戦うかどうかなんてあたしの勝手
オーメントピアでは力こそ全て
赤子でも知る常識
ニュータウンの新たなリーダーをPVPで決めるとなった時も、異論は一切出なかった
天が明るい青空に染まる
ニュータウンを中心に発生した、街一つを飲み込む結界だ
『目的地周辺です。開始時間まで暫くお待ち下さい』
ジュピターが案内されたのは、パイプ椅子が一つあるだけの路地裏
せっかく空は明るいのに、ここは薄暗かった
『試合開始と同時に、結界が収縮を始めます。結界の壁面に触れたらゲームオーバー。最後の一人になればクリアです。
注意:本ゲームはみなみニュータウン様全面提供であり、公式のパラゴンゲームではありません。報酬や詳しいルールについては、大会主催者様にお問い合わせ下さい』
「パラゴンシステムを借りれるなんて、アンツールにしては随分とお金持ちな組織なんだね」
ジュピターは古びたパイプ椅子に座り、身を逸らして背もたれによっかかりきり空を見上げる
パラゴンの張る結界は、昼夜を逆転させた景色を投影する
日の登らないアンツールでは明るくなり、決して日が沈みきらないグレーランドでは夜に
まともな昼夜が存在するメトロポリスでは、そもそも結界が張られてるとこを見た事無い
『それではゲームを開始します。皆様のご健闘をお祈り致します』
「AIの分際で、祈る神も居ない癖に」
ジュピターは携帯を取り出し、地図を確認する
結界の情報も記載されており、やはり体育館に向かって縮小しているらしかった
遠巻きに、早速戦いの音が聞こえる
(どう考えても体育館に直で向かった方が良いよね)
ジュピターは携帯をしまうと、2秒で考えた攻略法を実行に移すべく出発した
攻略は驚くほど順調だった
アンツールの荒くれ者は皆、他人を脱落させる事しか考えない
「勝てば良いのに…真面目な人達ね」
体育館が目と鼻の先に見えるマンションを見つけ、ジュピターはその中に入って行く
立ち入り禁止を跨ぎ、屋上から体育館周辺の様子を眺める
敷地の内外で大乱闘が勃発していた
「驚いたなぁ。まさか俺と同じ事を考える奴がいるなんて」
背後からの声
ジュピターが振り返ると、そこにはポロシャツとジャージの男が居た
彼女を無理矢理ニュータウンに引き入れた男だ
「どうも。誘拐犯のDQNさん」
「ボスに献上するつもりが、まさかボスの方が変わる事になるなんてな」
誘拐犯のDQNが手を差し伸べる
「俺はデイビット。ニュータウンの副リーダーだ。よろしくな」
「………」
「まあ状況が状況だからな。警戒して当たり前、てか正解だ」
デイビットは両手を頭の後ろに回す
「ジュピター」
「え?」
「ジュピターって呼んで」
「嬉しいねぇ。ジュピターちゃん。俺の事を憎んでると思ったのに」
「他に行くとこ無いもの。でも献上されるのは嫌だから、自分がトップになろうと思…」
「誰だ?」
「?」
「ファミリーカンパニーには誰が居る」
「…居ないよ」
「おっと。読みを外しちまった。じゃあもしかして、ハッピーデイ目当てか?」
「それも違う」
「降参だ。目的は何かな?」
「買い物がしたい」
「はえ?」
「ファミリーカンパニーで買い物がしたい。それにはそれ相応の立場が無きゃ」
「…ップ…」
デイビッドは腹を抱えて笑いだした
「っはっはっはっはっはっはっはっはっは!はーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!マジかよお前!ナリの割に随分とくれーんだな!はっはっはっはっは!」
デイビットはひとしきり笑った後、呼吸を整え話を続ける
「…正気かよ、お前」
「うん」
「あそこが何を売ってるのか知ってるのか?」
「うん」
「……………」
デイビットはポケットからメモ帳を取り出し、とある住所を走り書いてから、それを再びポケットにしまう
「買ってどうする」
「仲間を増やす。あたしに絶対逆らえない仲間が欲しいの」
「そんな理由でファミリーカンパニーを使うのか。お前は他人を毛ほども信用できない性格みたいだな」
「うん」
ジュピターは、右手だけをポケットから出す
「裏切られるのはもう、沢山なの」
ジュピターは一歩踏み出した
少なくとも、デイビットにはそう見えた
だが次の瞬間にはもう、デイビットのすぐ横にジュピターが居た
「へぇ」
デイビットは、諦めた様にどこか遠くを見つめる
「もしかしてだけどさ、クロハチを殺したのって…」
「ラストヒットは譲った」
「へへ、そうか」
赤が飛ぶ
後に残ったのは両腕を真っ赤に染めたジュピターと、半身を抉られるようにして絶命しているデイビットだけだった
(よかった。少し汚れちゃったけど、何とか読めそう)
ジュピターはメモをしまうと、体育館とは反対方向に向けて歩き出した




