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態度と本性って意外と逆に出るものよ

「人違いじゃ…」


「今更そんなんで騙せると思ってんのか?コトリンクラブプレミアムメンバーファン舐めんなよ」


「………」


ジュピターは一つ大きく息を吐く

観念と、憂鬱と、自責の念だ


「そだよー。うちこそ、元オーメントピアいちの人気者、コトリンだよ。失望させちゃったかなぁ?」


「別に。あなただって一人の人間だ。好きに生きれば良いと思うぜ。でもよ、一つ不可解なんだ」


「…何?メトロポリスでの贅沢な暮らしを捨てて、こんな辺境に居ることが?」


「いや。あなたがコトリンを嫌ってる事さ。教えてくれよ。あなたにとって、コトリンとしての日々はそんなに辛いもんだったのか?」


「………」


一刻も早く、ゼルを拒絶したい

でも、ジュピターにはそれができなかった

ゼルは友達で、弟子で、何よりコトリンのファンだ


どうしたってジュピターは、ファンを拒む事ができなかった


「昔は本当に楽しかった。うちが居て、みんなが居る。それだけだった」


ジュピターは自身の掌に目を落とす


「いつからだろうね。うち、気付いちゃったんだ。みんなが見てるのはコトリンであって私じゃ無いって。そして思い出しちゃったんだよ。そういえばこれ、お金儲けの為に始めた事だったって」


「あなた…いや、あんたがそう言う仕事を選んだんだろ?別にこっちも、配信の中で言ってた事やってた事全部本心だとは思ってねーよ」


「…ある日、生き別れたパパと再会したんだ。私をアンツールに棄てたパパに」


「………」


「パパ言ったんだよ。我が娘よ、愛しているよ、行っておいで。って。パパは良い人になってくれたんだって、私心から嬉しくなった。パパの事を許そうとさえ思った。…パラゴンゲームで再開するまでは」


ジャヴァの一挙手一投足が、今でもはっきりと脳裏に焼き付いていた

どこまでも冷徹で、どこまでも合理主義で、どこまでも自己中な父親像。幼少の頃の記憶と直接繋がるジャヴァの人物像が、今でもまぶたの裏に焼き付いていた


「ダンジョンはその人の本性を曝け出す。…あそこで、私が見て、信じたとパパは演技だったって知っちゃったの。何だかそれが凄く悲しくて、でも同時にこうも思ったの。

自分も同じ事をしてるんじゃ無いかって」


ジュピターはやさぐれた笑みを浮かべる


「だってさ。見ての通り、本当の私はこんなにも取るに足らない人間なんだよ。なのにみんなを騙して、自分を良い風に見せて、いっぱいコインとか貰ちゃってさ。それってもう詐欺じゃん?」


「違う!」


「え?何が?」


ゼルは上の服をたくし上げる

美しく筋肉のついた腹にはへそが無く、脇腹にはファミリーカンパニーの焼印が刻まれていた


「うちはなぁ、奴隷だったんだよ。グレーランドから必死に逃げてきて、でもどうして良いかも解らなくて、そんな中あんたと出会った。

コインもアイテムも帰る場所も無いどん底で、死に場所を探して入った廃墟の中に、あんたのチャンネルをブクマしたまま放置された端末があったんだ。うち以上に非力なあんたが、コインの事だけ考えながら面白おかしく生きてく姿が、うちには眩しかった」


服を戻したゼルは、ジュピターの手をとる


「別にコトリンに戻れなんて言わない。でもよ、コトリンに救われた奴がここに一人居るんだよ。だから頼む、うちの大好きなコトリンを、自分がしてきた事を卑下するのはもうやめてくれないか!」


「………」


「あんたに気付いた時。うちは凄く嬉しかった。今まで共に飲み食いしてたのが、憧れの人そのものだったんだからさ」


「………」


「親父の事は同情する。でも、あんたと親父には決定的に違う点が一つある。その詐欺で、人を不幸にしてるか幸せにしてるかだ」


ジュピターの目に涙が滲む


「ファンだけじゃなくて、自分に優しくなっても良いんだぜ」


「……ゼル……あたし……」


「お前の事はまだ好きだ。ずっと好きだぜ。コトリン」


月の無い赤い夜空

二人が抱き合おうとした時だった


ドシャン!


付近の瓦礫が大きく崩れる


「こら、シータ!」

「ふええ…ご…ごめん…ネズミでびっくりしちゃって…」


ジュピターとゼルの様子を盗み見てたアザミとシータの隠密が解けてしまった


「テメエら…姿が見えねえと思ったらああああああ!」


「ひいいい!勘忍を!ゼル殿!ご勘忍をおおお!」

「ひやあああああああ!助けてえええええ!」


二人が逃げ、ゼルがそれを追いかける

三人のそんな賑やかな様子を見て、ジュピターの心の憂いはすっかり晴れてしまった


(はは、あたしったらほんと馬鹿ね。信頼できる仲間なら、ここに居るじゃん)


「ねえ、みんな」


ジュピターがそう言うと、3人のPVPがぴたりと止んだ


「あたしを組手で伏せた貴方達に、手伝って欲しい事があるの」


「おうよ!何でも言いやがれ!」


ゼルの快活な応答

安心したジュピターは、自らの計画を話す事にした


「ファミリーカンパニーを潰したいの」


「…はい?」


3人は顔を見合わせる

ファミリーカンパニーはグレーランドとアンツールをまたがって活動する、主に人身売買を専門に行う組織だ

メトロポリスでは確実に犯罪者集団たり得るが、犯罪を定義する法律が存在しない二所では、経済活動を行なっているだけまだましな組織、と言う評価である


アンツールの外では無秩序こそ秩序

好きな事をすれば良い

気に入らない物は壊せば良い

嫌いな奴は殺せば良い


ただし、持ち物を壊されても、気に入らないからと殺されても、決して文句は言えない

それがアンツールの掟だ


「…良いじゃん…」


ゼルが噛み潰すように呟く

自らの上着の脇腹の部分を引き千切り、焼印の入っている腹の肉を素手で掴み、抉り取り投げ捨てる

辺りは当然血の海

肋骨が少し露出する始末だ


「ひやあああああ!ゼルが壊れたああああああ!」


「ゼル殿!何を!?」


「シータ!ここ直せ!」


血を吐きながらゼルが言う

シータが震える手でゼルの自傷跡に治療魔法を施すと、傷は完治、はしなかった


「う…ごめんなさい…魔力がもう…」


一応傷が塞がりはしたが、肉や皮がいびつな再生途中で止まっていた

だが、それで良かった

もう焼印が無いからだ


「ふぅ…ふぅ…はううう…」

「はぁ…はぁ…はぁ…ふぅ…シータ…覗きの件はこれで許してやる」


ゼルはそう言って、よろよろとジュピターの方へと歩いていった


「済まねえ…ファミリーはうちの悪夢そのものだ…これくらいしねーと気合入んねーと思ってよ…」


ゼルは、ジュピターの鳩尾に軽く拳を当てる


「勿論手伝うぜ。師匠。お前らはどうする…」


アザミはゼルとシータを交互に見る

シータは疲弊しながらも、アザミに真っ直ぐな視線を返した


「私も手伝おう」


「多分…お留守番するよりもゼルと一緒に戦場に居た方が安全だよね?」


「決まりだな」


ゼルはジュピターに目を合わせる

すると、ジュピターはポケットから件のメモ帳を取り出した


「策があるの。あいつらを一掃できる、とっておきのがね」

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