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アザミはそのままの格好でも問題無かった説

阿国に流刑された55人は、2つのチームに分かれた

外に出て探索を行う攻略部隊と、地下鉄内で拠点整備を行う支援班


攻略部隊は当然、戦闘経験や優秀な役職を持つ者が担当する

魔物と戦う能力の無い貴族や重役達は、皮肉にも必然的に、支援班で雑務をこなす事となった


「クソッ…どうして朕がこんな…」


「まあまあゼウ伯爵殿。我々の地位があるのはひとえに民草のお陰。労働に身をやつす心持ちを体験するのも良い事では無いですか」


「ええい黙れグッペン男爵!貴様と朕とでは立場が違うのだよ立場が!」


度々巻き起こる貴族たちの喧嘩を聞きながら、アンデラは線路の壁を叩いて歩いていた

アンツールの公共建造物の殆どは、災害への備えとして無数の物資が隠されている


"ガコンッ!"


壁が倒れ、内側から大量の食糧が姿を現した

仕掛けが起動すると同時に、アンデラには10000コインが振り込まれる


(コインまで隠すなんて、昔の人は一体何に備えてたんだろう)


物音を聞きつけた人々が、仕掛け棚から食料を運び出していく


「よし、次行こう」


アンデラは再び線路を辿って歩き始める

ホームから離れるにつれて、段々と気温が高くなっていく


額に汗がにじむ様になってきたので、アンデラは引き返すことにした


「…?」


線路の先から何やら物音が聞こえる

もしかしたら魔物が入り込んだのかも知れない

アンデラは足音と気配を殺し、ゆっくりと線路を辿って行く


「クソッ!クソックソックソッ!何で開かねえんだよ!」


それは、先程まで意気揚々とオークションを仕切っていた司会だった

司会は線路を遮る様に現れた赤熱する岩壁を殴り続けている


アンデラは声を掛けようか迷う

相手はどう見てもまともな状態には見えない


「俺を誰だと思ってる!ファミリーカンパニーの最高幹部だぞ!あの頭のおかしなガキ…次会ったら覚えてろ!」


「………」


アンデラは進むことにした


「…私だって、プレイヤーなんだから」




一方、攻略部隊は阿国の特性を徐々に理解してきていた

魔物の強さは完全にまちまち

初心者用ダンジョンの雑魚敵程の戦闘力しかないものも居れば、超高難度レイドボスをも凌駕する化け物も居る

ただ、一様に火属性を司っているのと、こちらから攻撃を仕掛けるまでは全くの中立と言う点はどの個体にも共通していた


「おい、何だありゃ」


ファミリーカンパニーの壁ことダダリスは、遠くの方を指差す

廃墟化した寺社仏閣の向こうに、巨大な氷柱が立っていた


この環境においては明らかに不自然な構造物

暑さで滅入っていた事もあり、四人は直ぐにそこに向かった


氷柱を中心にスケートリンクの様な地面が広がっており、アザミはそこに正座していた

寒さでは無く、緊張と羞恥で縮こまり震えている


アザミは大胆なビキニ姿だった

いつもは縛っている髪は降ろし、頭には、水で出来ているかのように透明な花飾りを付けている

パンツの両腰の紐の部分から伸びる布は流水そのもの

水着は海の様な明るい藍色、質感も水の様である


本作戦を実行するのにおいて、熱や炎への耐性を持った装備が必要だったのだが、あいにくアザミのサイズに合う物はこれしか無かった


「貴女がガイドですか?」


「ふぃ!?」


いきなり声を掛けられ、アザミは驚きで変な声を出す

近付いてくる人間の気配が感知できなかったのはこれが初めてだ


「よ…よく来たな!プレイヤー諸君!(わらわ)…じゃなかった、私の元に辿り着くなんて凄いぞ!」


全く方向性の定まらない台詞を吐きながら、アザミはすぐ隣に置いてあった愛刀を持ち、立ち上がろうとして足が氷にくっついている事に気が付いた


(まずい…!)


人知れず大慌てなアザミの前に、攻略部隊のリーダーのザフが来る


「教えてください。貴女達の目的は…貴女達は何者なんですか?」


「何者…」


アザミには、そんな問いに対する答えを持ってはいなかった

何故なら本当に、特に何者でも無いからだ


「私の目的は、尋問だ」


「尋問?」


「幽閉した人々がどこの国籍か分からないと、どこに要求を送っていいか分からないだろう?」


「…何ですって?」


「彼女の目的はあくまでファミリーカンパニー。グレーランドの者達は、あくまでもカンパニーへ辿り着くための中間経路でしか無い」


「待ってくれ。つまり…」


「カンパニーの情報を差し出せ。さすればここから出してやろう。これが、私の提供する"ガイド"だ」


魔導士ベイゴールは額に手をあてる


「成程…この尋問は新しいですね。我々が、我々自身を人質に取られているなんて」


氷柱の先端が溶け崩れる

いくら在我聖君の氷と言えどそれは局所的な物で、阿国大帝の力で満たされたこの世界にあればいずれ溶け消える


氷柱に封じられていたものの目が、赤く光る


「二つに一つ。答えを出さなければいずれ皆死ぬ」


「………」


ザフはダダリスの方を見る

ダダリスはふぅと一つ息を吐くと、ザフに変わりアザミの前に立つ


「お前らは、本気でファミリーカンパニーに喧嘩を売ろうとしてるのか?」


「あやつはそのつもりらしい」


アザミがそう答えると、ダダリスは彼女の額に銃口を突き付けた


「俺はファミリーカンパニーの壁だ。例えここで差し違える事になろうとも、仲間を売り渡すような事はしない!」


「人身は売り捌いているのにか?」


「強者が弱者から搾取して何が悪い!俺達は群れる事で力を手に入れたんだ!搾取する為にな!」


「…それもまた良かろう」


氷が融ける


「秩序とは何か。正義とは何か。結局、力の強弱でしか無いと言うのなら」


現れたのは、武者鎧に身を包んだ六本腕の燃える骸骨

全ての腕に朽ちた刀を持っている


「振るう他あるまい」


アザミも立ち上がる


「正義は、暴力によってのみ履行されるのだから」




アンデラは、檻を鎖で引き釣りながら燃える世界を歩いて居る


「クソッ!ここから出せこのガキが!」


「………」


「聞いてるのか!商品の分際でこの俺を捕縛するなんて!この事をファミリーが知ったらお前はもう終わりだぞ!」


「うるさい!…はぁ…はぁ…ちょっと…黙って…」


目指すは氷柱

だが檻も司会も相当な重量で、それを運びながら煉獄を歩くのは、アンデラにとっては大変な重労働だった


アンデラは具合が悪くなる

氷柱はまだ先だ


「うぷっ…」


アンデラは、焼けた鉄板の様な地面に倒れる


「おいガキ、何してる。…おい起きろってんだ!クソッ冗談じゃねえぞ!せめて俺を此処から出してから死ね!おい!」


「…う…」


アンデラが焼けるじゅうと言う音がする


そんなアンデラに、優しい光が降り注ぐ

それを浴びたアンデラからは、次第に痛みや疲れが消え去って行った


「…?」


アンデラが起き上がると、そこには自分と同年代位の気弱そうな少女が居た


「あの…だ…大丈夫ですか?」


それは、流水のエフェクトがかかった明るい水色のスクール水着を着たシータだった




線路橋の上で止まった電車に座り、ジュピターは灰色の空で覆われた樹海をぼおっと眺めている

その傍らには、下半分が阿国に突っ込まれた、電源が入った無線機


『おいジュピター!こいつらの身元が分かったぞ!ジルジット共和国とチェニコフ王国の連中だった!地下鉄駅に乗り込んで軽く脅したら一発だったぜ!』


「ありがとうゼル。すっごく助かったよ。」


ゼルは当初の計画を全無視して動いていたが、結果オーライなのでよしとした


ジュピターは無線を引き抜き樹海に降り立つと、マップに従いチェニコフの領土を目指し始めた


道中幾度も魔物に出くわしたが、素手のジュピターに敵うものはいなかった


(あれ?今のってもしかして、魔物じゃ無くて鎧を着こんだ人間だった?…まいっか)




ジュピターは気にも留めなかったが、チェニコフ王国はそうは行かなかった


「騎士団長!大変です!」


木を基調とした質素な事務室に、部下の慌てた声が響く

デスクで居眠りをしていた黒髪黒ひげの大男は、たまらず目を覚ました


「どうした!」


「何者かが、国境樹海の魔物や巡回騎士を突破し本土へと迫ってきております!」


「なんだと!?」


騎士団長はすぐさま、詰所全域へ内戦放送を行う


『国境樹海にて領土侵犯が発生!迎撃部隊を編成する!総員、直ちに講堂に集合せよ!』

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