り戻した

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